全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ
自業自得
もう一人の問題児である、ガンマの方に振り返ろうとした瞬間、背後から不穏な気配を感じた俺。
そのまま躱しても良かったが、そうすると目の前のルミナリエに被害が及んでしまう。
ちょうど、俺が邪魔になって、視界を遮られてる状態だしな。
そこまで瞬時に思考を巡らせ、回避を諦めた俺は、迫って来たモノを仕方なく素手で受け止めた。
「ホォ? 俺様の拳を受け止めるたァ、人間の癖に随分と頑丈だなァ?」
丸太のような腕を、こちらに向かって突き出したまま、凶暴な笑みを浮かべるガンマ。
奴の方が頭1つ分ほど高いので、精神的にも物理的にも見下されている形だ。
とはいえ、コイツの拳は俺の手でガッチリと抑え込まれているので、ビクともしない筈なんだけどな。
その自信は、いったい何処から湧いてくるのやら。
「そう言う、お前は魔族の癖に、やることがセコいな? 人が話してる時に背中から襲い掛かるなんて」
「悪ィ悪ィ。突然テメェが割って入って来たと思ったら、俺様に無防備な背中を晒したまんま呑気に喋ってっからヨォ。てっきり、ケンカ売ってんだと思ったが違ったかァ?」
悪いなんて微塵も思って無さそうな声音で、ニヤニヤと煽ってくるガンマ。
だけど生憎、俺はルクスリアと違って、この程度の挑発は慣れっこだ。
というか、もっと神経を逆撫でする壮絶な煽りを日常的に受けていた時期があるので、こんなに大人しい挑発なら、むしろ微笑ましく感じるな。
「お前を後回しにしたのは、扱いが面倒くさそうだったからさ。喧嘩を止めるなら、聞き分けの良いルミナリエと話した方が手っ取り早いからな」
なんせ、コイツとは初対面だから、どう話を進めれば、スムーズに片付くのか分からなかったし。
「ハッ、喧嘩が気に入らねェなら、力づくで止めりゃあ良いだろォが? 今みたいにヨォ!」
声を張り上げると共に、更なる力を腕に込めるガンマ。
みるみる内に筋肉が膨張し、襲い来る圧力が増していく。
それでも、俺の肘はピンと伸びたままで、全く押し込まれる気配が無い。
「もう気が済んだか? 少なくとも力比べで勝てないのは分かったろ? 後悔したくなかったら、ヤンチャは、この辺で止めとけ」
「……オイオイ。俺は、まだ1度も魔法を使ってねェぞ? どっちが強ェかなんて、やってみなくちゃ分かんねェだろォが!」
「なるほど、実際に戦わないと力量差すら分からないのか。……だから勝てないんだよ」
「てんめェェェッ!」
ガンマの怒りのボルテージと共に、急速に膨れ上がる魔力。
どうやら、素行や態度の悪さはともかく、実力だけは七星剣の名に恥じないものを持っているらしい。
この様子だと、ルミナリエには及ばないにしても、今のアイネが相手なら圧倒しそうだな。
――そんな事を考えつつ、俺も魔力を少しだけ解放し、ガンマの身体を包むように放出する。
ただし、あまり浴びせ過ぎると面倒な事になるので、慎重に魔力量を調整する必要がある。
もちろん、殺して良いなら話は別だけど、学園関係者の命を守るのが、ヴェノとの約束だしな。
そもそも、この程度の騒ぎを起こしたくらいで殺してたら、俺の方が捕まってしまう。
「……おい……テメェ……いま何しやがった?」
恐らく上級魔法を放とうとしていたガンマだが、魔法を行使するどころか、まともに立つ力すら失い、膝から崩れ落ちた。
そして、なんとか四つん這いの状態で堪え、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
そんな有様でも、俺を睨みつける瞳には、未だに強い光が宿っているのだから、大したものだ。
「別に? ただ魔力を浴びせただけだぞ」
「……しらばっくれんなよ。他人の魔力を浴びただけで……自分の魔力が枯渇する訳……」
そこまで言って、ガンマは意識を失った。
辛うじて身体を支えていた両腕から完全に力が抜け、ドスンと重々しい音を立てて、顔面を床に打ちつける。
といっても、見た目からして頑丈そうだし、この程度なら問題ないだろう。
魔力の枯渇も、あくまで限定的なもので、少し休めば回復する筈だし。
とはいえ、そんなコンディションで2次試験を突破できるかは分からないけどな。
まぁ、“後悔したくなかったら止まれ”って、キチンと警告したし、これくらいは自業自得と割り切って貰うとしよう。
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