最強魔法戦士は戦わない ~加藤優はチートな能力をもらったけど、できるだけ穏便に過ごしたいんだあ~

マーくん

第225話 【未知との遭遇】

<<冒険者サリ(弓使い)視点>>
ダンジョン攻略に向けて今日もダンジョン内にいる。

ランス様の移転の魔道具を使って移動できるので、ダンジョン自体の難易度は非常に高いのだが、安全に攻略を進められるのが嬉しい。


通常のダンジョンを攻略する場合は、何日もダンジョンに潜るために、荷物をたくさん持って行く必要がある。

夜は寝ずの番を交代で行い、体の休まることも少ない。

食料は干し肉や乾パンが中心で、体力的にも厳しいし、怪我をしたりしてもすぐに対処できない。

ダンジョンから出るときも危険を伴うため、無謀な挑戦は命取りになる。


ランス様の移転の魔道具はそれらの問題をすべて解決してくれる夢のアイテムだ。

毎日自室に帰りシャワーを浴びてベッドで寝られる。

朝起きてその日の荷物だけを持ち、昨日魔道具を置いた場所まで安全に一瞬で移動できる。

怪我をしたら、街できちんと手当を受けることもできる。


本当にこの国に来て良かったと感謝している。




今わたしは最深部パーティーを率いるナルンと一緒に最深部にいる。

わたしの役割は、遠隔からの攻撃と新しくこの最深部パーティーに加わった者達の教育と監督だ。

100人にも及ぶ大パーティーだ。

いくら選抜されたとはいえ、おかしな行動をとる輩も時折出てくる。

実は40階層を越えた頃に一度、大きな問題が発生していた。

ナーカ教国から来た旧ハーン帝国出身の冒険者達が、自分勝手に採取を始めたのである。

この冒険者達は元ハーン帝国軍人で、能力も高く、しかも統率されていたため、20人同時に最深部に送られてきたのだが、元将軍と呼ばれるモン・ジャイがナルンの制止を振り切り、19人の部下を率いて未調査部分に進んで行ったのである。

80人もの大パーティーを率いて窮地に赴くこともできず、わたし達は彼等を見送った。

3時間後、我等が探索中に見つけたのはモンを筆頭とする20人の惨殺死体であった。

鋭い爪で引き裂かれ、一部消し炭のようになったその遺体は、おそらく竜種にやられたのだろう。

そう、このダンジョンでは35階層を過ぎたくらいから様々な竜種が出現するようになったのだ。


この事件をきっかけに、新人は研修を受けることが義務付けされ、その中で徹底的に規律を含めて教えられるようになった。

そして低階層からキチンと修行し経験値を上げるようになったのだ。




今日は55階層目を攻略している。

最近では竜種の扱いにも慣れ、大挙してこない限りはそれほど問題になることも無くなった。

竜種は厄災とも言われ、数100年に一回はどこかの街が跡形もなく消されてしまうようなことを起こしている。

その竜種に対応できるようになった、わたし達の実力は確実に上がっていると思う。



「ナルン、あれはいったい何だろうか?」

暗い闇の中に仄明るく照らし出される小さな姿がある。

人間のようにも見えるが…

わたしの言葉にナルンは目を細め一歩前に出る。

「サリ、お前はここで待機し、何かあれば後ろの連中を率いて下がれ。
俺が様子を見てくる。」

ナルンは、その人影に向かって歩き出した。




<<ナルン視点>>
前方に人影のようなものが見える。

気配から魔物では無い気がするが、こんなところにいるということは、人間ではあるまい。

俺はサリにここで待つように、ゆっくりとその人影に近付いて行った。

「お前達は何者じゃ。
どうしてここにおる。」

頭の中に直接話しかけられるような、奇妙な感覚だが、はっきりと相手の言葉は伝わった。

俺は人影に向かって話しかける。

「俺の名はナルン。人間の冒険者だ。」

近くで見る其奴は、10歳くらいの女の子に見える。

だが、その身に纏うオーラは赤黒く凄まじい勢いで湧き出ているのだ。

そのオーラに当てられただけで、目眩がしそうになり、思わず片膝をついてしまった。

「人間だと?

我が人間に会ったのは、2500年前になるが。

確か人間は滅んだと記憶しておったのじゃが、生きておったのじゃな。」

其奴は顔を少し傾けて、考えているようなポーズをとる。

「貴方は竜の化身でしょうか?」

2500年前と聞き、俺は思い切って話しかけてみた。

「そうじゃ、我は1万年の時を生きる竜族の長である。

2500年ほど前に、マリス様がどこからか連れて来られた人間により、地上は棲めぬようになり、仕方なくここに穴を掘り棲みついておるのじゃよ。」

竜族の長と名乗る少女が語る話しは、正直俺には信じ難いものがあった。

俺はサリを呼び、今の情報を伝える。

そしてサリに至急マサル様に連絡を取るように指示した。

サリが転移の魔道具で庁舎に戻るのを確認して、俺は改めて少女、いや竜族の長に視線を向けた。

「竜族の長様、今我々の長を呼びに行かせました。

すぐに戻ってくると思いますので、しばらくお待ち頂けますでしょうか?」

「転移の魔法陣か。それは誰が作ったのじゃ?」

「今から参ります我等の長でございます。」

「それは楽しみなのじゃ。

確か堕落した人間共からは忘れ去られた技術だったはずじゃからの。」

5分後、転移の魔法具が光り、中からマサル様とサリが出てきた。

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