最強魔法戦士は戦わない ~加藤優はチートな能力をもらったけど、できるだけ穏便に過ごしたいんだあ~

マーくん

第187話 【スパニの動乱3】

<<マサル視点>>
俺は口を開けて固まっている3人の手を引いて転移の扉を潜った。

転移先はロンドー城の地下室である。

そこには事前に連絡しておいたので、アーク陛下が待っていてくれた。

「アーク様、待たせてしまったようで。

こちらがスパニの宰相ハリー殿です。」

俺の紹介で我に返ったのか、ハリー殿がアーク様に向かって、挨拶をする。

「アーク陛下、お初にお目にかかります。

スパニの宰相ハリー・ボートです。
突然のお目通り失礼いたしました。」

「ハリー殿、驚かれましたでしょう。

マサル殿はいつもこんな調子で、わたし達の想像を超えたことを平然と、やってしまうのですよ。

まぁマサル殿だけじゃなく、ご子息達もですがね。」

ハリー殿の困惑顔に俺はハッとして口を出した。

「ハリー殿、転移の扉ですが、通常は魔道具を設置してあるところにしか行けません。

ハリー殿のお屋敷には転移の魔道具を置いてこなかったので、こちらから転移されることはありませんよ。」

俺はハリー殿が、転移で自由に行き来出来ることを危惧して言ったのだが、ハリー殿からはため息が返って来た。

「カトウ公爵様、そんなこと考える余裕なんてありませんでしたよ。

でも今のお言葉で、カトウ公爵様が信頼出来る方だと承知しました。

まぁ、公爵様がその気になれば転移なんか使わなくても、すぐに我が屋敷に侵入出来るのでしょうね。」

「さすがは『賢者』の異名をとるハリー殿、理解が早い。ははははは。」

アーク様の言葉で場は和んだので、結果オーライとしておこう。

「お父様、賊達はこっちだよ。」

ランスの声にアーク様が我々がここに来た用件を思い出された。

「ハリー殿済まなかった。危うく用件を忘れるところだった。

じゃランス君、皆さんを案内してあげてくれるかい。」

「はい、アーク様。
さあ皆さん、こちらです。」

ランスの案内で牢に向かう。
大きな牢には50人ほどの賊が入っていた。

「ライチ、出てくるのだ。」

アーク様の指示で、ライチと呼ばれる山賊のリーダーが牢から出てきた。

かなり疲弊していて、歯向かう様子が全く見られない。

「ランス、見張っている間何をしたんだ?」

「何もしていないよ。
アジトの洞窟の入り口を土壁で覆ったら中から掘ってきたんで、次々に土壁を出しただけだよ。

寝ずにやっていたみたいだからじゃないかなぁ。」

この会話を聞いたライチは、余計に疲れた顔を見せた。

「ハリー殿、この男はロンドーとスパニの国境付近の山中にアジトを持つ傭兵部隊のリーダーでライチと言う。

スパニのバァイフ領を襲撃したのはこいつらです。」

ライチは何も言わずに頭を垂れる。

ハリー殿はカチアさんに向かって話す。

「カチアさん、辛いだろうが賊の顔を確認してもらえないだろうか?」

苦しそうな顔を見せながらも、カチアさんは気丈にも賊1人1人と面通ししていく。

「この男とこの男からこの男までは、森でわたしに襲いかかった者達です。

この男は…、この男は、父と最後に斬り結んでいました。」

カチアさんの唇を噛む音が聞こえるようだ。

「これで確定ですね。

あとは誰の指示で実行したのかですね。

ハリー殿の話しでは、バァイフ家の屋敷周辺だけが襲撃され、他の場所にはほとんど手が付いていなかったということでしたが。」

「そうです。わたしの手の者に翌日すぐに調べさせましたが、間違いありません。

わたしは、バァイフ家への報復ではないかと考えています。」

「報復とは?」

「はい、実はお恥ずかしい話しなのですが、スパニでは中央の官僚や領主達の間に不正がまかり通っている可能性がありました。
実際の人口と収穫量が合わないのです。

そこで、中央の監察官を各領地に派遣し、帳簿を改めさせたのです。

結果、バァイフ領だけが監察官の報告と領主からの報告に大きな差異があったのです。

バァイフ領からの報告書の数字は、わたしの推論のそれと近しいものがあったため、わたしは自分の手の者に、今回携わった担当の監察官を調べるよう手配したところで、今回のバァイフ領の惨状でした。

恐らく大規模に不正を画策している者から、言うことに従わないバァイフ家に対して粛正があったのだと確信していたところに、カトウ公爵様が来られたのです。」

そんなことで!

「ライチ、お前達の依頼主は誰だ?」

「ちっ、俺達は傭兵だぜ。依頼主の名を明かすわけがねえじゃないか。」

「土魔法『ボックス』」

ランスの声と共にライチの周りに土壁ができ、あっという間にライチは小さな土壁に覆われた。

「ギャー、た、助けてくれー、だ、出してー。クルーだ、クルー!ギャー……」

余程土壁がトラウマになっていたに違いない。

「ハリー殿、クルーとは?」

「我が国の軍務長官をしている者です。

やはり、クルーでしたか。
カチアさんの言う通りでしたね。

これで裏付けが取れました。
クルーの逮捕に向かいましょう。

カトウ公爵様、申し訳ありませんが、もう一度我が家までお送り頂けないでしょうか。」

「分かりました。」

俺達はスパニとの国境の砦まで転移し、そこからトラック馬車でハリー邸に向かった。

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