全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ

雪月 桜

張り巡らされた導火線

「……分かりました。一応、魔王様に確認を取るので少しだけ、お待ちを。…………はい、許可が降りましたよ」

「展開が早いな、おい!」

許可も取らずに勝手に話そうとした俺が言うのも何だけど、そんな簡単に話して良いもんなのか?

「シルクさんが必要だと判断したなら問題ないとの事です。……良かったですね、魔王様のすみ付きですよ?」

うわぁ……すごく綺麗な笑顔なのに、直視してると何故だか震えが止まんねぇ。

……まぁ、何故も何も、こんだけ分かりやすく嫉妬しっとされてたら居心地いごこちが悪くて当然なんだけどさ。

とはいえ、魔王から寄せられる信頼なら、コイツの方が、ずっと強いだろうに。

それだけ独占欲が強いという事なのか、あるいは意外と自分に自信が無いのか。

どちらにしろ、そんな事を口に出したら何をされるか分かったもんじゃないから、絶対に言わないけどな。

「なら遠慮えんりょなく話すとしよう。さて、アイネ。突然だけど、魔族が人間界で罪を犯した場合、どうなるか知ってるか?」

未だに素敵な笑みを向けてくる、ルクスリアから顔をらして、アイネに向き直る。

すると視界の外から、なにやら不満げな気配がただよってきたが、全力で無視。

下手に反応すると余計にからまれるからな。

ここは気付かないフリで押し通すまでだ。

「えっと……確か、人間界でさばかれるんですよね? 魔族が人間界に入る際には、そのむねが記載された同意書にサインする必要があったはずです。また、人間が魔界に入る時も同様ですね」

さいわい、アイネはで異変に気付かなかったようで、スラスラと質問に答えてくれた。

そして、その様子を見て、望んだリアクションは得られないとあきらめたのか、外野ルクスリアからの無言の圧力が消える。

なので、心置きなく会話に専念させてもらう。

「その通りだ。ところで、そんな決まりになっている理由は何故だと思う? 魔族が罪を犯したなら魔界で裁くのが自然じゃないか?」

「それは……人間と魔族で価値観や法律が異なるから、です。仮に、魔界の法律が殺人を容認するものであった場合、魔族が人間界で殺人を犯しても裁かれる事がありません。そういった事態を防ぐために、事件が起きた国の法律で裁かれる決まりになっている、と教わりました。後は同族に対する過度な温情判決を防ぐ意味合いもあるとか」

「良く勉強してるな。……ちなみに、そういう知識は誰から教わったんだ?」

婆様ばばさまですよ? 私の故郷の里には学校がありませんでしたし、他所よその学校に通おうにも、里の出入りは厳しく制限されてますからね。私以外の子供達も皆、婆様から勉強を教わるんですよ」 

……なるほどな。

さぐりを入れたのは、あくまで話のついでだったんだけど、思った以上の収穫があった。

とはいえ、あまり好ましい情報では無いんだけどさ。

ただでさえ、あちこちで面倒な事件が起きているというのに、また厄介な火種ひだねを発見してしまった気分だ。

ある程度、予想していた事とはいえ、魔王学園を取り巻く環境は、相当きな臭いものになっているらしい。

「そうなのか。まぁ、別に改めて法律の講義をしようって訳じゃない。今は人間界で罪を犯したら、人間界で裁かれるという事さえ分かっていれば良いぞ。それじゃあ、ここからが本題だ。……実は、例の魔族の少女――、その父親が人間を殺害した罪で人間界に幽閉ゆうへいされている」

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