最強魔法戦士は戦わない ~加藤優はチートな能力をもらったけど、できるだけ穏便に過ごしたいんだあ~

マーくん

第67話【富めるモーグル王国と乗り遅れた2国 2】

<<モーグル王国外務大臣ハッカ視点>>
我が国モーグル王国は、100年以上に渡り隣国であるナーカ教国とハーン帝国から嫌がらせを受けています。

ことの発端は、そうあれは120年前に遡ります。


砂漠化もあまり進行しておらず、小国ながら大陸4番目の経済規模を誇っておりました。
その頃モーグル王国は、豊富な鉱石やその鉱石を使用した加工品の輸出により、財政は大変潤っていたといいます。

そんな時、隣国のハーン帝国がナーカ教国に攻め込まれたと、助けを求めてきたのでした。

当時のナーカ教国は、教主が国を私物化しており国民を奴隷のように扱っておりましたが、宗教を盾にされ、誰も不平不満を言えない状況でした。

ハーン帝国が別の宗教を国教にしたのが気に入らなかったようで、ナーカ教国は、ハーン帝国へと攻撃を始めました。

元々の国力が違う上に、ハーン帝国の上層部も腐っている状態だったので、ナーカ教国の侵攻は止まることはありませんでした。

ハーン帝国皇帝から助けを求められた我が国は、ハーン帝国に進軍し、ナーカ教国と対峙します。

一進一退の攻防が続いていましたが、自力で勝る我が国は、敵をナーカ教国まで押し戻し、ついにナーカ教国教都に迫りました。

困った教主は、神の名の元に他国に救援を求めました。

各国から派兵されては、いくら我が国でも勝ち目はありません。

半ば強引に不利な講和条約に調印させられました。

我が国は、自衛目的以外の軍事力を持つことを禁じられました。

その後、派兵した各国から、教主の弾劾がなされ、ナーカ教国は落ち着いたかに見えましたが、頭がすげ変わっただけで実質は何も変わっていなかったのです。

数年後、突然ナーカ教国は先の戦いの戦勝国を名乗り、我が国に賠償を求めてきたのです。

軍事力の無い我が国は、それに贖うことは難しく、経済協力金の名目で支払いを強要されました。

すると、我が国に助けを求め一緒にナーカ教国と戦ったはずのハーン帝国が手のひらを返して、自らを戦勝国と称して、我が国に対して賠償金を求めてきたのです。

始めは、無視していた我が国ですが、周辺各国へのプロバガンダ攻撃を含む執拗な要求に、ついに折れ、完全解決により今後一切の要求をしないことを条項として、平和条約を結びました。

ところが、昨年からハーン帝国からの平和条約を無視したたかりが始まったのです。

今回は、ナーカ教国と手を組み過去の歴史を捏造してまでです。

更に昨年からは、好景気に沸く我が国に対して、領土侵犯や他国に対してプロパガンダを使って捏造した歴史を正当化しようとしてきました。

流石に困りきった国王陛下と宰相様は国際連合に助けを求めることにしました。

今わたしは、宰相のカッパ様と国際連合事務局のあるキンコー王国ナーラ領に向かっている途中なのです。

マサル様に作って頂いたモーグル王国から延びる4本の街道の1つを使ってキンコー王国ナーラ領へは馬車で2日の道のりです。

国際連合に相談するのはこれが初めてです。
国際連合加盟国内で、ハーン帝国のプロパガンダの影響がどのくらいあるかは心配ですが、何とか国際連合に介入して頂き、事態の収拾を図りたいと思います。


予定通り、2日目の昼過ぎに国際連合事務局に到着しました。

ここに来るのは、加盟調印時と合わせて2回目です。

事務局の門をくぐってすぐのところで数人の男性が昼食を摂りながら話し込んでいます。

おや、見知った人がいます。
事務局長のスポックさんです。

彼とは同い年ということもあり、加盟手続きの時から仲良くさせて頂いています。

「スポック事務局長、お話し中失礼します。
モーグル王国のハッカです。」

「ハッカ外務大臣、ご無沙汰しております。

今昼食がてら、モーグル王国の話しをしておったところです。

お疲れだとは思いますが、よかったらこちらに来られませんか?」

スポックさんは気軽に椅子を用意してくれます。

わたしは宰相の方を見ると、宰相も乗り気のようです。

わたし達は、即席で用意された席に移動すると、その中で最年長の老人が、カッパ宰相に向かって話しかけてきました。

「カッパさん、今はカッパ宰相様かな、ご無沙汰ですなぁ。」
「これは、鬼神アーノルド様、大変ご無沙汰致しております。」

おや、老人とカッパ宰相は、顔見知りのようです。

「皆さま、改めてご紹介させて頂きます。
モーグル王国のカッパ宰相様とハッカ外務大臣様です。
本日は、国際連合に相談があるということでお越し下さいました。」

スポックさんが紹介して下さいました。

「モーグル王国で宰相の職を賜っておりますカッパです。本日はご多忙のところ時間を頂きありがたく思います。」

「同じくモーグル王国で外務大臣を拝命しております、ハッカです。よろしくお願い致します。」

スポックさんから、その場にいるメンバーを紹介して頂き、我々2人も席に着いた。

「しかし、カッパ様がアーノルド様とお知り合いとは知りませんでした。
古いお付き合いですか?」

「そうじゃな、ハローマ王国第1皇子の戦の時じゃったかな。」

「そうです。ちょうどシーガの戦場が始めでした。

ちょっと長い昔話になるかも知れませんが、お付き合い下さい。




あの時は、我が国のような小国は、ハローマ王国側につくか、トカーイ帝国側につくかで、各国共風見鶏の様に右往左往しておりました。

我が国は砂漠に囲まれておりますゆえ、簡単に派兵もできず、血気盛んなわたし達若者にとっては、日々歯痒いばかりでした。
わたしは、そんな毎日に嫌気がさし、単身ナーカ教国の戦場に出て行ったのです。

当時のわたしは、モーグル王国最強の称号を欲しいままに、自分の強さを疑うことすら出来ない若僧でしたね。

当時のわたしにとっては、お恥ずかしい話しではありますが、ハローマ王国、トカーイ帝国どちらが勝っても関係ありませんでした。

ただただ、戦場にいる強者と闘いたい一心で戦場に飛び込んだのです。

シーガ公国にたどり着いたわたしは、別の意味で戦場の凄まじさを見て圧倒されました。

泣き叫ぶ子供とその傍らで死んでいる親、兵士による婦女子の蹂躙や金品の簒奪。

わたしが望む闘いの場とは全く異質のものでした。

わたしも子供ではありません。そんなことがあることは知っています。が、そこに広がる光景はそれをはるかに凌駕していました。

婦女子に群がったり、商家の金品を奪う兵士達を倒して被害者である彼らを逃がしました。

彼らは、わたしに土下座するように口々に礼を言って、その場から離れて行きました。

しばらくすると、わたしが兵士達を倒したことを聞きつけたのでしょうか、複数の兵士が近寄ってきました。

兵士達はわたしを遠巻きにしながら、今にも襲い掛かってきそうです。

わたしは、モーグル王国から来たことや民に無体な行為を行っていた為、征伐したことを説明しました。

彼らはわたしに味方がいないことを知ると、一斉に襲い掛かってきました。

彼らは、それ程大した腕ではありませんでしたが多勢に無勢、やがて追い詰められてきました。

その時です。

大きな黒馬に乗って兵士達を蹴散らす荒武者が現れたのです。

それがアーノルド様でした。

アーノルド様の姿を見て、兵士達は突然狼狽し始め、気丈な者は逃げようとしますが、アーノルド様は許しません。
手にした2メートル以上はあろうグレイブをいとも易々と振り抜きます。
その場には、兵士達の首が綺麗な断面を見せて並んでいました。

腰を抜かし逃げられなかった者達は、ただ茫然として、「鬼神だ、鬼神が来た。」と口々に呟くばかりです。

アーノルド様は、後から遅れて来た部下に彼らの回収を指示した後、わたしの方にやって来ました。

「君が狼藉を働いていた兵士どもを倒して民を救ってくれたのか?」とアーノルド様はおっしゃって、見ず知らずの若造であるわたしに頭を下げられました。

わたしは頷き、アーノルド様に御礼を申し上げました。

今のアーノルド様は、今まで鬼神と呼ばれていた威圧感は無く、あたかも世間話しをするように気軽に話しかけて下さいました。

わたしが、モーグル王国から来たことを告げると、「自分と一緒にこの戦を終わらせる為の戦いをしないか」と誘ってくださいました。
わたしに否応はありません。即答で了承しました。

アーノルド様は、わたしが加わることでモーグル王国に迷惑がかかってはと、部下をモーグル王国に行かせ、当時の宰相の許可を得て、わたしは正式に、アーノルド様の部下として、戦線に加わったのです。

それからは戦場を転々と移動しながら、時には話術で、時には武力で次々に戦場を制圧し、争いを納めていったのです。

最終的には、ハローマ王国、トカーイ帝国両国の停戦協定の締結と、ハローマ王国内の不穏分子排除で、大陸を2分する勢いだった騒乱は幕を下ろしました。

調印式にアーノルド様は出席されませんでした。

アーノルド様がキンコー王国の宰相で、大陸の平和を守る為に一肌脱いだことをその時初めて知りました。

自分が調印式に出ると、キンコー王国が絡むことになり、講和条件が複雑になるのを避ける為に、調印式に出席しないことにしたとのことでした。

あれ程の武力を持ちながら、政治的配慮をして、その力を大陸全体の為に使える懐の深さを感じ、それ以来わたしはアーノルド様に近づきたい一心で頑張って来ました。

宰相になったのも、アーノルド様に近づきたかったからですね。」

わたしは、カッパ様の回想を聞いて目頭が熱くなりました。

わたしもまた、カッパ様を目指そうと思いを固めたのでした。

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