全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ
美女の尋問
「……なるほど、つまり貴方の主張を纏めると、こういう事ですか。貴方は100年前、魔王様に完膚なきまでに敗北し、あの方の慈悲によって現代に転生した元勇者であると?」
あれから必死に頼み込み、ひとまず話を聞いて貰える事になった俺は、魔王の側近だと言うルクスリアに連行され、彼女の自室で尋問を受けていた。
いくら拘束が済んでいるとはいえ、こんな不審者を自室に招くなんて危機意識が足りないんじゃないかと思うけど、魔王の側近を自称するくらいだから、いざとなれば、どうとでも対処できる自信があるんだろうな。
実際、一瞬で俺を縛り上げた手際といい、僅かな隙も無い身のこなしといい、練り上げられた魔力といい、どれも超一流の素質が垣間見える。
ちなみに、彼女の言う魔王と、俺の知っている魔王は同一人物らしい。
魔族は人間よりも長い寿命を持っているとはいえ、100年が経った今でも生きているとは驚きだな。
「やたらと言葉に棘を感じるけど、まぁ言ってることに間違いはない。あと、そろそろ外してくれないか、この鎖」
今の俺は椅子に座らされ、水晶のような素材で作られた鎖で拘束されている。
俺が解放を訴えながら身を捩ると、ジャラリと甲高い音が響いた。
それほど太くもないし、脆そうに見えるのに、意外と頑丈なんだよなぁ。
ついでに魔力の放出も阻害されてるようで、魔法もロクに使えない。
「いえ、外しませんけど。そもそも貴方の言っている事は荒唐無稽で、とても信じられるものではありません。確かに魔王様は人智を超越していて、超絶カッコ良くて、あらゆる摂理を超克している御方ですが、転生など、もはや神の領域です。100年前は当然として、現在ですら、そこまでの大魔法は行使できないでしょう」
なんか聞いてもいない私情が混じってた気がするけど、魔王単独では不可能だという推測は正しい。
本人も自分で認めてたしな。
だけど、コイツの方程式には、一つだけ欠けているピースがある。
「お前の言う通り、魔王だけで転生という神の御業を行使するのは無理がある。お前が知っているかどうかは知らないけど、アイツの魔力特性は、そんな繊細なコントロールが効くものじゃないしな」
「この私の前で魔王様をアイツ呼ばわりとは、良い度胸ですね? 次からは魔王様、もしくは魔王陛下と呼びなさい。首を飛ばしますよ?」
「おっかねぇなぁ、おい」
「それはそうと、魔力特性ですって? 貴方は魔王様の力の本質を知っていると言うのですか! 魔王様の右腕たる私だって教えて貰えないのに!」
まるで幼い子供のように地団駄を踏んで悔しがるルクスリア。
そりゃあ、アイツの魔力特性は世界中を見渡しても類を見ないほど希少なものだし、おいそれと他人に話す訳にはいかないよなぁ。
少なくとも、俺は、あの【力】の持ち主を他に知らないし、聞いた事すらない。
というか、俺だって、偶然アイツと対極の魔力特性を持っていたから勘付いただけで、本人に確認した訳じゃないし。
ちなみに、魔力特性とは、その名の通り、個人の魔力に宿る特性の事だ。
この魔力特性というのは、ある程度、体系化されていて、異なる人物が同じ魔力特性を持つ場合もある。
例えば、自身の扱う火属性の魔法が強化され、水属性の魔法が弱体化する【業火】という魔力特性は有名で、これを有する魔法使いは多い。
また、魔法の強弱や、得意不得意を左右するものだけでなく、魔法に特別な効果を付加する魔力特性もある。
更には、全身を巡る魔力そのものに、特別な影響力を付加するタイプのものもある。
俺や魔王の魔力特性が、まさに、この部類で、その他も保有者が限られる希少なものばかりだ。
「まぁまぁ、落ち着けって。それで話を戻すけど、魔王の力だけでは転生は不可能だ。だから、転生には俺の力も利用した」
「貴方の力? そこまでの特別な力が、貴方に宿っていると?」
「ああ、だから元勇者だって言ってるだろ?」
「まだ言いますか……。そもそも、これまでの話には、何一つとして証拠がありません。全て貴方の妄想だと考えるのが妥当です。……そうですね、貴方が本当に魔王様の事を知っていると言うなら、あの御方の真の姿について答えて頂きましょうか?」
「……真の姿? それが証明になるのか?」
「えぇ。魔王様と敵対した上で真の姿を見たのなら例外なく滅ぼされている筈です。つまり、この世に存在している訳がない。にも拘らず、貴方が魔王様の真体を知っているなら、転生したというのが事実だという事になります」
死者しか知らない筈の情報を知ってるなら、ソイツは死んで生き返った者だと。
なかなか無茶苦茶な理屈だけど、それで信じて貰えるなら、こちらとしては文句はない。
だけど問題は――。
「……俺の倍くらいの身長で筋骨隆々。青白い肌で2本の角が生えてる壮年の男」
俺は、その姿しか知らないという事。
「……フッ」
コイツ、鼻で嗤いやがったな。
どうやら、俺の回答は外れたらしい。
「残念だけど、俺が見たのは、その姿だけだ」
「そうですか、それは、お気の毒ですね。仮に、その言葉が本当だったとしても、転生を信じる根拠はありません。ちなみに、魔王様の真の姿は、それはもう可愛らしいものですよ? 思わず食べてしまいたいくらいに」
ジュルリ、と今にも涎を垂らしそうな顔で魔王の姿を思い浮かべている様子のルクスリア。
せっかくのクールビューティーが台無しだ。
というか、もしかして魔王は女の子だったりするのか?
「あっそ。なら、その御尊顔を直接、見に行くとするか。その方が話も早いだろうし」
そう言って、俺は全身に魔力を漲らせ、鎖を力づくで引き千切った。
「なっ!? 断魔の鎖が、こうもあっさりと!?」
「魔力の放出は阻害できてるけど、体内の魔力の循環までは止められないみたいだな。それだと魔法なんて使えなくても、魔力循環で身体能力を活性化させれば、簡単に壊せるぞ」
「何を馬鹿な!? そんな力技で壊れる訳が無いでしょうが! 大型魔獣が踏んでも壊れない強度なんですよ!?」
「いや、でも実際に壊れただろ? そんな事より、ほら行くぞ」
「ちょ、何を!? 離しなさい!」
俺は抵抗するルクスリアの手を強引に掴み、転移の魔法を唱える。
行き先は、ずっと近くに感じていた魔王の魔力を元に指定した。
あれから必死に頼み込み、ひとまず話を聞いて貰える事になった俺は、魔王の側近だと言うルクスリアに連行され、彼女の自室で尋問を受けていた。
いくら拘束が済んでいるとはいえ、こんな不審者を自室に招くなんて危機意識が足りないんじゃないかと思うけど、魔王の側近を自称するくらいだから、いざとなれば、どうとでも対処できる自信があるんだろうな。
実際、一瞬で俺を縛り上げた手際といい、僅かな隙も無い身のこなしといい、練り上げられた魔力といい、どれも超一流の素質が垣間見える。
ちなみに、彼女の言う魔王と、俺の知っている魔王は同一人物らしい。
魔族は人間よりも長い寿命を持っているとはいえ、100年が経った今でも生きているとは驚きだな。
「やたらと言葉に棘を感じるけど、まぁ言ってることに間違いはない。あと、そろそろ外してくれないか、この鎖」
今の俺は椅子に座らされ、水晶のような素材で作られた鎖で拘束されている。
俺が解放を訴えながら身を捩ると、ジャラリと甲高い音が響いた。
それほど太くもないし、脆そうに見えるのに、意外と頑丈なんだよなぁ。
ついでに魔力の放出も阻害されてるようで、魔法もロクに使えない。
「いえ、外しませんけど。そもそも貴方の言っている事は荒唐無稽で、とても信じられるものではありません。確かに魔王様は人智を超越していて、超絶カッコ良くて、あらゆる摂理を超克している御方ですが、転生など、もはや神の領域です。100年前は当然として、現在ですら、そこまでの大魔法は行使できないでしょう」
なんか聞いてもいない私情が混じってた気がするけど、魔王単独では不可能だという推測は正しい。
本人も自分で認めてたしな。
だけど、コイツの方程式には、一つだけ欠けているピースがある。
「お前の言う通り、魔王だけで転生という神の御業を行使するのは無理がある。お前が知っているかどうかは知らないけど、アイツの魔力特性は、そんな繊細なコントロールが効くものじゃないしな」
「この私の前で魔王様をアイツ呼ばわりとは、良い度胸ですね? 次からは魔王様、もしくは魔王陛下と呼びなさい。首を飛ばしますよ?」
「おっかねぇなぁ、おい」
「それはそうと、魔力特性ですって? 貴方は魔王様の力の本質を知っていると言うのですか! 魔王様の右腕たる私だって教えて貰えないのに!」
まるで幼い子供のように地団駄を踏んで悔しがるルクスリア。
そりゃあ、アイツの魔力特性は世界中を見渡しても類を見ないほど希少なものだし、おいそれと他人に話す訳にはいかないよなぁ。
少なくとも、俺は、あの【力】の持ち主を他に知らないし、聞いた事すらない。
というか、俺だって、偶然アイツと対極の魔力特性を持っていたから勘付いただけで、本人に確認した訳じゃないし。
ちなみに、魔力特性とは、その名の通り、個人の魔力に宿る特性の事だ。
この魔力特性というのは、ある程度、体系化されていて、異なる人物が同じ魔力特性を持つ場合もある。
例えば、自身の扱う火属性の魔法が強化され、水属性の魔法が弱体化する【業火】という魔力特性は有名で、これを有する魔法使いは多い。
また、魔法の強弱や、得意不得意を左右するものだけでなく、魔法に特別な効果を付加する魔力特性もある。
更には、全身を巡る魔力そのものに、特別な影響力を付加するタイプのものもある。
俺や魔王の魔力特性が、まさに、この部類で、その他も保有者が限られる希少なものばかりだ。
「まぁまぁ、落ち着けって。それで話を戻すけど、魔王の力だけでは転生は不可能だ。だから、転生には俺の力も利用した」
「貴方の力? そこまでの特別な力が、貴方に宿っていると?」
「ああ、だから元勇者だって言ってるだろ?」
「まだ言いますか……。そもそも、これまでの話には、何一つとして証拠がありません。全て貴方の妄想だと考えるのが妥当です。……そうですね、貴方が本当に魔王様の事を知っていると言うなら、あの御方の真の姿について答えて頂きましょうか?」
「……真の姿? それが証明になるのか?」
「えぇ。魔王様と敵対した上で真の姿を見たのなら例外なく滅ぼされている筈です。つまり、この世に存在している訳がない。にも拘らず、貴方が魔王様の真体を知っているなら、転生したというのが事実だという事になります」
死者しか知らない筈の情報を知ってるなら、ソイツは死んで生き返った者だと。
なかなか無茶苦茶な理屈だけど、それで信じて貰えるなら、こちらとしては文句はない。
だけど問題は――。
「……俺の倍くらいの身長で筋骨隆々。青白い肌で2本の角が生えてる壮年の男」
俺は、その姿しか知らないという事。
「……フッ」
コイツ、鼻で嗤いやがったな。
どうやら、俺の回答は外れたらしい。
「残念だけど、俺が見たのは、その姿だけだ」
「そうですか、それは、お気の毒ですね。仮に、その言葉が本当だったとしても、転生を信じる根拠はありません。ちなみに、魔王様の真の姿は、それはもう可愛らしいものですよ? 思わず食べてしまいたいくらいに」
ジュルリ、と今にも涎を垂らしそうな顔で魔王の姿を思い浮かべている様子のルクスリア。
せっかくのクールビューティーが台無しだ。
というか、もしかして魔王は女の子だったりするのか?
「あっそ。なら、その御尊顔を直接、見に行くとするか。その方が話も早いだろうし」
そう言って、俺は全身に魔力を漲らせ、鎖を力づくで引き千切った。
「なっ!? 断魔の鎖が、こうもあっさりと!?」
「魔力の放出は阻害できてるけど、体内の魔力の循環までは止められないみたいだな。それだと魔法なんて使えなくても、魔力循環で身体能力を活性化させれば、簡単に壊せるぞ」
「何を馬鹿な!? そんな力技で壊れる訳が無いでしょうが! 大型魔獣が踏んでも壊れない強度なんですよ!?」
「いや、でも実際に壊れただろ? そんな事より、ほら行くぞ」
「ちょ、何を!? 離しなさい!」
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