全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ

雪月 桜

初対決

「……むぅ。これじゃあらちが明かない。という訳で、最後は魔族の流儀りゅうぎのっとって決闘で白黒つけたいと思う。……どう?」

「望む所だよっ!」

……なるほどな。

互いの主張が尽きるまで言葉を交わし、ついには実力勝負を提案したルミナリエを見て、俺はようやく彼女の真意をさとった。

これは、きっと最初からアイネとの勝負に持ち込むのが狙いだったんだ。

自分ならアイネの全力を受け止め、学園側に実力をアピールさせられると考えたのだろう。

しかし、普通に勝負を申し込んだだけでは、アイネが気後きおくれするのではないかと考えた。

アイネは、ルミナリエとの実力差をハッキリと自覚しているだろうし、危ない所を救ってもらった恩義も感じているはずだ。

だから、アイネが心おきなく全力で戦って実力をアピールできるように、競争心をあおって背中を押した、という訳だ。

俺を見たとか、見てないとか、偽者が居るとか、居ないとか、道理で話の持って行き方が強引だと思った。

あれも全部、ルミナリエの筋書き通りだったんだな。

後は、気の良い友人が出来た喜びで、テンションが上がった結果の悪ノリ……という側面もあるかも知れない。

何故か俺まで巻き込まれたのは納得いかないけど、そもそも俺の存在に気付いて無いんだから仕方ないか。

……本当に気付いて無いんだよな?

そこまで込みで演技だった……なんてのは俺の考え過ぎだよな?

「……それじゃあ、まず移動する。多分、ここじゃ集中できない」

近くには、ボロボロの魔族の少女や、未だに気を失っている魔族の少年がいる。

彼らを巻き込む危険があると、アイネが気をつかって本気で戦えないという意味だろう。

「……ん、そだね。ありがとう、ルナちゃん」

ルミナリエの懸念けねんを正確に察したのか、アイネは申し訳なさそうに、お礼を言った。

「……気にしないで。私は全力のアイネと戦いたいだけだから。だから、これもオマケ」

そう言って、ルミナリエは鎌を軽く一振ひとふりした。

すると、魔族の少女と少年を、それぞれ囲う結界が生まれる。

「……これで自分から出ない限りは安全。試験も大詰めだし、あの二人を第三者が襲う意味は無いと思うけど、念のため。もしも自分で外に出たなら、その時は自己責任」

「うん。それでも充分すぎるよ。本当に、ありがとうっ」

「……」

ぷいっと、そっぽを向いて歩き出すルミナリエ。

そして、アイネがクスクスと笑いながら、その後ろを付いて行く。

あの様子は、もう完全にルミナリエの思惑に気付いてるっぽいな。

けど、だからこそ、遠慮して手を抜くような真似まねはしないだろう。

それは、ルミナリエの気遣いを台無しにする行為だから。

入学試験に合格すると信じて胸を貸してくれる、友人ルミナリエの期待に応えるためにも、アイネは全力で戦い抜くだろう。

その後、二人は少し歩いて、あまり木々が密集していないエリアで足を止めた。

「……ここなら適度に遮蔽物しゃへいぶつがあるし、ある程度は見晴らしも良い。巻き添えの心配も少ないはず」

「うん。私も、ここが良いと思う!」

極端に開けた場所だと、アイネが魔法で滅多めった打ちにされる危険があるし、逆に木々の密度が濃いと、立体的な機動を武器とするアイネが有利になり過ぎる。

ここなら、地の利が与える影響を平等に出来るし悪くない選択だと思う。

まぁ、ルミナリエとの実力差は、地の利で埋められる程度のものじゃないし、アイネに有利に設定しても問題ないとは思うけどな。

とはいえ、あまりに御膳立おぜんだてが過ぎたら、実力を証明した事にならないか。

「……それじゃあ、1分後に開始する。私は動かないから、好きなポジションを選ぶと良い」

「ふふんっ。そんな余裕の態度なんて、すぐにくずしてあげるんだから!」

「……楽しみにしてる」

そうして、ルミナリエは宣言通り、一歩も動かず、ひとみすら閉じて、静かに開始の時を待つ。

対して、アイネは素直にアドバンテージを利用して、近くの樹に飛び乗った。

そして、ルミナリエを中心とした弧を描くように枝を飛び移り、次々とポジションを変えていく。

それは、動き回る事で狙いを読ませないようにするためか、はたまたプレッシャーを掛けるつもりなのか。

そして、30秒が経過した辺りで、その動きが隠密性おんみつせいを重視したものに変わる。

枝に掛かる負担を調整し、葉擦はずれの音すららさない洗練された身のこなしは、もはや芸術の域に達している。

やがて、アイネはルミナリエから見て5時の方向で足を止めた。

そのまま無言で、ルミナリエの背中を見つめ、静かに時が過ぎていく。

――そして、その時はやって来た。

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