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全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ

雪月 桜

光と影

「シルクさん、ありがとうございます。あの子を見捨てないでくれて」

やっぱり考え直したい、と制止するひまもなく、思念魔法で交信し始めてしまったルクスリア。

そんな彼女と入れ替わりで、アイネが話し掛けてきて、ペコリと頭を下げられた。

だから……という訳でも無いけど、今からでも強引に割り込むべきかと思案していた俺は迷いを断ち切り、流れに身を任せる事に決めた。

なかば、“なるようになれ!”という、ヤケクソな気分で。

「気にしなくて良いぞ。アイツを切り捨てるのは簡単だけど、それじゃあ何も解決しないと思っただけだからな。それに、俺が口を出さなくても、最終的には魔王が何とかしただろうし」

「確かに、それはそうかも知れません。でも私は、シルクさんが真っ先に提案してくれた、という事に意味があると思うんです。同族のルクスリアさんでもなく、トップである魔王様でもなく、人間のシルクさんが自ら率先して彼女を救おうとした。人間だとか、魔族だとか、そんな事にとらわれずに、当たり前に手を差し伸べる。そんな人が居てくれた事が、どうしようもなく嬉しくて、誇らしかったんです」

聞いてる俺の方が恥ずかしくなるような、ド直球の賛辞さんじだった。

オマケに、それを口にしたアイネは、目がくらむような満面の笑みを浮かべているのだ。

照れくさいやら何やらで、居心地が悪い事この上ない。

「――シルクさん、確認が取れましたよ。『それほどしご甲斐がいのありそうな小娘は久しぶりだ』と張り切っていました。しばらくは彼女の元で訓練にはげみ、一定の基準を超えた所で私の部隊に配属される事となります。とはいえ、まだ本人の意思も確認していませんし、こちらの求めるレベルに到達できるかも未知数ですが。……って、どうかしましたか?」

「い、いや。何でもない」

「……?」

さいわいなことに、ルクスリアが良いタイミングで戻って来てくれたので、不自然な沈黙が続く事は無かった。

ただし、やたら上機嫌なアイネと、挙動不審な俺を交互に見つめたルクスリアから、怪訝けげんそうな眼差まなざしを向けられる事になってしまったけど。

「そういえば、アイネって、魔界までは船で来たのか? だとしたら結構な長旅だったろ?」

微妙な空気を入れ替えるためとはいえ、かなり強引な話題の転換になってしまった。

まぁ、気になっていたのは事実だし、ヴェノからも頼まれていた事だからな。

ルクスリアからも、特にツッコミは入らなかった。

「あー、えっと、実は婆様ばばさまに送ってもらったんですけど、詳しい方法は口止めされていて。その、里の秘術に関わる事なので……。で、でも入国手続きは正式に済ませましたから!」

「別に、そこは疑ってないから安心しろって。……それにしても、里の秘術か。例の【羽衣はごろも】とかいう魔法といい、アイネの故郷は中々に興味深い場所みたいだな」

「あはは……。ありがとうございます。出来れば、ルナちゃん達も含めて招待したいんですけど、間違いなく許可は降りないと想います。かなり閉鎖的な里なので」

「そうか、それは残念だな」

……本当に残念だ。

アイネの証言から、彼女だけ無事に辿たどり着けた理由が分かるかと思ってたのに。

それに、どうやら、アイネに対する警戒レベルを引き上げる必要がありそうだし。

厳密に言うと彼女の故郷に対して……だけどな。

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