全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ

雪月 桜

白い鴉

「クゥェェェッ!」

ほんの数分前まで不定形ふていけいだったなぞの魔法生命体は、今や純白のつばさを広げ、血のように赤いひとみをギョロギョロと動かす不気味なからすへと変貌へんぼうしていた。

そして、その鳴き声もまた、人の不快感をあお奇怪きかいな響きで、耳障みみざわりなノイズにまみれている。

つやめいた漆黒しっこくの毛並みを誇り、透き通るような声音でさえずりをかなでていた、ルミナリエの使い魔カラスとは、何もかも正反対だな。

「ガァッ!」

威嚇いかくするように短く鳴いた白鴉はくあは、滑空しながら、一直線に突進して来た。

一度も羽ばたいて居ないのに、かなりの速度が出ているのは、風属性の魔法を使っているのか。

呪文詠唱も魔法陣も無しに魔法を使うとは、なかなか優秀なペットじゃないか。

だけど――、

「フンッ!」

「グェッ!?」

最低限の身体強化しかしてない俺の拳骨げんこつとらえられるなんて、根本的なきたえ方が、まるで足りないな。

まぁ、コイツの主な役割は、あの寄生というか、憑依ひょういというか……とにかく人の内部にひそんで暗躍あんやくする事なんだろうけど。

それでも、いざという時に逃走できる程度の能力は与えておけよ。

こんなに呆気あっけなく捕まったら、逆に情報を抜かれて、もぐり込ませた意味が無くなるだろうに。

……と、心の中で黒幕にダメ出ししながら、白鴉を地面に押し付けていた俺だったが、不意に抵抗の感触が消える。

「……なるほど。確かに、こうすれば自分より強い相手からも逃げられるな」

随分ずいぶんアッサリと追い詰めたと思ったが、白鴉は再び不定形のもやと化して、俺の拳に入り込んだ。

どんなに強い魔法を使う相手でも、身体に入り込んでしまえば、攻撃できないという訳だな。

……しかし、この作戦には致命的な弱点が二つある。

「一つ目、宿主が身体に結界をまとうと、外へ逃げられなくなる」

えて声に出して、相手の悪手あくしゅを指摘する。

そして、危機を察して体内で暴れ始めた白鴉に向かって、魔力を流し込む。

自分に魔法を放てば、ただでは済まないが、ただ魔力を循環させるだけなら何の問題もない。

まぁ、この方法で解決できるのは、魔力そのものに影響力が宿るタイプの魔力特性の奴だけ、だけどな。

その上で、その魔力特性が攻撃的だったり、浄化作用があったりしないと効果が無い。

そういう意味じゃあ、コイツは運が悪かったな。

近くに居たのが、俺、魔王、ルミナリエの三人以外だったら、逃げられたかも知れないのに。

そんな事を考えている間も、白鴉に向けて勢い良く魔力を流し込んでいき、俺の中で奴が沈黙した事を確認して、ゆっくりと息を吐いた。

「……ふぅ、コイツの憑依ひょうい能力を警戒して二人を遠ざけたのは正解だったな」

特に、アイネの場合はすべもなく取りかれただろうし。

……いや、羽衣はごろもの性質によっては、防げた可能性もあるな。

それに、良く考えたら、アイネの魔力特性も知らないし。

とはいえ、安全だという確証も無いんだから、危ない橋を渡る必要は無いか。

あと、ルミナリエの場合は、俺と同じ方法で対処は出来るだろうけど、本人にも言ったように手加減が出来ないだろうからなぁ。

せっかくの情報源をつぶされても困るし、やっぱり、あの判断は間違って無かっただろう。

そんな風に、一人で納得していると、周囲に張った結界に小さな穴が空けられた。

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