全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ
ルクスリアの宣戦布告
「ん? なんの話だ?」
「もう忘れたのですか? つい先程の事ですよ。“いったい何が、そんなに気に食わないのか”という話です」
あー、アイネの件で不機嫌になって悪ノリしてたアレな。
「その原因が分かったって?」
「ええ。きっと私は、かつて魔王様を恐れていた時と同じ様に、貴方の事も心の何処かで恐れていたのでしょう。今となっては和解しているとはいえ、一度は魔王様と本気で殺し合った相手であり、私よりも遥かに強い存在ですから。加えて、貴方と共に過ごした時間は余りにも短く、分かっている事と言えば、ほんの僅かな表層部分だけ。だから貴方が、いつか再び魔王様に刃を向けるのではないか。そんな、一抹の不安が拭い切れ無かったのは否定できません」
「……たしか、転生初日にも、そんな話をしたっけな。一応、最後には納得したように見えたけど、心の中では、まだ不安が燻ってたって訳か」
まぁ、魔王の右腕の在り方としては、その方が相応しいと思うけどな。
でも、それなら警戒してる相手に、そんな事を話すなよ、と言いたいけど。
「どうやら、そのようですね。……にも拘らず、そんな貴方が歳下の少女に鼻の下を伸ばしていたと聞かされ、拍子抜けだと感じたのかも知れません。そして、貴方に抱いていた無意識の警戒心が解かれ、緊張していたのが馬鹿らしくなったのかと」
「……なるほどな。つまり“取り越し苦労”をさせられたが故の怒りだったと?」
「あるいは、こうも考えられます。心の奥底で恐れていた貴方の、新たな一面を知り、印象が変わって、私は嬉しかったのかも知れません。ですが反面、私の知らない貴方がいた事に複雑な気持ちを感じていた。魔王様に対してもそうですが、どうやら私は興味を持った相手の事は、とことん知り尽くさないと気が済まない質のようですね。そんな相手は、これまで魔王様だけだったので、その事に気付きませんでした」
自分の考えを口にした事で、頭の中が整理できたのか、ようやく合点がいったとばかりに、うんうんと頷くルクスリア。
顎に手を当てて思索に耽る姿は、非常に様になっているが、重要なのは、そこじゃない。
「……自己分析は結構だけど、結局の所、お前が怒ってた本当の理由は何なんだ?」
「さぁ……? 昔から自分の本心には鈍感で疎い方なので。……と言いますか、感情というのは、たった1つの要因だけに左右されるような単純なものでは無いのでは?」
「それを言われると返す言葉が無いな……。つーか、何だか、どっと疲れたんだが」
軽い雑談のつもりが、なんで、こんな真面目な話になったのやら。
謎の疲労感で肩が重く感じ、自然と猫背になってしまう。
「何を情けない事を。言っておきますけど、今となっては貴方だって私の超えるべき存在なんですからね? もっと胸を張って威風堂々と歩いて下さい」
「へいへい」
宣戦布告だか、激励だか分からない、そんなルクスリアの言葉を受けつつ、俺達は実験棟に足を踏み入れた。
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