最強魔法戦士は戦わない ~加藤優はチートな能力をもらったけど、できるだけ穏便に過ごしたいんだあ~

マーくん

第143話 【シルビア先生】

<<シルビア視点>>
わたしの名はシルビア・ダッソン。
日夜新しい薬草の調査をし、薬の開発をするのが仕事だ。

アカデミーを卒業したわたしは、医学の道に進んだ。
もう40年近く昔の話しだ。

当時は大陸全体が混沌としており、細かな小競り合いが方々で起こっていたのだ。

国レベルで小競り合いとはいえ、そこで戦う人間から見れば戦争となんら変わりない。

当然、わたしが住んでいた街にも負傷者が溢れていた。

彼等を救ってあげたいという思いが、わたしを医学への道に導いたのだった。

当時のわたしにとって、医者になるのはそれほど難しいことではなかった。

基本的な学力や知識については、アカデミー卒業という経歴があれば問題なかった。

あとは現場で医者の弟子になり、ある程度経験を積めば医者と名乗ってもなんら問題ないのだ。

医者によっては、ろくすっぽ経験も積まず、適当な診察で法外な診療費を奪る、詐欺紛いの者が多かったのも事実だ。

そのため、医者=詐欺師と思っている人も多かった。

わたしは信頼できる師を得て、10年間修行を積んだ。
その間には、そこそこ名前も売れた医者になっていたようだ。

わたしの師は、各地の戦場を治療して回っていた。

軽傷な者、重傷な者、手足を欠損した者等怪我人が多い。

また戦場には怪我人だけでなく、その土地の風土病に罹る者や、僅かな傷が元で病を発症する者も多い。

戦場で様々な患者を無数に経験して感じたことは、『医者は無力である』ことだった。

当時の医者は、薬師が作る薬を効果的に投薬し、患者の容態を見守ることしか出来なかった。

確かに薬を的確に選定し、適切な用法で処方するためには、高度な知識と経験を必要とするため、医者の役割は重要なことは間違いない。

ただ、患者に合う薬があればの話しだ。

もしあったとしても、戦場に効果な薬を大量に持ち込むことは不可能で、時間が経てば効能の薄れるものも多い。
短時間に大量の投与が必要になるものもあり、現実的にあの膨大な患者全てに薬を投与することは出来ない。

また奇跡的に助かった患者がいても、その1週間後に彼が戦死して引き上げられてきた姿を見た時は絶望を感じたものだ。

わたしはその戦場を最後に、医者を辞める決心をした。

決して、人々を救いたい気持ちがなくなったわけではない。

むしろ、医者が少しでも多くの患者を救えるような薬の開発をしようと思ったのだ。

それからのわたしは、薬師に弟子入りし、日々山に入って薬草の採取と研究に没頭するようになった。

その後、薬師として独立したわたしは、山中に分け入り未知の薬草を探したり、その加工方法を研究した。
また医者時代に診た、様々な患者の症状を改善するための製薬の知識を資料としてまとめ、それまで薬師の経験でしかなかった薬草の作り方と効能を学問として成立させたのだ。

わたしが提唱した『薬学』は、多くの薬師や呪術師、神官達に批判されたが、幸いにも当時のアカデミー学長の信任を得ることができ、アカデミー内に薬学部ができることになった。

初代の教授はわたしが就任した。

やがて薬学を修めた学生が、優れた医者として認められるようになると、薬師や呪術師、神官達の反発も弱くなり薬学が徐々にではあるが世間に認められてきたのだ。

医者になるにはアカデミーで薬学を学ぶことが必須になるまでには、そう時間は掛からなかった。

王族に名を連ねる侯爵家の子息が、重篤な病に罹り、お抱えの医者がサジを投げた時に、薬学を修めた医者がその病から子息を救ったことがあった。

侯爵は感激し、医者には薬学が必須だということを王家を通じて公に広めてくれたのだ。

これにより、医者のレベルはある程度保証されるようになり、詐欺師呼ばわりされることも減っていった。

わたしは、教授として多くの学生を育成と共に、教育者の育成にも力を注いだ。

十数年が経過し、アカデミーでのわたしの役割もなくなったと感じられたので、わたしはアカデミーを辞して、再び薬草の研究に没頭することにしたのだった。

そして3年前に、ローバー君と旧ハーン帝国の山中にある鄙びた村で出会い、この研究会に参加したのだった。

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