最強魔法戦士は戦わない ~加藤優はチートな能力をもらったけど、できるだけ穏便に過ごしたいんだあ~

マーくん

第185話 【スパニの動乱1】

<<スパニ宰相ハリー視点>>
「なに、ヴァイフ領が大規模な山賊に襲われ、領主家が全滅しただと!」

早朝にわたしは早馬の知らせを聞き唖然とした。

「それで山賊どもはどうした?」

「それが領主屋敷を襲撃後、家の中の物を略奪し、そのまま山に消えていったとのことです。」

山賊のやり方としては、少し様子がおかしい。

中央から軍隊が出されるまで領内を略奪しつくすのが奴等の行動パターンだが、領主屋敷だけを襲い速やかに退却するとは。
まるで目的を果たした軍隊のような規律だな。

しかし、困ったものだ。

先日実施させた各領の検分結果のうち、唯一ヴァイフ領だけが監察官からの報告と手の者からの報告に差異があったのだ。

しかも手の者に領主が伝えた内容を熟考した場合、わたしの予測が正しければ、この国は今とんでもない状況になっていることになる。

わたし自らヴァイフ領を訪れる準備をしていたところだったのだが。



「ラリー、いるか?」

「はいハリー様。お呼びでしょうか?」

「ラリー、すまないが監察官のスミス・リーを調べてくれないか?」

「監察官ですか。」

「そうだ。今回ヴァイフ領の監察を実施したスミスだ。

わたしの予想では、思わぬ大物が掛かると思うぞ。

なかなか尻尾を出さないと思うが、出来るだけ詳細な証拠を見つけて欲しい。」

「承知しました。では。」

ラリーは静かに部屋を出て行った。



<<ランス視点>>
イリヤとスイーツを堪能した後、森の近くを散歩していると、森の中から女の人の悲鳴が聞こえてきた。

「イリヤ聞こえた?」

「うん、聞こえたよ。お兄ちゃん。」

「急ごう。」「うん。」

空を飛びながら悲鳴に向かってスピードを上げる。

すぐに獣人の女の人が、10数人の獣人の男達に襲われていた。

「イリヤ行くよ。」

僕は一番手前にいる男に空中から急降下し、頭を蹴り飛ばす。

男が倒れる前にもう片方の足でその男の体を足場にして蹴飛ばし、更にジャンプし、次の男の頭を蹴り飛ばす。

次々に男を蹴り飛ばすと女の人に触れている男達はいなくなった。

女の人の周りに誰も居なくなったのを確認してから、女の人の周りに結界の魔法をかけておく。

「よし、これで大丈夫だ。」

「チッ、子供じゃねえか。
おかしな魔法を使いやがって!

お前ら、やっちまえ。」

男達のリーダーっぽい奴の号令で、男達が一斉に掛かってきた。

僕は土魔法で男達が走ってくる手前にタイミングを合わせて、溝を掘る。

先頭を走っていた3人が溝に足を取られて倒れた。
その3人の体に蹴躓き、後ろにいた3人も転けた。

「イリヤ、いまだ。」

「まかせて!バインド!」

イリヤが倒れている奴らを木魔法で使って木の蔓で拘束していく。

「やべえぜ。あいつら強すぎる。
ずらかるぜ!」

その光景を見て残った者達が山に向かって逃げて行った。

「お兄ちゃん、逃がして大丈夫だったの?」

「大丈夫だよ。あいつらには追跡の魔法を掛けておいたからね。」

前にお父様に教えてもらった追跡魔法『ファインダー』が役に立った。

『ファインダー』を相手に特殊な魔力を纏わせる魔法で、この魔力を追跡することで、相手の位置が分かるようになるんだ。

「イリヤ、彼奴らを追いかけてアジトを調べてくるから、その人と一緒に待っててね。」

男達が見えなくなるまで待って僕は男達の魔力を追いかけた。



<<傭兵部隊隊長ライチ視点>>
スパニのクルー様からの依頼は実入りが良いんだが、後味が悪いんだよな。

頻繁に仕事をくれるし、払いも良いし、上得意様だ。

ウチも50人からの兵隊を抱えているから、こんな上得意ははなせねぇ。

多少汚い仕事でも、仕事って割り切るしかないか。

でもよお、今回のターゲットだった領主様一家って、凄く領民から慕われていたみたいなんだよ。

今時、領民のために尽くす領主なんて貴重だったよな。

だからこそ、クルー様に潰されたんだろうけどな。


「はあ、はあ、た、隊長、今戻りました。」

「ご苦労さん。どうしたんだ、そんなに慌てて。」

「逃げた女を追っていたんですが、仕留め損ないました。」

「それだけの人数がいて、しくじるとはどういうことだ!」

「それが女は追い詰めたんですが、空から変なガキがやってきまして、それが妙な魔法を使いやがって強いのなんのって。

ラリー達5人が捕まっちまいました。」

「それで逃げてきたってかい。
今から追いかけて捕まえるぞ!
早くついてこい!」

本当に情けない奴等だ。
大の男が15人もいて、女ひとり捕まえて来れないなんて。

まぁ俺がちょっと行って……?

扉が開かない?

根城にしている洞窟の入り口にある木製の扉がいくら押しても開かないのだ。

苛々した俺は大剣を振りかざし、扉へと叩き付けた。

………砕けた扉の向こうは土壁で埋まっていた。

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