全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ
ただ1人の私として
「えっ?」
自嘲の言葉を漏らし、暗い笑みを浮かべて俯いていたルクスリアだが、ルミナリエの突然の罵倒に、思わずといった様子で顔を上げる。
「……アホ、マヌケ、アンポンタン」
「あの……姫様?」
しかし、ルクスリアが驚いたのは、ルミナリエに罵られたから……では無いと思う。
きっと、今にも泣き出しそうな、ルミナリエの悲しげな声音に困惑したからだろう。
「……変態、覗き魔、ツルツルぺったん」
「もはや、ただの悪口じゃないですか! 少なくとも今回の件には関係ないでしょう!」
とはいえ、流石に黙って看過できる限界を超えたのか、ルミナリエに激しくツッコんだ。
そして、すぐさまハッとしたように口を押さえる。
どうやら、先程のツッコミは、つい反射的に無意識で動いた結果らしく、ルクスリア的には失態だったようだ。
だけど、そんなルクスリアを見つめる、ルミナリエの顔は、むしろ綻んでいた。
「……やっと、いつものルクスリアに戻って来た」
「姫様……」
どうやら、さっきの罵倒ラッシュは、ルクスリアを元気づけようという、ルミナリエの気遣いだったらしい。
流石に長い付き合いだけあって、ルクスリアの扱い方を心得ているな。
そして、儚げな笑みを浮かべたまま、ルミナリエは言葉を紡ぐ。
「……ルクスリアが、その期待を私の前で口にした事は無かったけど、別に聞かなくてもハッキリと伝わってた。でも、私は、ルクスリアの事を家族のように思ってる。そんな相手から向けられる期待は、名前も知らない【誰か】の期待と違って心地よかった。魔王の娘として、だけじゃなく、ただ1人のルクスリアとして、私を見てくれていたから。ルクスリアに、もっと褒められたい、もっと成長した私を見て貰いたいって思った。それが私の向上心を支える柱の1つになっていた。……けど、それは、私の都合の良い妄想だった?」
どこか怯えているような、それでいて甘えているような、そんな声音と表情で尋ねられて否を返せる者が、この世界に、どれだけいるだろうか。
当然、ルクスリアには不可能だった。
溢れる想いを堪えきれぬとばかりに、ルミナリエを抱きしめ、心の内から絞り出すように思いの丈を叫ぶ。
「そんな事はありません! 私は血によって受け継がれた魔力や才能だけでなく、姫様自身が培ったものを確かに肌で感じていました! 魔法を極めんとする飽くなき情熱を、強さに溺れない誇りを、どんな困難にも折れぬ信念を! だからこそ、魔王様だけでなく、貴方にも心から仕えたいと思ったのです! ……そして、同時に、私自身も姫様の事を血の繋がった家族のように、お慕いしております」
「……それなら、なんの問題もない。ルクスリアは私を見て、私を愛し、私に期待してくれていただけ。そこには何の罪もありはしない」
「姫様……。姫様ぁっ!」
「……よしよし」
とうとう泣き出してしまったルクスリアを、優しく宥めるルミナリエ。
そんな家族の営みを、俺は羨ましく思いながらも静かに見つめていた。
自嘲の言葉を漏らし、暗い笑みを浮かべて俯いていたルクスリアだが、ルミナリエの突然の罵倒に、思わずといった様子で顔を上げる。
「……アホ、マヌケ、アンポンタン」
「あの……姫様?」
しかし、ルクスリアが驚いたのは、ルミナリエに罵られたから……では無いと思う。
きっと、今にも泣き出しそうな、ルミナリエの悲しげな声音に困惑したからだろう。
「……変態、覗き魔、ツルツルぺったん」
「もはや、ただの悪口じゃないですか! 少なくとも今回の件には関係ないでしょう!」
とはいえ、流石に黙って看過できる限界を超えたのか、ルミナリエに激しくツッコんだ。
そして、すぐさまハッとしたように口を押さえる。
どうやら、先程のツッコミは、つい反射的に無意識で動いた結果らしく、ルクスリア的には失態だったようだ。
だけど、そんなルクスリアを見つめる、ルミナリエの顔は、むしろ綻んでいた。
「……やっと、いつものルクスリアに戻って来た」
「姫様……」
どうやら、さっきの罵倒ラッシュは、ルクスリアを元気づけようという、ルミナリエの気遣いだったらしい。
流石に長い付き合いだけあって、ルクスリアの扱い方を心得ているな。
そして、儚げな笑みを浮かべたまま、ルミナリエは言葉を紡ぐ。
「……ルクスリアが、その期待を私の前で口にした事は無かったけど、別に聞かなくてもハッキリと伝わってた。でも、私は、ルクスリアの事を家族のように思ってる。そんな相手から向けられる期待は、名前も知らない【誰か】の期待と違って心地よかった。魔王の娘として、だけじゃなく、ただ1人のルクスリアとして、私を見てくれていたから。ルクスリアに、もっと褒められたい、もっと成長した私を見て貰いたいって思った。それが私の向上心を支える柱の1つになっていた。……けど、それは、私の都合の良い妄想だった?」
どこか怯えているような、それでいて甘えているような、そんな声音と表情で尋ねられて否を返せる者が、この世界に、どれだけいるだろうか。
当然、ルクスリアには不可能だった。
溢れる想いを堪えきれぬとばかりに、ルミナリエを抱きしめ、心の内から絞り出すように思いの丈を叫ぶ。
「そんな事はありません! 私は血によって受け継がれた魔力や才能だけでなく、姫様自身が培ったものを確かに肌で感じていました! 魔法を極めんとする飽くなき情熱を、強さに溺れない誇りを、どんな困難にも折れぬ信念を! だからこそ、魔王様だけでなく、貴方にも心から仕えたいと思ったのです! ……そして、同時に、私自身も姫様の事を血の繋がった家族のように、お慕いしております」
「……それなら、なんの問題もない。ルクスリアは私を見て、私を愛し、私に期待してくれていただけ。そこには何の罪もありはしない」
「姫様……。姫様ぁっ!」
「……よしよし」
とうとう泣き出してしまったルクスリアを、優しく宥めるルミナリエ。
そんな家族の営みを、俺は羨ましく思いながらも静かに見つめていた。
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