全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ

雪月 桜

沈静化

「あのような下衆げす、姫様の手をわずらわせるまでもありません。私がしてきます――って、なにするんですか!?」

ルクスリアが目の前を横切ったタイミングで、足を引っ掛けて、バランスをくずさせたのは、言うまでもなく俺の仕業しわざだ。

当然、その程度でひざを突くようなルクスリアではなく、すぐさま体勢を立て直したが、俺の妨害ぼうがいに腹を立てて詰め寄ってくる。

そんな彼女の頭を軽くポンポンと叩いて魔力を流し込み、沈静化させていく。

「まぁ、少し落ち着け。仮にも今は試験中なんだぞ? 受験者同士のトラブルだけでも問題なのに、お前まで騒ぎを大きくして、どうすんだよ」

「そ、それはそうですが……」

あれほど怒りをあらわにしていたルクスリアが不自然なほど急速に大人しくなる。

その様子を見ていたアイネが、こちらにいぶかしげな視線を送ってくるが、今は無視だ。

まだ面倒な仕事が残ってるからな。

「俺が片付けてくるから、お前は大人しく待ってろ。せっかくの休日なんだからさ。たまには肩の力を抜いて、ゆっくり羽を伸ばしとけって。……それに、今日のルクスリアは、お客さんなんだから、働かせてたら俺が怒られちまうよ」

「…………分かりました。そこまで言うのなら、お任せします。ただし、あの男には、それなりのむくいを、お願いしますよ?」

「へいへい」

ひらひらと手を振って応じつつ、気負いのない足取りで部屋の中央へ向かう。

そして、こちらに背を向ける配置となっていたガンマの隣を素通りして、ルミナリエの前に立った。

「……シルク」

「よぉ、ルミナリエ。ずいぶんと御機嫌ごきげんナナメみたいだけど、学園の設備を壊すのは感心しないな?」

「……ごめんなさい」

思ったより素直に謝ったもんだ。

この様子なら、ルクスリアと同じ処置は必要なさそうだな。

ルミナリエ自身、やり過ぎているという自覚はあったんだろう。

それでも我慢できなかったのは、友達を侮辱ぶじょくされたからか、それとも、魔王を愚弄ぐろうされたからか。

まぁ、どんな理由があろうと破壊行為には違いないけど。

「分かれば良いさ。今回は相手にも相応の非があったみたいだしな。ただし、おとがめは無しだけど、自分で壊した物は自分で直しとけよ?」

「……修復魔法は少し苦手」

「そうか、なら練習に丁度いいな」

というか、転移魔法や思念魔法を使いこなしているやつが何を言ってんだ。

それなりに高度な魔法とはいえ、その二つに比べたら圧倒的に難易度が低いぞ。

まぁ確かに、コイツの魔力特性は、修復魔法と相性が悪そうだけど、そこは工夫と慣れ次第だな。

つまり、反復あるのみだ。

「……シルクは意外と鬼畜きちく

「大丈夫。お前の親父おやじよりはマシだから」

「……ふふっ」

その笑みが、どういう意味を持つのかは分からないが、とにかく、こっちは完全に落ち着いたらしい。

さて、となると残る問題は……。

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