全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ
三下のお約束
「……なぁ、何で俺を助けたんだ? あの男と、お前を散々バカにしてたのに。……それだけじゃない。俺は試験の対戦相手だぞ? 俺が死ねば、その時点で脱落させられるじゃないか」
あれから森の中を駆け回ったアイネは、毒を中和する薬草と傷を治す薬草、その二つを確保して、自分と魔族の少年の治療に当たっていた。
この第二演習場は、サバイバル訓練にも利用される予定なので、多種多様な植物が栽培されているのだ。
そして、この森で採取した素材については、好きなように活用して良いルールになっている。
恐らく、魔族の少女が使った毒も、この森で見つけた毒草を元にして作られた物だろう。
この試験では、戦闘力だけでなく、そういった知識も求められるという訳だ。
きっと、アイネは故郷の里で薬草の知識を身に着けたんだろうな。
「貴方は生き返ると分かってたら死んでも良いんですか? 少なくとも、私は、そうは思いません。……傷付いても良い命なんて、この世に無いと思うから」
「……ハッ。綺麗事だな。所詮、この世は弱肉強食、力が全てだ。強いから奪い、弱いから失う。ただ、それだけの事でしかない。俺だって、あの女の事は別に恨んじゃいないしな。してやられたとは思ってるけど、結局のところ抗えなかった俺が悪い」
「……そうですか? 私は、むしろ弱いから奪うんだと思ってますけど」
「……ハァ?」
「だって、そうじゃないですか? それって要するに、奪う事でしか自分を満たせないって事ですから。そんなに不健全で不安定で脆い人は本当の意味で【強い】とは言えないと思います。本当に【強い】人なら、自分を満たすために、わざわざ人から奪う必要なんて無いですよね? お金持ちが泥棒しないのと一緒です」
「いや……その例えは、どうなんだ?」
何か釈然としないものを感じながらも、具体的な反論が浮かばないのか、魔族の少年の歯切れは悪い。
うん……まぁ、その気持ちは分かるし、アイネが言いたい事も何となくは分かる。
ただ世の中は、そこまで単純じゃ無いというだけで。
とはいえ、人から奪わずして自分を満たせるのが【本当に強い人】という意見には、大いに賛成だな。
「後は、この試験だって、そうです。貴方は対戦相手だと言いましたけど、私達は【殺し合え】とも【戦って勝て】とも言われて無いんですから。試験終了まで生き残った上で【力を示せ】と言われただけです。だったら、他の参加者を脱落させる必要は無いし、貴方を助けるのも、力の示し方の一つでしょう?」
魔族の少年を助けられたのは、アイネが少女を上回っていたから。
そして、知識という【力】を身に着けていたからだ。
アイネは確かに、それを実践で示して見せた。
「……お前、変わってるな。普通、力を示せって言われたら、真っ先に相手をぶちのめす事を考えるもんだろ」
「私、戦うのは苦手ですし、好きでも無いですから。……だから、いつか奪い合うための争いが無くなった世界を作りたいです。競い合い、高め合うための争いなら大歓迎ですけどね? 例えば花札とかっ」
……なるほど、だから、あの時も二人を倒した時点で勝利宣言をした訳か。
自分の強さをアピールして、残った奴らをを退かせるために。
きっと、その後は自分と互角以上に戦える相手を探して、自分の力を学園側に示すつもりだったんだろうな。
まぁ、結果的には魔族の神経を逆撫でしてしまい、相手も退くに退けなくなったみたいだけど。
「……ハッ。あれだけ魔族を圧倒しておいて戦いが苦手、ね。甘ったるい思想といい、つくづく癇に触る女だ。……けどまぁ……今の俺じゃ敵いそうにねぇし……せいぜい……頑張れや……」
その言葉を最後にして、魔族の少年は意識を失った。
毒が抜け、出血も止まったとはいえ、失った体力や血液まで戻る訳じゃないからな。
とはいえ、無事に峠は超えたようだし、このまま安静にしていれば大事には至らないだろう。
アイネは少年を木の影に寝かせて、ゆっくりと立ち上がった。
そして、調子を確かめるように、手を握ったり、開いたりを繰り返す。
「よしっ。私の毒も、すっかり抜けたみたい。掠り傷だったのが良かったのかな?」
「……へぇ〜。なら、今度は全身を切り刻んであげる♪」
「なっ、くっ!?」
突然、森の奥から届いたのは、神経を逆撫でする例の声と、無数の風の刃。
しかも、今回は貫通力を重視した風属性の中級魔法だ。
中途半端な攻撃は無意味と判断したのか、使う魔法を1種類に限定し、その余力を威力と数に注ぎ込んでいる。
少年を巻き込むのは不味いと判断したのか、アイネは急いで木陰から飛び出して、矢面に立った。
そして、殺到する魔法球を捌きながら、敵を囲うような軌道で疾走する。
持ち前の機動力を取り戻し、木の枝を跳び回るアイネを捉えるのは困難な様で、魔族の少女は再び不機嫌になっていく。
「チッ、相変わらず、ちょこまかと。……で、も♪」
「しまっ――!?」
ここで、ようやく敵の狙いに気付いた様子のアイネだが、時すでに遅し。
魔族の少女は、未だ気を失ったままの少年を持ち上げ、その喉にナイフを突き付けた。
「さっきと立場が逆転しちゃったね? 私の狙いは最初からコイツ♪ ちょっと、ありきたりで芸が無いけど、まぁ、お約束ってやつ? ……コイツを助けたかったら、大人しく出て来なさい。でないと、容赦なく刺し殺しちゃうよ?」
あれから森の中を駆け回ったアイネは、毒を中和する薬草と傷を治す薬草、その二つを確保して、自分と魔族の少年の治療に当たっていた。
この第二演習場は、サバイバル訓練にも利用される予定なので、多種多様な植物が栽培されているのだ。
そして、この森で採取した素材については、好きなように活用して良いルールになっている。
恐らく、魔族の少女が使った毒も、この森で見つけた毒草を元にして作られた物だろう。
この試験では、戦闘力だけでなく、そういった知識も求められるという訳だ。
きっと、アイネは故郷の里で薬草の知識を身に着けたんだろうな。
「貴方は生き返ると分かってたら死んでも良いんですか? 少なくとも、私は、そうは思いません。……傷付いても良い命なんて、この世に無いと思うから」
「……ハッ。綺麗事だな。所詮、この世は弱肉強食、力が全てだ。強いから奪い、弱いから失う。ただ、それだけの事でしかない。俺だって、あの女の事は別に恨んじゃいないしな。してやられたとは思ってるけど、結局のところ抗えなかった俺が悪い」
「……そうですか? 私は、むしろ弱いから奪うんだと思ってますけど」
「……ハァ?」
「だって、そうじゃないですか? それって要するに、奪う事でしか自分を満たせないって事ですから。そんなに不健全で不安定で脆い人は本当の意味で【強い】とは言えないと思います。本当に【強い】人なら、自分を満たすために、わざわざ人から奪う必要なんて無いですよね? お金持ちが泥棒しないのと一緒です」
「いや……その例えは、どうなんだ?」
何か釈然としないものを感じながらも、具体的な反論が浮かばないのか、魔族の少年の歯切れは悪い。
うん……まぁ、その気持ちは分かるし、アイネが言いたい事も何となくは分かる。
ただ世の中は、そこまで単純じゃ無いというだけで。
とはいえ、人から奪わずして自分を満たせるのが【本当に強い人】という意見には、大いに賛成だな。
「後は、この試験だって、そうです。貴方は対戦相手だと言いましたけど、私達は【殺し合え】とも【戦って勝て】とも言われて無いんですから。試験終了まで生き残った上で【力を示せ】と言われただけです。だったら、他の参加者を脱落させる必要は無いし、貴方を助けるのも、力の示し方の一つでしょう?」
魔族の少年を助けられたのは、アイネが少女を上回っていたから。
そして、知識という【力】を身に着けていたからだ。
アイネは確かに、それを実践で示して見せた。
「……お前、変わってるな。普通、力を示せって言われたら、真っ先に相手をぶちのめす事を考えるもんだろ」
「私、戦うのは苦手ですし、好きでも無いですから。……だから、いつか奪い合うための争いが無くなった世界を作りたいです。競い合い、高め合うための争いなら大歓迎ですけどね? 例えば花札とかっ」
……なるほど、だから、あの時も二人を倒した時点で勝利宣言をした訳か。
自分の強さをアピールして、残った奴らをを退かせるために。
きっと、その後は自分と互角以上に戦える相手を探して、自分の力を学園側に示すつもりだったんだろうな。
まぁ、結果的には魔族の神経を逆撫でしてしまい、相手も退くに退けなくなったみたいだけど。
「……ハッ。あれだけ魔族を圧倒しておいて戦いが苦手、ね。甘ったるい思想といい、つくづく癇に触る女だ。……けどまぁ……今の俺じゃ敵いそうにねぇし……せいぜい……頑張れや……」
その言葉を最後にして、魔族の少年は意識を失った。
毒が抜け、出血も止まったとはいえ、失った体力や血液まで戻る訳じゃないからな。
とはいえ、無事に峠は超えたようだし、このまま安静にしていれば大事には至らないだろう。
アイネは少年を木の影に寝かせて、ゆっくりと立ち上がった。
そして、調子を確かめるように、手を握ったり、開いたりを繰り返す。
「よしっ。私の毒も、すっかり抜けたみたい。掠り傷だったのが良かったのかな?」
「……へぇ〜。なら、今度は全身を切り刻んであげる♪」
「なっ、くっ!?」
突然、森の奥から届いたのは、神経を逆撫でする例の声と、無数の風の刃。
しかも、今回は貫通力を重視した風属性の中級魔法だ。
中途半端な攻撃は無意味と判断したのか、使う魔法を1種類に限定し、その余力を威力と数に注ぎ込んでいる。
少年を巻き込むのは不味いと判断したのか、アイネは急いで木陰から飛び出して、矢面に立った。
そして、殺到する魔法球を捌きながら、敵を囲うような軌道で疾走する。
持ち前の機動力を取り戻し、木の枝を跳び回るアイネを捉えるのは困難な様で、魔族の少女は再び不機嫌になっていく。
「チッ、相変わらず、ちょこまかと。……で、も♪」
「しまっ――!?」
ここで、ようやく敵の狙いに気付いた様子のアイネだが、時すでに遅し。
魔族の少女は、未だ気を失ったままの少年を持ち上げ、その喉にナイフを突き付けた。
「さっきと立場が逆転しちゃったね? 私の狙いは最初からコイツ♪ ちょっと、ありきたりで芸が無いけど、まぁ、お約束ってやつ? ……コイツを助けたかったら、大人しく出て来なさい。でないと、容赦なく刺し殺しちゃうよ?」
「全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
聖女と最強の護衛、勇者に誘われて魔王討伐へ〜え?魔王もう倒したけど?〜
-
6
-
-
最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。
-
4
-
-
最強のカップルはただ単に楽しみたい ~最強(トール)と天魔(パートナー)の学園無双~
-
11
-
-
勇者に殺された俺はどうやら迷宮の主になったようです
-
4
-
-
賢者(魔王)の転生無双は反則です!
-
19
-
-
現実世界が嫌になったので、異世界で魔王の夢を叶えて来ます!
-
8
-
-
魔王様、溺愛しすぎです!
-
16
-
-
二度めの生に幸あれ!〜元魔王と元勇者の因縁コンビ〜
-
5
-
-
世界を渡る少年
-
32
-
-
ある化学者(ケミスト)転生〜無能錬金術師と罵られ、辞めろと言うから辞めたのに、今更戻れはもう遅い。記憶を駆使した錬成品は、規格外の良品です〜
-
4
-
-
女神様(比喩)と出会って、人生変わりました
-
14
-
-
人生3周目の勇者
-
6
-
-
完璧会長と無関心な毒舌読書家
-
6
-
-
元魔王の人間無双
-
6
-
-
太陽の申し子〜竜に選ばれた少年の旅物語〜
-
13
-
-
天才と煩悩
-
28
-
-
悪役転生〜主人公に全て奪われる踏み台悪役貴族に転生した〜
-
6
-
-
ハズレ勇者の鬼畜スキル 〜ハズレだからと問答無用で追い出されたが、実は規格外の歴代最強勇者だった?〜
-
5
-
-
ドラゴンさんは怠惰に暮らしたい
-
7
-
-
聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
-
6
-
コメント