最強魔法戦士は戦わない ~加藤優はチートな能力をもらったけど、できるだけ穏便に過ごしたいんだあ~

マーくん

第230話 【ダンジョン踏破3】

<<ナルン視点>>
マサル様がダンジョン最奥の門を潜られてから、1時間ほど過ぎた。

あの英雄マサル様のことだから、滅多なことは無いと思うが、少し時間が掛かり過ぎのような気がする。

後を追いかけたいが、俺達はこの門を潜ることが出来ないのだ。

もどかしさに歯噛みしていると、マサル様が歩いて来るのが見えた。

マサル様は何事も無かったように、いつもの笑顔で手を振っておられる。

「ナルンさん、お待たせしました。

この奥には特に見るべきものはありませんでした。

ここから先は行き止まりになっていたので、このダンジョンはナルンさん達が踏破したことになりますね。

おめでとうございます。

グリルさんにはわたしから先に報告しておきます。

お疲れ様でした。ゆっくり帰って来て下さいね。」

マサル様はそう言うと、元来た道を戻って行ってしまった。

なんとも呆気ない結末に、皆呆然としている。

そりゃ、過去にも何も無かったダンジョンはあるにはあったが、これほどの難易度の高いダンジョンだ。

何かあっても良いと思うのだが。

あのマサル様が、独り占めするなんて考えられないし……

まぁ考えてもしかたねえや。

ギルド長にお金を出させて、今夜は朝まで宴会だな。




<<グリル視点>>
マサル様が、1人の少年を伴って執務室にやって来られた。

「グリルさん、突然すいません。

あっそうだ、冒険者の皆さん、ダンジョンを踏破されましたよ。

最下層の最奥は、わたししか入れなかったので、皆さんは不完全燃焼でしょうが。」

マサル様の言っていることに頭がついていかない。

「マサル様、ナルン達はダンジョンを踏破したのですよね?」

「そうです。」

「それで最奥にはマサル様だけ?」

「最奥には門があって結界が張られていました。

その結界を通れない、とナルンさんからわたしに連絡があったのです。

結局その結界はわたししか通れなかったのです。」

「はあ、そうすると、ナルン達は最下層まで行って、最奥にはたどり着けなかったということですか。」

「その通りです。」

ドンドン

「ギルド長、ダンジョン攻略隊の皆さんがお帰りになりました。」

「グリルさん、下に行ってあげて下さい。

それと、これで皆さんに何か飲ませてあげて下さいね。」

マサル様が袋いっぱいの金貨を取り出して渡してきた。

「マサル様、ありがとうございます。
ちょっと下に行ってから、すぐに戻ってきます。」

俺はとりあえずグリル達を労い、マサル様から預かった金を1階の酒場を任せているベンに渡した。

「この金で皆んなに飲ませてやってくれ。
マサル様からの奢りだ。」

そう言って、2階の執務室に戻った。

執務室では、マサル様が何やら少年と話している。

下の酒場からは早速酒の入った笑い声が聞こえてきた。

「マサル様.ありがとうございました。皆喜んでいましたよ。」

「皆さんには頑張って頂きましたからね。」

「ありがとうございます。

ところで、ダンジョンの最奥の話しをもう少し聞かせて下さい。」

「そうでしたね。

グリルさん、ここだけの話しにすることを約束して頂けますか。」

「マサル様がそうおっしゃるならば、必ず秘密にします。」

「実は、最奥には古代文明の遺跡、いや古代文明の残存と言った方が正しいか、がありました。

5000年前に存在し、数百年で無くなった文明のものです。」

ゴクッ

俺はこの予想外の話しに唾を飲み込んで、のめり込む。

「古代文明の残存と言ったのは、そこにまだ生きているものが居てその遺跡を守護していたからです。」

5000年前の遺跡を守護している者だと?

「この少年がその守護者です。」

隣の少年を指してマサル様がそうおっしゃる。

「でも信じられないですよね。

彼はハリー様と言って、マリス様の加護を受けた虎の神獣です。

ハリー君、ここで虎に戻れますか?

大きさは2メートルくらいで。」

「問題ない。
そこの人間、よく見ておけよ。」

少年は立ち上がり、ソファーの横の少し空いた空間に移動すると、虎の姿に変わった。

驚きのあまり声が出ない。

「ハリー様は、わたしが最初にあった時は体長5メートルほどでした。

彼は、最奥に置かれた古代の神殿を5000年間守っていたのです。」

マサル様の言っていることは本当のことだろう。

マサル様は明らかにマリス様の加護を受けておられる。

その方が真剣に話しされているのだから、俺に疑う余地など全く無い。

「グリルさん、古代文明の話しを聞きたいですか?」

「いえ、やめておきます。
聞いたとしてもどうしようもありませんし、厄介ごとに巻き込まれそうなだけなので。」

「たぶんそれが懸命だと思います。

あのダンジョンについては素材集めにこれからも使って頂いて結構です。

ただ、あの最奥にはたどり着けないように細工しておきますね。

あと、最奥には非常に危険な物があったので、わたしが回収して、そのまま買い取ったことにしておいて下さい。」

そう言ってマサル様は、先程よりもひと回り大きな袋を俺に渡して来た。

「これが購入金額です。
皆さんに分けてあげて下さい。

じゃあ、わたしはこれで失礼しますね。」

そう言うとマサル様は少年を伴って、その場から転移してしまった。

何がなんだかさっぱりだが、とりあえず冒険者達には上手く話しておこう。

俺はそう自分に言い聞かせて、今受け取ったばかりの袋を金庫に入れて、酒場に降りた。

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