最強魔法戦士は戦わない ~加藤優はチートな能力をもらったけど、できるだけ穏便に過ごしたいんだあ~

マーくん

第35話【サイカー領 その2】

<<マーク視点>>
我々一行は、出発から2日目の夕刻にサイカー領に入った。
サイカー領について、自治組織エゴシャウの代表であるルソン殿を訪問した。
ルソン殿は、王都とのつながりもあり、ユーリスタ様やわたしも面識がある。

「これはこれはユーリスタ様、サイカー領へようこそお越し下さいました。マーク様もお変わりなく。」

「ルソン殿。ご無沙汰をしております。紹介いたしますわ。わたしの友人であり、ブレーンでもあります、マサル様です。」

「....あっ、マサルです。よろしくお願いします。
すいません、失礼なことをお伺いします。
ルソン殿はもしかしてドワーフですか?」

「そうです。ドワーフにお会いになるのは初めてですかな?」

「失礼いたしました。実は私の故郷は非常に遠いところにあり、ドワーフの方とお会いするのは初めてなもので少し緊張してしまいました。」

「まあ、マサル様が緊張するなんて珍しいこと。おほほほほー」

「サイカー領は元々ドワーフが住まう土地でしてな、住民の大半がドワーフです。
ドワーフという種族は、おおらかというか豪放というか、型にはまるのを嫌うのですな。
それゆえ、代官殿が来られてもなかなかうまく合わせることができず、代官殿の辛抱が切れて帰ってしまわれるのです。」

「そういう理由がありましたのね。王都で聞いているのと少し違いますが、やはりその場に来てみないと真実は分からないものね。」

「そうですな。ユーリスタ様、せっかくお越しいただいたのですから、サイカーの名物を食べて行って下さい。」

「サイカーは、海産物が有名ですものね。遠い異国の料理も楽しみにしておりますわ。
ところでルソン殿、今日は折り入ってお願いしたいことがあって来ましたの。
マサル様、説明をお願いできますでしょうか。」

「では、わたしから説明させていただきます。

もうご存知だとは思いますが、現在キンコー王国ではユーリスタ様を行政改革担当大臣として、大規模な行政改革を推進しております。
具体的には、農村における生産性向上、税の徴収方法の変更、国による主要作物の価格・備蓄量統制、塩・砂糖、香辛料等の国内自給等々が挙げられます。
つまり、国民生活に最低限必要な食料の確保と価格の安定化を国がコントロールする仕組みを構築したとお考え下さい。

既にキンコー王国内では8割程度の地域で実践され、インフレを引き起こさずに、庶民の平均所得は改革前の140%程度となっています。
また、庶民に教育の無償化等、今後の国の発展を見据えた制度改革も推進中です。」

「ほう、うわさには聞いておりますが、先進的で素晴らしい改革が進んでおりますな。
では、今回の来訪は、その改革をこのサイカー領でも進めたいから協力する様にとの要請ですかな?」

「もし、それを望まれるのであれば、ご協力できると思いますが、今回の目的はそこではありません。

国全体で改革を進めるためには物の流れをスムーズにし、迅速に、大量に、どこへでも運べる「物流ネットワーク」というものが必要です。
国内では、サイカー領を除き、ほぼ100%の範囲をカバーする「物流ネットワーク」を構築しました。
ルソン殿は、昨年のタカツー領の冷害のことはご存知でしょうか?」

「聞いております。タカツー領といえば山に囲まれた言わば陸の孤島。そこで冷害が発生した場合、食糧不足による被害が大きいだろうと思っておりました。
ひそかにサイカー領からも援助物資を届けようかと思慮しておりました。
まあ、運べる量も限られておりますので、雀の涙程にしかならないとは思っていましたが。
結局、王都からの援助で、大事にはならなかったようですな。」

「実は、タカツー領にも物流ネットワークが構築済みだったので、近隣各地から備蓄食料を集めて運び入れました。
その物流ネットワークを運営しているのが、「カトウ運輸」です。一応わたしが会頭をさせていただいております。
これまで物の流れは、商人が自分の商いの範囲内でしか行われていなかったため、利の薄い場所については物が流れにくかったのです。
その点、カトウ運輸は物を運ぶのが仕事ですから、必要な場所に必要な分を早く送る為の仕組みを用意しました。」

「実に見事な差配ですな。その先見性には頭が下がる思いです。」

「ありがとうございます。これも全て国内の行政改革による食料備蓄や国内の統制が進んだからです。

そこで、今回のお話しに戻りますが、この物流ネットワークをサイカー領にも繋げたいと思っております。
そして、更にはこのサイカー領を窓口として他国との輸出入を増やしたいと、考えております。

現在、「カトウ運輸」の物流網は近隣諸国にまで伸びつつあります。既に陸路においては、トカーイ帝国やシルガ王国等とも大規模な交易を始めました。
サイカー領は、海路を通じて、遠国との取引もされていると聞いています。
それらの物資を「カトウ運輸」が持つ物流ネットワークを通じて国内中に流通させれば、サイカー領の取引量も大幅に上がるのではないでしょうか?」

「おっしゃるとおりですな。我ら商人は、利のある取引しかしません。
故に、せっかくお取引の声をかけて頂いても、少量でしかも遠方となると、配送だけで赤字になってしまうので取引をお断りしております。

それを配達だけを専門にやって頂けるのでしたら、まあ料金次第ですが、お願いすることで販路を拡大できるというものです。」

「カトウ運輸では、各領の主要な街に倉庫を作り管理しております。
運ぶ時は様々な荷主様の荷物を合わせて大量にその倉庫に運んで入れておきます。
販売する時はその倉庫から顧客まで届けることになりますので、配送にかかる費用を抑えることが可能です。
また、倉庫間の移動もコントロールできる仕組みを構築していますので、適正な在庫量が足りなくなった場合は、他の倉庫から運び入れることができます。
もちろん、荷主様間の販売も倉庫内で実現できますので、取引先の急な要望に応えられる機会も増えるのではないでしょうか。」

「それだけのものを構築するとは!マサル殿は、素晴らしいアイデアと実行力をお持ちですな。
わかりました、エゴシャウ内での調整は必要ですが、是非サイカー領も物流システムに参加させていただきたいと思います。」

「ルソン殿、ありがとうございます。
それと、もう1つお願いがあります。

今後カトウ運輸は遠国にまで物流ネットワークを広げる予定です。
そうすることで、今まで入手困難であった商品が安価で国内に流通することが可能になり、国民生活の幅が広がるでしょう。
それと同時に、人的な交流も広がり、文化や知識が交わることで、より国家の繁栄を享受できるようになると考えています。
その際の窓口として、サイカー領の港を利用させて頂きたく思います。

こちらに設置させていただく倉庫運営や配送に必要な人件費は、カトウ運輸が負担しますので、サイカー領の雇用促進にも貢献できると思います。
また、多国間の売買に発展する場合には、通行税を別途サイカー領にお支払いし、サイカー領に納めさせていただく予定です。」

「そこまで考えておられるということは、カトウ運輸は、キンコー王国の国営企業と考えてもよろしいですか?」

「そう考えて頂いても構いません。本来であれば国営企業として起こすのが正しいのでしょうが、旧来の考えを持つ貴族も残っているため、わたしの私的企業としての体裁を取っております。
結果的には、私的企業であるために、各国との円滑な取引も可能になったわけですが。

今は、カトウ運輸1社が、この分野を牛耳っておりますが、いずれ競合他社が増えてくると思います。そうなれば、競争原理が働き、国の保証も必要もなくなるのではないでしょうか。」

「わかりました。そこまでお考えであれば、わたしからは何も申し上げることはありませんぞ。
エゴシャウ内での調整はお任せください。

では、食事に行きましょうか。」

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3日後、無事にサイカー領での採決がとられ、カトウ運輸のサイカー領進出が決まった。
なお、後日王都に帰還後、ユーリスタ様からの報告により、王のサイカー領に対する不信感も消えた。
また、ユーリスタ様の進言により、ルソン殿が代官としての任を与えられることになった。

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