全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ
入学試験の、その前に
「……ふぅ〜。この寮に住み始めてから毎日、入ってるけど、本当に贅沢だよなぁ」
俺が魔王の力によって転生してから、あっという間に月日は流れ、早くも3ヶ月が経過していた。
今日は待ちに待った、魔王学園の第1期生を選定する入学試験の日だ。
俺も試験監督、兼、医療スタッフとして、
ヴェノに参加を要請されている。
そろそろ会場に向かわないといけない時間なんだけど、如何せん、男子寮の風呂が気持ち良すぎるんだよなぁ。
特に、毎朝の日課である自主トレーニングを終えた後は、また格別だ。
加えて、1日の疲れを癒やす夜の入浴や、気まぐれに入る昼の入浴も捨てがたい。
この3ヶ月で、既に数え切れないほど利用しているのは、俺が風呂好きというものあるが、他にも理由がある。
なんと、この大浴場は天然の温泉水を引いて作られているのだ。
加えて、疲労回復や、傷病に対する効き目の他、魔力の補給にも役立つという、まさに万能薬のような効能を誇っている。
もちろん、これは男子寮に限った話ではなく、女子寮に流れる温泉水も同じ物だ。
設備にも金が掛かってるとは聞いてたけど、まさか、これほど気合が入ってるとは思わなかった。
「……さてと。いい加減に上がらないと不味いな。今日は、ルクスリアも時間を作って見学に来るそうだし、遅刻なんてバレたら何を言われるか分かったもんじゃない」
後ろ髪を引かれる思いで、湯船から上がり、脱衣所に向かう。
そして、頭に乗せていたタオルを腰に巻き、バスタオルで全身の雫を拭っていく。
ちなみに、ルクスリアと顔を合わせるのは、転生初日の、あの夜以来だ。
どうやら、あの日は月に一度の定例報告に来ただけらしく、翌日の早朝には王都に発ってしまった。
まぁ、俺の転生騒動が無ければ、あの夜のうちに戻る予定だったらしいし、アイツの立場を考えたら忙しいのも当然だな。
それから何度か、魔王学園には来ているようだけど、俺がヴェノの依頼を受けて留守にしていたりして、何かとタイミングが合わず、行き違いになっていたのだ。
と言っても、全く交流が無かった訳ではない。
ルクスリアが王都に戻った夜には、アイツの使い魔(鷹)が脚に手紙を付けて飛んで来たので、それから、ちょくちょく文通するようになった。
まぁ、俺には使い魔がいないので、こちらから送る事はなく、アイツから手紙が来た時に素早く返事を書いて、鷹に預ける程度だったけど。
というか、仮に使い魔がいても、王都の位置を教えられないから意味ないな。
俺も、この3ヶ月で、色々と現代の知識を学んだから、王都の大まかな座標くらいは知ってるけど、それを使い魔にどう伝えるんだという話だ。
そもそも、ルクスリアって、今は魔王城に住んでるのか?
……なんて、考えていると――、
「きゃあああ!? また貴方ですか!? いったい何度、女湯に侵入したら気が済むんですか!?」
顔を真っ赤にした本人が、脱衣所の入り口で俺を指差していた。
……やれやれ、せっかく久々に再会したと思ったら、この女は。
「おい、落ち着け。そもそも、ここは男子寮なんだから、男湯に決まってるだろ? 間違えてるのは、お前の方だ」
というか、なんで男子寮に入って来てんだよ。
たとえ職員でも異性の寮に入るには許可が必要な筈なんだけど。
……って、そう言えば、俺を初めて案内した時も普通に入ってたな。
もしかして、コイツは顔パスなのか?
「…………へっ? あぁ……また、やってしまいましたか。……すみません。今日を休みにするために連日、徹夜続きだったもので……。大切な行事の前に、せめて軽く身を清めようと思ったのですが……」
良く見たら、ルクスリアの目元には濃い隈が浮かんでいる。
普段から青白い肌も、更に青くなっているし、明らかに顔色が悪い。
ったく、ただの入学試験を見学するために無茶しすぎだろ。
「っていうか、服! 早く服を着て下さい!」
ここで、ようやく俺の格好に気付いた様子のルクスリアが、慌てて目を塞いだ。
今の俺は、腰にタオルを巻いただけの状態だ。
確かに、露出度は高いかも知れないけど、ヤバい部分はキチンと隠れてるし、これなら水着と大差ないだろうに。
「裸を見た訳でもないのに、ウブだなぁ」
あれ、なんか前にも、こんな遣り取りがあったような?
「ほ、殆ど裸みたいなものでしょう! 全く……もう。まだ嫁入り前なのに、男の人の、こんな、あられもない姿を見てしまうなんて。なぜ私の初体験は貴方に奪われてばかりなのでしょうか……」
「おい、人聞きの悪いことを言うな。そもそも前回は、お前が望んで男の部屋に入ったんだし、今回のは、お前のミスだろう」
「そ、それはそうですけど! ……はぅ」
「おっと!」
疲労困憊の状態で無理に動いたせいか、急に力が抜けたように崩れ落ちる、ルクスリア。
そんな彼女を間一髪で支え、そのまま壁に、もたれさせる。
「もう限界みたいだな。大人しく寝てろ」
「そ、そんなぁ……。私には、姫様の晴れ舞台を見届ける義務がぁ」
姫様というのは、ヴェノの娘の事だ。
コイツと文通する中で、色々と話を聞いたことがある。
そして、その子も、今日の入学試験に参加するのだと、ヴェノから事前に知らされていた。
まぁ、魔王を溺愛するコイツからしたら、自分の娘も同然な感覚なんだろうし、見届けたい気持ちは分かる。
こんなになるまで自分を追い込んで、仕事を片付けて来たくらいだしな。
「けど、そんな姿を見せて、その子を心配させる気か?」
「…………うぅ。シルクさんのイジワル」
なんだ、コイツ。
とうとう限界を突破して、一周回って幼児退行したのか?
「はいはい、意地悪で結構。それじゃあ、もう1つオマケの意地悪だ。もう面倒だし強制的に眠らせてやろう」
そう言って、睡眠導入の魔法と、気分をリラックスさせる魔法、そして疲労回復の魔法を重ね掛けする。
これで、30分くらい休めば、歩ける程度には回復するだろう。
一次試験に間に合うかは分からないけど、話を聞いた感じだと、その子は二次や三次に問題なく進める実力者だし、そっちをメインで見学して貰うとしよう。
「……こ、このぉ。おにぃ、あくまぁ、ひとでな……しぃ」
子供のような悪口と共に、ポカポカ叩いてきたルクスリアだが、とうとう力尽きたようで、腕がだらりと下がる。
「ようやく眠ったか。こっちは、これからが仕事だってのに。というか、俺が居た時で本当に良かったな。このまま風呂に入ってたら溺れ死んでるぞ」
魔王代行、男子寮の浴場で溺死!?
とか、笑えない一面記事になる所だった。
そんな事を考えつつ、さっさと服を着て、ルクスリアを隣の女子寮に運ぶ。
そして、受付で事情を説明して、ルクスリアを預かって貰った。
ついでに、“ルクスリアは女子寮の大浴場に入ろうとして、脱衣所で倒れた事にしておいてくれ“と頼んでおく。
どうせ、あの様子だと記憶が曖昧になってるだろうし、わざわざ恥ずかしい黒歴史を残す必要はない。
「さっ! 仕事、仕事!」
ちょっとした事件はあったものの、温泉に入って気力も体力も充実してる。
俺は、試験会場となる第2演習場に向かって走り出した。
俺が魔王の力によって転生してから、あっという間に月日は流れ、早くも3ヶ月が経過していた。
今日は待ちに待った、魔王学園の第1期生を選定する入学試験の日だ。
俺も試験監督、兼、医療スタッフとして、
ヴェノに参加を要請されている。
そろそろ会場に向かわないといけない時間なんだけど、如何せん、男子寮の風呂が気持ち良すぎるんだよなぁ。
特に、毎朝の日課である自主トレーニングを終えた後は、また格別だ。
加えて、1日の疲れを癒やす夜の入浴や、気まぐれに入る昼の入浴も捨てがたい。
この3ヶ月で、既に数え切れないほど利用しているのは、俺が風呂好きというものあるが、他にも理由がある。
なんと、この大浴場は天然の温泉水を引いて作られているのだ。
加えて、疲労回復や、傷病に対する効き目の他、魔力の補給にも役立つという、まさに万能薬のような効能を誇っている。
もちろん、これは男子寮に限った話ではなく、女子寮に流れる温泉水も同じ物だ。
設備にも金が掛かってるとは聞いてたけど、まさか、これほど気合が入ってるとは思わなかった。
「……さてと。いい加減に上がらないと不味いな。今日は、ルクスリアも時間を作って見学に来るそうだし、遅刻なんてバレたら何を言われるか分かったもんじゃない」
後ろ髪を引かれる思いで、湯船から上がり、脱衣所に向かう。
そして、頭に乗せていたタオルを腰に巻き、バスタオルで全身の雫を拭っていく。
ちなみに、ルクスリアと顔を合わせるのは、転生初日の、あの夜以来だ。
どうやら、あの日は月に一度の定例報告に来ただけらしく、翌日の早朝には王都に発ってしまった。
まぁ、俺の転生騒動が無ければ、あの夜のうちに戻る予定だったらしいし、アイツの立場を考えたら忙しいのも当然だな。
それから何度か、魔王学園には来ているようだけど、俺がヴェノの依頼を受けて留守にしていたりして、何かとタイミングが合わず、行き違いになっていたのだ。
と言っても、全く交流が無かった訳ではない。
ルクスリアが王都に戻った夜には、アイツの使い魔(鷹)が脚に手紙を付けて飛んで来たので、それから、ちょくちょく文通するようになった。
まぁ、俺には使い魔がいないので、こちらから送る事はなく、アイツから手紙が来た時に素早く返事を書いて、鷹に預ける程度だったけど。
というか、仮に使い魔がいても、王都の位置を教えられないから意味ないな。
俺も、この3ヶ月で、色々と現代の知識を学んだから、王都の大まかな座標くらいは知ってるけど、それを使い魔にどう伝えるんだという話だ。
そもそも、ルクスリアって、今は魔王城に住んでるのか?
……なんて、考えていると――、
「きゃあああ!? また貴方ですか!? いったい何度、女湯に侵入したら気が済むんですか!?」
顔を真っ赤にした本人が、脱衣所の入り口で俺を指差していた。
……やれやれ、せっかく久々に再会したと思ったら、この女は。
「おい、落ち着け。そもそも、ここは男子寮なんだから、男湯に決まってるだろ? 間違えてるのは、お前の方だ」
というか、なんで男子寮に入って来てんだよ。
たとえ職員でも異性の寮に入るには許可が必要な筈なんだけど。
……って、そう言えば、俺を初めて案内した時も普通に入ってたな。
もしかして、コイツは顔パスなのか?
「…………へっ? あぁ……また、やってしまいましたか。……すみません。今日を休みにするために連日、徹夜続きだったもので……。大切な行事の前に、せめて軽く身を清めようと思ったのですが……」
良く見たら、ルクスリアの目元には濃い隈が浮かんでいる。
普段から青白い肌も、更に青くなっているし、明らかに顔色が悪い。
ったく、ただの入学試験を見学するために無茶しすぎだろ。
「っていうか、服! 早く服を着て下さい!」
ここで、ようやく俺の格好に気付いた様子のルクスリアが、慌てて目を塞いだ。
今の俺は、腰にタオルを巻いただけの状態だ。
確かに、露出度は高いかも知れないけど、ヤバい部分はキチンと隠れてるし、これなら水着と大差ないだろうに。
「裸を見た訳でもないのに、ウブだなぁ」
あれ、なんか前にも、こんな遣り取りがあったような?
「ほ、殆ど裸みたいなものでしょう! 全く……もう。まだ嫁入り前なのに、男の人の、こんな、あられもない姿を見てしまうなんて。なぜ私の初体験は貴方に奪われてばかりなのでしょうか……」
「おい、人聞きの悪いことを言うな。そもそも前回は、お前が望んで男の部屋に入ったんだし、今回のは、お前のミスだろう」
「そ、それはそうですけど! ……はぅ」
「おっと!」
疲労困憊の状態で無理に動いたせいか、急に力が抜けたように崩れ落ちる、ルクスリア。
そんな彼女を間一髪で支え、そのまま壁に、もたれさせる。
「もう限界みたいだな。大人しく寝てろ」
「そ、そんなぁ……。私には、姫様の晴れ舞台を見届ける義務がぁ」
姫様というのは、ヴェノの娘の事だ。
コイツと文通する中で、色々と話を聞いたことがある。
そして、その子も、今日の入学試験に参加するのだと、ヴェノから事前に知らされていた。
まぁ、魔王を溺愛するコイツからしたら、自分の娘も同然な感覚なんだろうし、見届けたい気持ちは分かる。
こんなになるまで自分を追い込んで、仕事を片付けて来たくらいだしな。
「けど、そんな姿を見せて、その子を心配させる気か?」
「…………うぅ。シルクさんのイジワル」
なんだ、コイツ。
とうとう限界を突破して、一周回って幼児退行したのか?
「はいはい、意地悪で結構。それじゃあ、もう1つオマケの意地悪だ。もう面倒だし強制的に眠らせてやろう」
そう言って、睡眠導入の魔法と、気分をリラックスさせる魔法、そして疲労回復の魔法を重ね掛けする。
これで、30分くらい休めば、歩ける程度には回復するだろう。
一次試験に間に合うかは分からないけど、話を聞いた感じだと、その子は二次や三次に問題なく進める実力者だし、そっちをメインで見学して貰うとしよう。
「……こ、このぉ。おにぃ、あくまぁ、ひとでな……しぃ」
子供のような悪口と共に、ポカポカ叩いてきたルクスリアだが、とうとう力尽きたようで、腕がだらりと下がる。
「ようやく眠ったか。こっちは、これからが仕事だってのに。というか、俺が居た時で本当に良かったな。このまま風呂に入ってたら溺れ死んでるぞ」
魔王代行、男子寮の浴場で溺死!?
とか、笑えない一面記事になる所だった。
そんな事を考えつつ、さっさと服を着て、ルクスリアを隣の女子寮に運ぶ。
そして、受付で事情を説明して、ルクスリアを預かって貰った。
ついでに、“ルクスリアは女子寮の大浴場に入ろうとして、脱衣所で倒れた事にしておいてくれ“と頼んでおく。
どうせ、あの様子だと記憶が曖昧になってるだろうし、わざわざ恥ずかしい黒歴史を残す必要はない。
「さっ! 仕事、仕事!」
ちょっとした事件はあったものの、温泉に入って気力も体力も充実してる。
俺は、試験会場となる第2演習場に向かって走り出した。
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