最強王子の無双譚〜暗殺者の僕が転生したら王子に生まれ変わったのだが、ステータスを前世から引き継いだので王子だが暗殺者として無双する〜

皇城咲依

8.相棒

私こそA-702。
今は宇宙…いや、レインが名付けてくれたアレクという名だったか。
さすが我が相棒、センスあるではないか。
なかなか外に出させてはくれなかったが、この面白そうな状況で顕現させてくれるとは。
十年間も待ったかいがあったというものだ。

私の目の前ではカタカタと震える男の姿。
私はその男に優しく笑いかけてやる。

「あなたが私を恐ろしいと思うのならばそれはあなたがまだ正気だからだ。あなたが悪に落ちないでよかったよ。」

この記憶もレインと共有されるからちょっとは優しい雰囲気出さないとあいつに怒られるからな。
…して、隣の女はどうしようか。
先程の鬼神迫る雰囲気はキレイさっぱり消え、ポカンと小さな口を開いている。

まぁ、そうだろうな。
なにせレインは、私の弱体型なのだから。
あいつ一人だけでもこの世界の人間のほぼ全員を暗殺できるだろう。
しかし私はそんなレインの軽く十倍も強い。
宇宙もそう分析していたしな。
まぁ、レインよりも強くても私ならパンチ一つでこの世界の裏側まで吹っ飛ばせる自信しかないからな。
それについでと言うように目の色も変わってるしな。どういう原理は自分でも知らない。

まぁ何が言いたいかというと、そんな私が急に優しい男から豹変したのだ。そうなることは当然だということだ。

レインも素晴らしい女に好かれたものだ。
ポカンとしていても隙が無く、レイピアの構え方も無駄が無い。
それにこんなこと言っちゃ悪いが、はっきり言うと「美人」だしな。
しかし私は兵器だからな。この女に「好き」という感情は持たない。
ただ、「あー、綺麗だなー。」って感じだけだ。

私が武器も何も出していないのに女は一歩後退る。
私はため息をつくと、女に笑いかける。
私のせいでこの女にレインが嫌われたら後であいつに叱られる。

「大丈夫ですよ、名を…スィーファリアと言っいましたか。私はレインの仲間…いや、相棒と言ったところですか。名をA-702といいます。『エイナ』と仲間からは呼ばれてましたけど。」

レインはこの女に自分の正体がバレることを嫌がるだろうから前の通り名を使った。
核兵器と言っても良かったのだが元々この呼び名は宇宙も嫌がっていたからレインも嫌がると判断した。
ちなみにエイナと呼ばれていたのは真実である。
なんでもAと7の「ナ」を足していたらしい。宇宙がつけた名だから不満もあるが甘んじて受け入れていた。ついでに言うとB-359は「ベース」と呼ばれてた。

我々「兵器」の本性たちは本人たちによって「組織」の研究員共にも隠されていた。
あれから十年経ったからバレているかもしれないが確認のしようがない。
しかし、バレていたら又もや辛い実験が繰り返されている事だろう。
宇宙がそれに巻き込まれることは無かったことにホッとしている自分である。

「エ、エイナ様?…レイン様ではないのですか?」

女は小刻みに震えている声を発した。
私は肩をすくめ、笑いながらこう問う。

「この私がレインだと思いますか?」

女はふるふると首を横に振る。

「貴方はレイン様ではない…。レイン様の別人格か本性…だと私は推測しています。」

なるほど。頭もきれるようだ。
私の表情と言葉遣いや抑揚などで判断したのか、それともカンなのか。
どちらにしても素晴らしい推理かカンだ。

私はフッと笑う。

「まぁ、そう言ったところですよ。流石レインの恋人ですね。」

スィーファリアはこんな状況であるというのに顔を赤くしてもじもじし始める。
顔を赤くしながらモゴモゴと何かを呟いている様は可愛らしいということしかない。

「そ…そんなこと……。私なんかまだまだですし……。」

そんなスィーファリアを私が微笑んで見ていると、男が動いた気配が。
出口へ向かってソロソロと音を立てずに逃げようとしている。

私は笑うのをこらえた。
行動が鬼ごっこで鬼から逃げようとする子供そのものだったからだ。
まぁ、それごときで逃げさせられるようじゃ暗殺者失格だ。

その時だった。
スィーファリアも男の動きを感じたのかレイピアを掲げた。
すると、轟々と燃える炎が刀身に巻き付く。炎の剣と化したレイピアをスィーファリアは構える。

付与魔法。
それは魔法と剣技の集合体であり、究極の秘技。
付与魔法を心得ている者はこの世界でも数少なく、スィーファリアはその付与魔法を完全に使いこなせる更に数少ない者の一人だ。
レインの記憶にはそうある。
レインの記憶が正しければ、相当彼女はすごいのだろうか。

スィーファリアが無言でこちらの様子に気づいていない男に向かって歩き出そうとする。
共に向かおうとした私をスィーファリアは目で押し留める。

(エイナさんはここで。)

私に小さく呟くと一人で淡々と向かうスィーファリア。

そしてスィーファリアはポンッと男の肩に手を置く。
ビクリと大きく体を震わせる男。
男が振り向くとそこには凄みのある笑顔のスィーファリアが。その右手に下げた剣にはメラメラと炎が激しく燃えている。

「あら?私の家に押し入っておいて謝罪もせずに立ち去るとは。どういう了見で?」

ニコニコと凄みをきかせながら質問するスィーファリア。
炎の暑さなのか冷や汗なのかわからないが更に汗を流す男。
…ふむ。どうやら肝も座っているだ。

すると突如トントン、と音がした。
ドアが叩かれる音か。

「スィーファリア?さっきからどうしたの?なにかあった?」

ドアの向こうから聞こえる女の子の声。
するとスィーファリアは声色一つ変えずにこう返す。

「あ、もしかしてヨーリア?ごめんね、うるさかった?」

するとスィーファリアはチラリと私を見る。
私はその視線から意図を感じると、肩を落とす。

あーぁ。この世界を満喫できると思ったのになぁ…。

私は目を瞑る。
そして奥底にある小さな意識に語り掛ける。

(おい、宇宙。)

すると答えがあった。

(…ん?あれ、ここで交代かい?中途半端だなぁ)
(仕方ないだろ。)
(…はぁ。分かったよ。おつかれ、エイナ。)
(あぁ。)

「私」と「僕」は一つの肉体の中で立場を入れかえる。

(頼んだぞ、私の相棒。)
(任せてよ、相棒!)

すれ違いざまに僕らはそう言い、笑い合う。
そして僕は光のない深い湖から光に向かって泳ぐように……。

僕は感覚を取り戻した手足を感じる。
そして瞼を開く。
そこには付与魔法でレイピアに炎を宿したスィーファリアと彼女に脅されるバグローグスがいた。
僕とエイナの記憶は共有されているため何があったのかは全て覚えている。
スィーファリアはこちらを見るとガラリと変わった僕の雰囲気に肩で息を吐いた。

「…レイン様…。」

後ろでリーナティアが震える声で僕の名前を呼んだ。
僕は彼女に微笑んでみせる。
スィーファリアがこちらを見て、小さく頷く。
僕も頷いてみせると、ドアへ向かう。
そして僕はドアを開け、外に見る。
するとそこには可愛らしい大きな瞳をした女の子が。

「あれ?ここはスィーファリアの家じゃなかったっけ?」

出てきた僕を見て女の子はキョトンと首を傾げる。僕は女の子に笑いかける。

「うん、そうだよ。僕はスィーの友達なんだ。今スィーは忙しくて。」

女の子は長く伸びた赤色の前髪をかきあげた。
なんかその仕草がかっこよかった。

「まー、学校入ったって言うし、何かあったのかもね…。」

腕組みをする女の子。
スィーファリアがヨーリアって呼んでたっけ…。
するとヨーリアは暫く何か考えてたが、考えをどこかに霧散させるように軽く頭を振ると、僕に小さな手を差し出してきた。

「俺はヨーリア・レイブロース。スィーファリアの幼なじみだ。年齢は8歳。よろしくね。」

僕はヨーリアの第一人称を聞いて耳を疑った。

…え、俺?
でも…見た目はどう見ても可愛らしい女の子…。クリクリの犬のような雰囲気なのに…。
え?もしかしていわゆる「男の娘」ってやつ?!
いや、でもどう見ても女の子…いや、めっちゃかわいい…。え?ん?

僕は狼狽した。クリクリの目をヨーリアはこちらに向ける。
そして僕の手を取ると、こう言った。

「名前は?お兄さん。」

僕はその一言で我に返り名乗る。

「ソラだよ。よろしくね。」

ヨーリアはニッコリと可愛らしく笑うと大きく頷く。

「こちらこそ!スィーファリアの友達がこんなに優しそうな人で良かったよ!」

と笑うと、

「じゃ、スィーファリアによろしくね!俺はもう行くよ!」

…僕も結構女顔だけど、あんなに「女の子」じゃない…。

可愛くウィンクするとヨーリアは走り去る。

なんか…色々ありすぎて頭が追いつかない…。

僕は玄関の前で頭を抱えた。

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