全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ
ルクスリアの過去
「……それで? どうして俺の後に付いて来るんだ?」
学園長室のある本校舎から、魔法実験のための施設が揃った実験棟に向かう道中。
俺は3歩分の間隔を空けて追尾してくる彼女に向かって、首だけ振り返りながら声を掛けた。
すると、その彼女――ルクスリアが不本意だという顔で口を開く。
「心外ですね。私は、ただ2次試験の会場である実験棟に向かっているだけですよ。お互いの目的地が同じなのですから、こうなる事は必然ではないでしょうか?」
「だからって、真後ろを歩く必要は無くね?」
そう、ただ俺と同じ方向に歩いているというだけなら、わざわざ声を掛けたりしない。
せいぜい、“3歩後ろを付いてくるとか、お前は何時の時代の良妻賢母だ?”……とか思う程度だ。
しかし、最も視界に入りにくい真後ろにポジションを取られてしまうと、まるで暗殺者に狙われているようで、落ち着かないんだよなぁ。
「申し訳ありません。しかし、迂闊に貴方の視界に入ると、一挙手、一投足に至るまで、舐め回すように見つめられる恐れがあると判明しましたので」
「だから、アイネの事は仕事の延長だっつってんだろうが……」
学園長室で報告した時から、ルクスリアの悪ノリは継続中だ。
いったい何が、そんなに気に食わないのやら。
「……確かに、それはそうなのですが。私は、いったい何が、そんなに気に食わないのでしょうね?」
「俺に聞くな。というか、その答えは、むしろ俺の方が知りたいんだけど?」
お前が分かっていない、お前の気持ちを、俺が知る訳ないだろうに。
「……クスクス。貴方にも分からない事があるんですね」
「そんなの当然だろ? 世の中、分からない事だらけだよ」
特に今回の事件は、色々な事が裏で重なっている気がしてならない。
そして、それ故に全貌が全く見えないのが問題だ。
元凶さえ判明すれば、俺か魔王が対処して、すぐにでも解決できるんだろうけど、今のところ決定的な手掛かりは見つかっていない。
「……初めて貴方と出逢った日、私は人生で二度目の敗北を味わいました」
急に立ち止まって、どこか遠くを見つめながら、ルクスリアが呟く。
それまでの冗談めいた態度から一転して、その口調は酷く真剣なものだ。
だから、俺も足を止めて、首だけでなく身体ごと、ルクスリアの方に向けた。
「……もしかして、最初の敗北は魔王が相手か?」
十中八九、間違いないと思いつつ、俺は少しの意外感も覚えていた。
あのルクスリアが、魔王に挑んだ時期があったのか? と。
そんな俺の驚きを感じ取ったのか、ルクスリアが照れくさそうに苦笑する。
「お察しの通りです。あの頃の私は若く、傲慢で、そして身の程知らずでした。“歴代最年少で七星剣に選ばれるかもしれない”。そんな噂が立つ程でしたから、根拠の無い自信という訳でもありませんでしたが、とにかく増長しきっていたのです。その結果、私は取り返しのつかない過ちを犯す所でした。そんな私を救ってくれたのが、魔王様だったのです」
学園長室のある本校舎から、魔法実験のための施設が揃った実験棟に向かう道中。
俺は3歩分の間隔を空けて追尾してくる彼女に向かって、首だけ振り返りながら声を掛けた。
すると、その彼女――ルクスリアが不本意だという顔で口を開く。
「心外ですね。私は、ただ2次試験の会場である実験棟に向かっているだけですよ。お互いの目的地が同じなのですから、こうなる事は必然ではないでしょうか?」
「だからって、真後ろを歩く必要は無くね?」
そう、ただ俺と同じ方向に歩いているというだけなら、わざわざ声を掛けたりしない。
せいぜい、“3歩後ろを付いてくるとか、お前は何時の時代の良妻賢母だ?”……とか思う程度だ。
しかし、最も視界に入りにくい真後ろにポジションを取られてしまうと、まるで暗殺者に狙われているようで、落ち着かないんだよなぁ。
「申し訳ありません。しかし、迂闊に貴方の視界に入ると、一挙手、一投足に至るまで、舐め回すように見つめられる恐れがあると判明しましたので」
「だから、アイネの事は仕事の延長だっつってんだろうが……」
学園長室で報告した時から、ルクスリアの悪ノリは継続中だ。
いったい何が、そんなに気に食わないのやら。
「……確かに、それはそうなのですが。私は、いったい何が、そんなに気に食わないのでしょうね?」
「俺に聞くな。というか、その答えは、むしろ俺の方が知りたいんだけど?」
お前が分かっていない、お前の気持ちを、俺が知る訳ないだろうに。
「……クスクス。貴方にも分からない事があるんですね」
「そんなの当然だろ? 世の中、分からない事だらけだよ」
特に今回の事件は、色々な事が裏で重なっている気がしてならない。
そして、それ故に全貌が全く見えないのが問題だ。
元凶さえ判明すれば、俺か魔王が対処して、すぐにでも解決できるんだろうけど、今のところ決定的な手掛かりは見つかっていない。
「……初めて貴方と出逢った日、私は人生で二度目の敗北を味わいました」
急に立ち止まって、どこか遠くを見つめながら、ルクスリアが呟く。
それまでの冗談めいた態度から一転して、その口調は酷く真剣なものだ。
だから、俺も足を止めて、首だけでなく身体ごと、ルクスリアの方に向けた。
「……もしかして、最初の敗北は魔王が相手か?」
十中八九、間違いないと思いつつ、俺は少しの意外感も覚えていた。
あのルクスリアが、魔王に挑んだ時期があったのか? と。
そんな俺の驚きを感じ取ったのか、ルクスリアが照れくさそうに苦笑する。
「お察しの通りです。あの頃の私は若く、傲慢で、そして身の程知らずでした。“歴代最年少で七星剣に選ばれるかもしれない”。そんな噂が立つ程でしたから、根拠の無い自信という訳でもありませんでしたが、とにかく増長しきっていたのです。その結果、私は取り返しのつかない過ちを犯す所でした。そんな私を救ってくれたのが、魔王様だったのです」
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