最強魔法戦士は戦わない ~加藤優はチートな能力をもらったけど、できるだけ穏便に過ごしたいんだあ~

マーくん

第52話【カトウ運輸設立記1】

<<カトウ運輸番頭ヤング視点>>
わたしの名前は、ヤング。
カトウ運輸の番頭を任せて頂いております。
カトウ運輸は、会頭のマサル様が作られた商会で、名前の通り物を運ぶことが仕事です。
最近は、いろんな商いをしていますが。

少し、カトウ運輸ができた時の話しをしましょうかね。

もう2年前になりますか、ナーラの街で奴隷商人をしていたわたしのところに、1人の青年がやって来ました。

今は奴隷制度が廃止になっていますが、あの頃は結構羽振りも良かったのですよ。

「すみませ~ん、この店にいる奴隷を全て買取りたいのですが。」

「いらっしゃいませ。本日はどんな奴隷を……!
全てですか?

お客さん、冗談もほどほどにお願いしますよ。
冷やかしなら、とっとと帰りやがれ!」

「やはり、ここでも同じことを言われますか。
どうしてもダメですか?」

わたしの頷きに、その青年はやれやれという表情を浮かべてわたしに言いました。

「穏便に済ませたかったのですが、しようがないですね。
では、こちらをお読みください。」

彼の傍らにある箱に入っている10数通の書簡から無造作に1つこちらに渡してきました。
彼が渡してきた書簡には、ナーラ大公爵家の紋章とキンコー王家の紋章が並んでいました。


わたしは嫌な予感がしましたが開けないわけにはいかず、開いてみました。

そこには、奴隷制度廃止の通達と違反した場合の罰則が書いてありました。
しかも施行日が昨日です。何も聞いていませんが、奴隷商組合の方には数日前には届いていたようです。
元締めのハンスめ、先に逃げやがったな。

突然の通達に驚いたこともありますが、こんな普通の青年が王家と大公爵家の紋章が付いた書簡を持ってきた方が恐ろしく感じました。

「こちらで10件目なんですが、皆さん同じような反応をされますね。
それで、どうしますか?
この書簡を見なかったことにして、わたしに奴隷を売ってくれますか?
それとも、しばらく待って、衛兵に捕まりますか?」

究極の選択ですが、ここは奴隷を売るの一択しかないでしょう。
法律は昨日付けで施行されているのですから、20人以上の奴隷を連れて他国に逃げるなんて無理です。

この青年のいう通り奴隷を売ってしまった方が利口です。

ただ、奴隷を売ってしまった後、わたしはどうすればいいのでしょうか?

親の跡を継いで奴隷商しかやってこなかったわたしにできることなんて限られています。

「わかりました。奴隷を売らせて頂きます。病気の者も多いですが大丈夫でしょうか?」

「大丈夫です。全員でおいくらになりますか?」

「23人分で金貨100枚でどうでしょうか?」

彼は、袋に手を突っ込み、金貨を取り出し数えだしました。
1袋金貨50枚ちょうどで2袋、数えた終わった袋をわたしに差し出します。

「いいでしょう。では、ご案内します。」

店の地下に奴隷がいます。
降りていくと段々嫌な匂いが立ち込めてきました。
何年たってもこの匂いは馴染めないのです。

ふつうは、客が要望する奴隷を数人上に引き上げ、身づくろいさせてから客に見せるのですが、今日は全員でしかも病気の者も含めてなので、下に降りるしかありません。

「ここにいるのが全てです。
あまり長くここにいると病気に感染するかも知れませんよ。」

わたしがそう言うと、彼は魔法を唱えました。「浄化。回復。隷属解除。」

僅か数分後には、病気で臥せっていた者、怪我をして四肢に欠損がある者、体力を奪われ死にかかっていた者、全ての奴隷達が元気になっていました。
それどころか、簡単には外せない奴隷紋も消えています。

この人は、逆らっちゃいけない人だと、本能がわたしに告げました。

「おおっ、神様のお使いだ。神様が助けて下さった。」

奴隷達は口々にそう言い、彼に跪いています。

「皆さん、大丈夫ですか?
貴方達はもう自由です。
解放しますのでどこに行っても大丈夫ですよ。
故郷がある方は、故郷に戻って頂いても構いません。
やりたいことがある方は、援助したいと思います。
何もすることができない方、どうしたらよいか分からない方には、わたしの仕事を手伝ってもらいます。

皆さん、決めて下さい。」


奴隷達はしばらく考え込んだのだが、一様に彼についていきたいと言いました。

「分かりました。それでは皆さんついて来て下さい。」

彼は、元奴隷を連れて階段を上がっていきます。

「ちょっと待って下さい。わたしも奴隷商しかやったことが無く、この後どうすればよいか見当も付かないのですが。」

わたしの言葉に彼はちょっと笑顔を見せて答えます。

「奴隷商人の方もあなたで3人目です。あなたもわたしのところで働きますか?」

「よろしくお願いいたします。」

こうしてわたしは、まだ設立前のカトウ運輸に入社することになったのです。

マサル様とわたしは、元奴隷23人を連れてマサル様が借り切っている宿屋に入りました。

宿屋では、既に200人近い元奴隷が居り、衣装屋の女店員と思しき女性が数人走り回って採寸しています。

わたし達が連れてきた者達は奥に連れていかれました。
奥ではお風呂が用意され、そこではメイドと思われる女性が10名程度で元奴隷達の体を丁寧に洗っていました。

どうやら体をきれいにした後で、採寸して統一した作業着を作るようです。

「これだけの資金を持っているということは、あなたは、どこかの貴族様、いやナーラ領主様一族、ま、まさか王族?」

わたしは、マサル様の正体を考えていくうちに、とんでもない結論に達して慌てました。

「違いますよ。いやお金の出所を考えたら、あながち間違ってないか。」

マサル様の呟きに肝を冷やしたわたしは、先程頂いた金貨100枚をマサル様に返しました。

「これは、奴隷を購入したお金だから受け取っておいてもらっても大丈夫ですよ。」

そんな甘い言葉には乗らないぞ。
出所が出所だけに、こんなもん貰ったらどんなことになるか、わかったもんじゃない。

「本当に良いんですね。
皆さん返してくるんですよね。
なんか、無理矢理奴隷を奪ったみたいで申し訳ありません。」

「いえいえ、本来なら捕まっていても文句を言えない立場ですから。
この後の仕事の面倒まで見て頂けるだけで充分です。」

「そうですか、分かりました。」

ふうぅ、危ないところだった。

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