全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ
とある魔族の後日談
「あっ! そういえば、ずっと気になってたんですけど、あの魔族の女の子は、どうなったんですか!? あと、一緒に居た男の子もっ。二人とも、1次試験が終わってから姿が見えないんですけど!」
ルクスリアとの駆け引きに区切りがついた直後、突然アイネが大声を上げて詰め寄ってきた。
今にも胸元に掴み掛かって来そうな必死の剣幕は、二人の身を心から案じている証拠だろう。
まぁ、その割には今の今まで忘れていた、という様子だけど、そこを指摘するのは意地が悪いか。
俺達が来る前から色々とゴタついていたみたいだし、意識が逸れるのも無理は無い。
「ひとまず落ち着け。二人とも酷く衰弱してたけど、命に別状は無いから。今頃は他の怪我人と一緒に保健室で休んでるよ。1次試験の時にも居たミラノ教官の監視付きで。ただし、ソイツらは全員、2次試験に進めなかったから、この後すぐに帰る事になってるけどな」
この辺の事情は、学園長室で話している時に、ミラノから思念魔法で聞いた。
もちろん、俺ではなくルクスリアが。
なので、正確に言うと又聞きの又聞きという事になるけど、そこまで説明する必要は無いだろう。
「そう……ですか」
肩を落として、何かを噛み締めるように呟いたのは、大事になっていなかったという安堵からか、それとも、後味の悪い結末を迎えた無念ゆえか。
少なくとも、その表情は複雑な心境を如実に表していて、心の内をハッキリと読み取ることが出来なかった。
「ちなみに、魔族の少年から、ミラノ経由で伝言を預かってる。聞くかどうかは、お前の自由だけど――」
「聞きたいです!」
俺のセリフを受けて間髪入れずに……というか、もはや食い破って、アイネが伝言を要求する。
俺としても、聞いた方が良い内容だと思っていたから、もし気が進まないようなら説得しようとまで考えてた。
だから、素直に聞いて貰えるのは、話が早くて助かるんだけど、人の話は最後まで聞けよな。
そんなんだから簡単に騙されるんだぞ。
「『お前の御蔭で、自分の世界が如何に狭いか思い知らされた。だけど、負けっぱなしで終わるつもりはねぇ。【力】を尊ぶ魔族の誇りにかけて、必ずリベンジしてやる。1から鍛えて出直して、来年の入学試験には受かってやるから、お前も受かっとけよ! ……あと、なんだ、その……助けてくれて、ありがとよ』だってさ。ちなみに、最後のは恥ずかしがって『やっぱり無し!』って言ってたらしいんだけど、ミラノが馬鹿正直に伝えて来てな。まったく、デリカシーの無い奴だぜ」
「……いえ、そもそもシルクさんが心に留めて、口にしなければ良かったのでは?」
チッ、ルクスリアめ、ミラノに責任を押し付けようという俺の華麗なる印象操作を暴きやがったな。
というか、この話も、お前を経由して聞いたんだけど?
お前の方こそ、心に留めておけよ。
そんなルクスリアの野暮なツッコミに気を取られていた俺は、アイネの様子に気付くのが遅れた。
「……うっ、うぅ……」
ようやく非常事態に気付いたのは、アイネが嗚咽を漏らして泣き始めた後だった。
「えぇぇぇっ!? ちょ、どうしたアイネ!」
「おやおや、こんな幼気な女の子を泣かせるとは、いけませんね。大丈夫ですよ、アイネさん。私もシルクさんに泣かされた幼気な被害者ですから、その気持ちは良く分かります。同じ痛みを知る私だけは、いつだって貴方の味方ですからね」
アイネに優しく声を掛けながら、背中から柔らかく抱きしめるルクスリア。
その絵面だけを見れば、まるで愛する娘を慈しむ聖母のようだが、セリフが芝居掛かってて白々しい。
端的に言って、メッチャ腹立つな。
「おいコラ、どさくさに紛れて存在しない事件を捏造すんな。つーか、アイネはともかく、お前が“幼気”ってタマか、この鉄板女」
「ほほう? 誰の胸が鉄板ですって?」
「いや、胸の話なんてしてねぇよ!? メンタル的な話だよ! というか、いつまでも冗談ばっか言ってないで、泣き止ませるの手伝え!」
「失敬な。貴方への当てつけは、ほんの1割程度で、アイネさんを励ましているのは本心ですよ。それに、こうして抱きしめて、和ませているではありませんか」
その後も協力してアイネを慰め続けた俺達は、なんとか涙を止める事に成功したのだった。
ルクスリアとの駆け引きに区切りがついた直後、突然アイネが大声を上げて詰め寄ってきた。
今にも胸元に掴み掛かって来そうな必死の剣幕は、二人の身を心から案じている証拠だろう。
まぁ、その割には今の今まで忘れていた、という様子だけど、そこを指摘するのは意地が悪いか。
俺達が来る前から色々とゴタついていたみたいだし、意識が逸れるのも無理は無い。
「ひとまず落ち着け。二人とも酷く衰弱してたけど、命に別状は無いから。今頃は他の怪我人と一緒に保健室で休んでるよ。1次試験の時にも居たミラノ教官の監視付きで。ただし、ソイツらは全員、2次試験に進めなかったから、この後すぐに帰る事になってるけどな」
この辺の事情は、学園長室で話している時に、ミラノから思念魔法で聞いた。
もちろん、俺ではなくルクスリアが。
なので、正確に言うと又聞きの又聞きという事になるけど、そこまで説明する必要は無いだろう。
「そう……ですか」
肩を落として、何かを噛み締めるように呟いたのは、大事になっていなかったという安堵からか、それとも、後味の悪い結末を迎えた無念ゆえか。
少なくとも、その表情は複雑な心境を如実に表していて、心の内をハッキリと読み取ることが出来なかった。
「ちなみに、魔族の少年から、ミラノ経由で伝言を預かってる。聞くかどうかは、お前の自由だけど――」
「聞きたいです!」
俺のセリフを受けて間髪入れずに……というか、もはや食い破って、アイネが伝言を要求する。
俺としても、聞いた方が良い内容だと思っていたから、もし気が進まないようなら説得しようとまで考えてた。
だから、素直に聞いて貰えるのは、話が早くて助かるんだけど、人の話は最後まで聞けよな。
そんなんだから簡単に騙されるんだぞ。
「『お前の御蔭で、自分の世界が如何に狭いか思い知らされた。だけど、負けっぱなしで終わるつもりはねぇ。【力】を尊ぶ魔族の誇りにかけて、必ずリベンジしてやる。1から鍛えて出直して、来年の入学試験には受かってやるから、お前も受かっとけよ! ……あと、なんだ、その……助けてくれて、ありがとよ』だってさ。ちなみに、最後のは恥ずかしがって『やっぱり無し!』って言ってたらしいんだけど、ミラノが馬鹿正直に伝えて来てな。まったく、デリカシーの無い奴だぜ」
「……いえ、そもそもシルクさんが心に留めて、口にしなければ良かったのでは?」
チッ、ルクスリアめ、ミラノに責任を押し付けようという俺の華麗なる印象操作を暴きやがったな。
というか、この話も、お前を経由して聞いたんだけど?
お前の方こそ、心に留めておけよ。
そんなルクスリアの野暮なツッコミに気を取られていた俺は、アイネの様子に気付くのが遅れた。
「……うっ、うぅ……」
ようやく非常事態に気付いたのは、アイネが嗚咽を漏らして泣き始めた後だった。
「えぇぇぇっ!? ちょ、どうしたアイネ!」
「おやおや、こんな幼気な女の子を泣かせるとは、いけませんね。大丈夫ですよ、アイネさん。私もシルクさんに泣かされた幼気な被害者ですから、その気持ちは良く分かります。同じ痛みを知る私だけは、いつだって貴方の味方ですからね」
アイネに優しく声を掛けながら、背中から柔らかく抱きしめるルクスリア。
その絵面だけを見れば、まるで愛する娘を慈しむ聖母のようだが、セリフが芝居掛かってて白々しい。
端的に言って、メッチャ腹立つな。
「おいコラ、どさくさに紛れて存在しない事件を捏造すんな。つーか、アイネはともかく、お前が“幼気”ってタマか、この鉄板女」
「ほほう? 誰の胸が鉄板ですって?」
「いや、胸の話なんてしてねぇよ!? メンタル的な話だよ! というか、いつまでも冗談ばっか言ってないで、泣き止ませるの手伝え!」
「失敬な。貴方への当てつけは、ほんの1割程度で、アイネさんを励ましているのは本心ですよ。それに、こうして抱きしめて、和ませているではありませんか」
その後も協力してアイネを慰め続けた俺達は、なんとか涙を止める事に成功したのだった。
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