全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ
理想と現実
「強いな、アイネは」
「……そんな事ありません。むしろ力不足という現実を突き付けられる事の方が多いです。ただ、それでも諦めたくない夢があるから、必死に足掻いてるだけですよ」
そう言って苦笑するアイネの顔に、ほんの少しだけ影が差した気がした。
彼女は意外と本心を隠すのが上手い、それは既に体感済みだ。
にも拘らず、今の変化は俺でも気付けるものだった。
つまりは、それだけ強く思う所がある、という事か。
もしかしたら、その夢とやらを抱いた切っ掛けが、何かしらの暗い過去に由来するものなのかも知れないな。
力不足という現実を突き付けられる事が多いとか、意味深な事も言ってたし。
「その夢ってのは、“いつか奪い合うための争いが無くなった世界を作りたい”って奴か?」
「……もう、シルクさんってば。あの話まで盗み聞きしてたんですね?」
「あははっ、悪い悪い」
ぶっくりと頬を膨らませて、分かりやすく不機嫌をアピールしてくるアイネだけど、正直ぜんぜん怖くないな。
むしろ、リスみたいで可愛らしいし、なんなら微笑ましいとすら思う。
そもそも、本気で怒っているようには見えないしな。
「……まぁ、良いですけど。本気で聞かれたくない内容なら、あんな開けた森の中で話しませんから。むしろ、話を聞かれた事よりも、盗聴という行為そのものについて物申したいです。私だから、こんな簡単に許してますけど、他の女の子にまで同じ事してると普通に嫌われますからね?」
「分かった。今度からはバレないように気を付ける」
個人的には嫌われても別に気にしないけど、校医という立場で信頼を失うと、仕事に支障が出るからな。
たとえ回復魔法だろうと、警戒してる相手に干渉されると無意識に抵抗してしまうものだし、そうなると治療の効果や効率が大きく下がる。
最悪の場合、それが理由でクビになりかねないし。
「気を付ける所が間違ってます……」
「仕方ありませんよ、アイネさん。シルクさんは、こういう人なのです。ですが、本気で嫌になった時は遠慮なく教えて下さい。魔王様に進言して、お仕置きして頂きますから」
ルクスリアの脅しに、思わず身体がビクッと反応する。
「おいおい、勘弁してくれ。そんな事より、今はアイネの夢の話だろ?」
というか、俺だって仕事に関係ない所で盗聴なんてするつもりは無いぞ。
あれは、あくまでも試験監督の一環として行ったまでだ。
「そもそも、シルクさんが原因で脱線したんですけど……。えっと、それで私の夢でしたね。確かに、私の夢は奪い合うための争いを無くす事です。そして、いつか魔族も人間も関係なく、皆が平穏に暮らせる世界を作りたい。そのために、私は魔王学園に来たんですから」
強い決意を秘めた瞳で、こちらを見つめるアイネ。
その真っ直ぐな視線には、僅かな揺らぎも見られない。
「なるほどな。……だったら、あの事についても話しておいた方が良いか。実は例の魔族の少女について、分かった事があるんだ」
「……盗聴マニアのシルクさんに聞いた所で無駄かも知れませんが、プライバシーという言葉は御存知ですか?」
俺の話を遮るように、ルクスリアが口を挟む。
「誰が盗聴マニアだ、こら。それくらいは勿論《もちろん、知ってるよ。だけど、アイネは人間だというだけの理由で、理不尽な敵意を向けられて、実際に殺されかけた当事者だ。そうなった経緯を知る権利くらいはあるだろ? それに、いずれ魔族と人間の垣根を超えるなら、知っておくべきじゃないか? 今の両者を隔てる壁と、彼女が唯の狂人じゃなかったという事実を」
「……そんな事ありません。むしろ力不足という現実を突き付けられる事の方が多いです。ただ、それでも諦めたくない夢があるから、必死に足掻いてるだけですよ」
そう言って苦笑するアイネの顔に、ほんの少しだけ影が差した気がした。
彼女は意外と本心を隠すのが上手い、それは既に体感済みだ。
にも拘らず、今の変化は俺でも気付けるものだった。
つまりは、それだけ強く思う所がある、という事か。
もしかしたら、その夢とやらを抱いた切っ掛けが、何かしらの暗い過去に由来するものなのかも知れないな。
力不足という現実を突き付けられる事が多いとか、意味深な事も言ってたし。
「その夢ってのは、“いつか奪い合うための争いが無くなった世界を作りたい”って奴か?」
「……もう、シルクさんってば。あの話まで盗み聞きしてたんですね?」
「あははっ、悪い悪い」
ぶっくりと頬を膨らませて、分かりやすく不機嫌をアピールしてくるアイネだけど、正直ぜんぜん怖くないな。
むしろ、リスみたいで可愛らしいし、なんなら微笑ましいとすら思う。
そもそも、本気で怒っているようには見えないしな。
「……まぁ、良いですけど。本気で聞かれたくない内容なら、あんな開けた森の中で話しませんから。むしろ、話を聞かれた事よりも、盗聴という行為そのものについて物申したいです。私だから、こんな簡単に許してますけど、他の女の子にまで同じ事してると普通に嫌われますからね?」
「分かった。今度からはバレないように気を付ける」
個人的には嫌われても別に気にしないけど、校医という立場で信頼を失うと、仕事に支障が出るからな。
たとえ回復魔法だろうと、警戒してる相手に干渉されると無意識に抵抗してしまうものだし、そうなると治療の効果や効率が大きく下がる。
最悪の場合、それが理由でクビになりかねないし。
「気を付ける所が間違ってます……」
「仕方ありませんよ、アイネさん。シルクさんは、こういう人なのです。ですが、本気で嫌になった時は遠慮なく教えて下さい。魔王様に進言して、お仕置きして頂きますから」
ルクスリアの脅しに、思わず身体がビクッと反応する。
「おいおい、勘弁してくれ。そんな事より、今はアイネの夢の話だろ?」
というか、俺だって仕事に関係ない所で盗聴なんてするつもりは無いぞ。
あれは、あくまでも試験監督の一環として行ったまでだ。
「そもそも、シルクさんが原因で脱線したんですけど……。えっと、それで私の夢でしたね。確かに、私の夢は奪い合うための争いを無くす事です。そして、いつか魔族も人間も関係なく、皆が平穏に暮らせる世界を作りたい。そのために、私は魔王学園に来たんですから」
強い決意を秘めた瞳で、こちらを見つめるアイネ。
その真っ直ぐな視線には、僅かな揺らぎも見られない。
「なるほどな。……だったら、あの事についても話しておいた方が良いか。実は例の魔族の少女について、分かった事があるんだ」
「……盗聴マニアのシルクさんに聞いた所で無駄かも知れませんが、プライバシーという言葉は御存知ですか?」
俺の話を遮るように、ルクスリアが口を挟む。
「誰が盗聴マニアだ、こら。それくらいは勿論《もちろん、知ってるよ。だけど、アイネは人間だというだけの理由で、理不尽な敵意を向けられて、実際に殺されかけた当事者だ。そうなった経緯を知る権利くらいはあるだろ? それに、いずれ魔族と人間の垣根を超えるなら、知っておくべきじゃないか? 今の両者を隔てる壁と、彼女が唯の狂人じゃなかったという事実を」
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