全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ

雪月 桜

羽衣

「そう言えば、シルクさんは、どんな魔法が使えるんですかっ? 転移魔法を習得してるくらいですから、他にも色んな魔法が使えるんですよね!」

「……いや、少し事情があってな。俺が使えるのは転移魔法と隠蔽いんぺい魔法、後は回復魔法くらいだ」

試験監督の俺が受験者と戦う訳にはいかないからな。

というか、本当なら、こうして接触するのも良くないんだけど。

どうにかして、自然な感じで隠れられないものか。

「そうなんですか? じゃあ、私がシルクさんの代わりに戦いますねっ。その代わり、いざという時は回復をお願いします!」

「お、おう! その時は任せとけ!」

……まぁ、俺が回復魔法を掛けるのは、試験監督として、命に関わる傷を負ったと判断した時だけだけどな。

それに、試験監督が回復魔法を掛けた場合、その受験者は脱落になるというルールだ。

一応、受験者に意識が残っている場合は、回復の要否ようひを確認する決まりになってるから、その時が来たら正体を明かすとするか。

「ホホーッ」

「えっ、あっちから人が? ……分かった。シルクさん、さっそく他の受験者と遭遇そうぐうするみたいです。どこか、安全な場所に隠れてて下さい!」

どうやら、アイネの使い魔、白フクロウのバドが敵の接近を感知したらしい。

当然、俺も気付いてたけど、受験者へのアドバイスは禁止されてるから今まで黙ってた。

しかし、少し警告が遅かった――いや、この場合は相手が速かったというべきか。

俺が、この場を離れる前に、ソイツ等は姿を現した。

「おっ、ラッキィ〜。さっき調子こいて目立ってた二人組じゃん?」

「おいおい、さっそく二人で合流して、すっかりデート気分ですかぁ?」

「広場で見た時も仲良く手なんか繋いじゃってたしよぉ。ここはガキの遊び場じゃねぇんだっつの」

「まぁまぁ良いじゃない。おかげで楽にポイントをかせげるんだから。人間だって使いようによっては役に立つのよ?」

「そうそう! せっかく殺しの許可も出てる事だしぃ。遠慮えんりょなくサンドバッグにしちゃお♪」

口々に悪態あくたいきながら現れた男女数人の受験者。

恐らく、事前に通達されていた試験の内容を見て、知り合い同士で目印でも決めて合流したのだろう。

徒党ととうを組んではいけないなんてルールは設定されていないし、この試験においては有効な作戦だと言える。

そして、言うまでもなく、構成メンバー全員が魔族だ。

というか、広場でも気になってたんだけど、人間の受験者がアイネしか見当たらなかったのは何故なぜだ?

確か、ヴェノは人界からも出願があったと言っていたはずだけど。

「…………」

「あぁ? なにシカトしてんだ、コラァ!」

「転移魔法の使い手サマにとっちゃ、俺らみたいな雑魚ざこは眼中に無いってか!?」

「テメェが使ったのは、ただの隠蔽いんぺい魔法だって分かってんだ! ちゃちな手品師が強がってんじゃねぇぞ!」

「ちょ、ちょっとシルクさん! 皆さん、めっちゃ怒ってますよ!?」

アイネにガクガクと肩を揺すられ、俺の意識が思考から現実に舞い戻る。

「……ん? あぁ、悪い悪い。ちゃんと話は聞いてたから。ところで、“シカト”って人界じんかいの“花札”が語源になってた筈だけど、魔界にもあるのか?」

「……どうやら本格的に馬鹿にされてるみたいね? それが、どうしたって言うのかしら?」

「ホント、ホント! そんな、どうでもいいこと聞いてくるなんて、イライラしてきちゃった♪」

「シルクさぁぁぁん! 火に油を注いで、どうするんですかぁ!」

魔族達から発せられた、怒りと殺意に当てられて、涙目になるアイネ。

と言いつつ、まだ余裕ありそうだな、コイツ。

「えぇー? 話を聞いてたって、アピールして、怒りを収めようしただけなのに。それに、アイネも好きだろ、花札。振袖ふりそでなんて着てるんだし」

「振袖を着てるからって、花札好きとは限りません! ……確かに、乙女のたしなみとして婆様ばばさまから仕込まれてはいますけど」

「だろ? なぁ、入学したら付き合ってくれよ。時間がある時で良いからさ。ヴェノも、ルクスリアも、ルール知らないって言うんだよ」

「誰ですか、その二人! ていうか、もう隠れてて下さい! 話が進みません!」

「おっ、そうか。なら任せるよ。気を付けてな」

「……えっ? あ、はい、頑張ります!」

『この人数を相手に、一人で置いていける訳ないだろ! 俺だって戦う!』とか、その手の反応を予想していたのか、一瞬だけほうけるアイネ。

しかし、すぐさま正気に戻って、無手むての構えを取った。

そして、バドが戦闘開始を察して、足手まといになると思ったのか、光の粒子となって、アイネの中に引っ込んでいく。

……まぁ、自分でも場違いなほど軽いノリだったと思うけど、これで狙い通り、アイネから自然に離れられるな。

そして、慌てたのは、むしろ相手の方だった。

「は、ハァ!? 女の子を置いて敵前逃亡とか、お前それでも男かよ!?」

「最っ低! このヘタレ!」

確かに、これが実戦なら耳が痛い話だけど、これは試験であり、俺は試験監督なんだよなぁ。

手出しが許されない以上、さっさと退散するのが双方にとって最適な選択だ。

俺は背後から飛んでくる罵詈雑言ばりぞうごんを無視して距離を取り、隠蔽魔法で気配と魔力を遮断しゃだんした。

ふう……ようやく本来の立ち位置に戻れたぞ。

今頃、試験の様子を眺めて採点してるヴェノが大笑いしてるかもな。

「アイツ、マジで逃げやがった! しかも全然、魔力が感じられねぇ!」

「ほら見ろ! やっぱり、さっきのは転移魔法に見せかけた隠蔽魔法だったんだ!」

「ハッ、同情するぜ。あんな薄情はくじょうな奴がパートナーだったなんてよ」

「まぁ、せめてものなさけよ。不必要に痛めつけるのは止めておくわ。私達もひまじゃないし」

「えー、残念っ。けど、まぁ、どうせなら強い奴をボコった方が楽しいよね。特に普段からチヤホヤされてる【七星剣しちせいけん】の奴らとかさ♪」

俺もアイネも散々な言われようだな。

しかも既に勝ったつもりで話してるみたいだし。

……だけど果たして、そう上手く行くかな?

「セィッ!」

「がっ!?」

そんな俺の疑問に答える様に、アイネが結果を突き付けた。

目にも止まらぬ速さで、敵の一人に接近し、素手で弾き飛ばしたのだ。

ソイツは連中の中で最も巨体な男子だったが、冗談みたいに宙を舞い、近くの木々にぶつかって次々とぎ倒して行った。

「……はっ?」

「えっ、いま何が……」

そして、腕を振り抜いたアイネは、振袖をひるがえして素早く距離を取り、静かに口を開く。

貴方あなた達は、二つほど勘違かんちがいをしています。まず一つ目、シルクさんが隠れたのは、私が事前に、お願いしていた事です。その事について同情される筋合いはありません。そして、二つ目――」

「カハッ……!?」

またしても、アイネの腕の一振りで、敵の男子が森の奥に消える。

抵抗どころか、まともな構えを取る事すら許されずに。

「な、何なのよ、そのスピードは!?」

「アイツ、全身に何かまとってるぞ! きっと身体強化の応用魔法だ!」

「だったら、近づかれる前にち殺しちゃえ♪」

そう言って、狂気的な笑みを浮かべた少女が魔法を放つ。

この学園に入学しようというだけあって、そのレベルは決して低くない。

初級魔法のみとはいえ、火、風、土の三属性の魔法球を同時に複数個ずつ操っているのだから。

しかし、見えない何かを纏ったアイネの振袖に触れた途端とたんに、呆気なく軌道を変えて霧散むさんする。

そして、顔を狙った最後の一発は、そでから垂れ下がったたもとの部分にさえぎられ、正面から受け止められた。

そして、眼前がんぜんかかげていた腕をそっと下ろしたアイネは――、

「貴方達では、この【羽衣はごろも】をつらぬけない。すなわち、私には勝てません」

先程までの狼狽ろうばいが嘘であるかのように、堂々と勝利を宣言した。

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