朝昼晩

7.キャバクラ編 ★体験入店

18時50分に池袋駅についた私は涙が溢れた。


池袋の駅構内には幸せに溢れているカップルでいっぱいだったからだ。
本当なら私もその中の一人だったのに。


電話番号が書かれている紙をひろげ、電話をかけた。


「はい?」


「あ、本日面接をお願いしている者ですが・・・。」


「あー今行きますね。どんな服着てます?」


「黒のジャンパーに、白のスカートです・・・。」


「5分くらいで着くんで、おじさんの銅像がある場所わかります?そこでまっててほしいんですが。」


「あ、わかります・・・。待ってます。」


やや、無愛想な声の男性は突然電話を切った。
あぁ、常識も知らないんだ・・・。






5分後




「体入の、山崎さん・・・?」


「あ、はい・・・。」


紺色のピチピチのスーツにオールバック、銀縁のメガネをかけた男性が話しかけてきた。


スーツについてくわしく知らない私でもわかる、このスーツは高い・・・。


特に会話もせずに無言のままお店まで歩いた。


無言だったけど、私の歩くスピードに合わせてくれていて少し人間味を感じた。




「こっち、こっち」


お店に入ると、夜の町よりも暗い部屋だった。


暗い部屋に赤と黄色のライトが怪しく光っていた。


「じゃ、ひとまず、ここ座って。」


白いソファーに座るように促され、座る。
座ったのを確認し男性は無言で去っていった。


あたりを見渡すと段々と目がなれてきて店内の様子がわかってきた。


白いテーブル、白いソファー、赤みがかった壁に、チラつくライト。
壁にはガラスの靴のような形のお酒がきれいに並んでいた。


「じゃ、面接始めます。」


という声におどろいて前を向くとまた新しい男性がいた。


「俺、店長やってます、加藤と言います。よろしくね。」


「よろしくお願い致します・・・。」


「えー・・・・と・・・、もしかして、夜の店はじめて?」


「あ、はい・・・。」


「なんか体入の電話男からかかってきたんだけど、もしかしてワケアリ系?」


「家、買いたくて・・・。」


「家!??!?」


店長にこれまでの彼氏とのやり取りを説明した。


「え、マジ!?こんな志望動機初めてなんだけど、ウケるねっ!」


「ちなみに、今日は面接だけじゃなくて、体入してもらう予定だけど平気?」


「たい、にゅう・・・?」


「体験入店のこと。体入っていうの。実際お店で働いてもらうんだけど、平気?」


「私にできますかね・・・?」


「うーん、できないことはないけど自分次第なんじゃない?」


「はい・・・。」


「じゃ、まずは着替えてもらわないとね。ついてきてくれる?」


「はい。」


バックヤードに連れて行かれた。
バックヤードは細長い道のようになっていて、入り口の近くに女の子が椅子に座りながら携帯をいじっていた。


更に進むとスタイリストみたいな人が女の子の髪の毛をセットしていた。


また更に、進んだところに更衣室とドレス、靴だな、ロッカーがあった。


「ここのロッカーに貴重品とか入れてね。鍵は俺が管理するから安心してね。ドレスと靴は好きなのでいいよって言いたいんだけど、何着たらいいかわかんないよね?俺の趣味でいい?」


「はい、助かります。」


そういうと店長はドレスをかき分けて一着出した。
君、肌白いから、白色の清楚系な感じのドレスが似合うと思うからこれでいい?あとくつは透明のあのヒールで。」


ドレスを渡され、狭い更衣室で着替えることにした。


生まれてこの方、こんな派手なドレスを着たことがない私は恥ずかしさと虚しさが混ざった。


ドレス自体は可愛かったが、少し脇のところが臭かった。


「お、いいじゃん、似合ってるよ!」


更衣室からでた私に店長はハイテンションで言った。


「次は、髪の毛を可愛くしようか。」


そういって先程きた道を引き返してスタイリストみたいな人のところについた。


「そうだな〜派手めなポニーテールで!」


店長がそう言うと、


「確かに、この子はアップほうがあいそうだね!OK〜。さ、座って座って!」


そう促され、パイプ椅子に座った。


「髪の毛セットしながらで悪いんだけど、源氏名何にする?」


「え・・・と・・・。」


「さすがに本名でやろうとはしてないよね?別にいいけど後で面倒事とか起きた時大変だから名前は変えるのおすすめする。」


「うーん、考えていなかったので・・・・。」


「じゃあ、”みつき”って名前はどうかな?」


「みつき・・いいですね!」


「俺ねー、名前つけるの上手なんだよ。俺が名前つけた子は売れるよ〜?」


「はは・・・。」


正直、店長のノリに全くついていけなかった。
初対面なのにこんなにバンバンするし・・・。


髪の毛をセットしてもらいながら、一通りキャバクラの仕事について教えてもらった。


「はい!完成だよ!かっわいい〜!」


手鏡で自分を写すと、見たこともないくらい華やかな私がいた。


「素敵・・・。」


思わず声が出るほど素敵なセットだった。


「えへへ〜てれるな〜!そうだ、ちょーっと働くには化粧がうすすぎるから手直ししてもいいかな?」


「お願いします。」


そう言って、大きな化粧ポーチを広げて何個か化粧品を取り出していた。


「まずは、目元ね。つけまつげとかバサバサしたものは似合わないと思おうから今回はマスカラ重ね塗りするけど、マツエクとかしたほうがいいかも。」


「マツエクですね!探して言ってみます。」


「あと、今できるのは、目の下に涙袋を足すね。なんで足すかは・・・ググってみて!」


「はい。」


細かいところを手直ししてもらい、手鏡で見直すと・・・


「別人みたい・・・。」


本来ならば嬉しいはずなんだろうけど・・・。
今までにない化粧の濃さに下品さを覚え悲しくなった。
そんな私に気がついたのか、


「何度もね、化粧してると馴染んで来るから大丈夫だよ。それにほら、本当に可愛いから自身持って!」


そう励まされ店長に声をかけた。


「セット終わりました。」


「お、かわいいじゃ〜ん!」


「ありがとうございます・・・。」


あんまりにも素敵な笑顔で褒められたので恥ずかしくなった。


「そしたら、さっき教えた接客の仕方、次は実技ということで!」




先程の白い椅子のところに行くと。


「まず、お客さんが先に座っているのね、そこで俺とか他のボーイが女の子をここまで連れてくる。”みつきさんです。”って紹介する。そしたら椅子に座りながら”失礼します。”という、ここまでOK?」


「はい。」


「その後、席についたら改めて自分で自己紹介。”みつきです。よろしくおねがいします。”てね。」


「はい。」


「最初はお酒作らないように順番見て回すけど、お酒のヘリ具合とかしっかり見ててね。だいたい残り三分の一くらいになったらお客さんに声かけてあげて。”おかわり作っていいですか?”とか”次何飲みますか?”とかまあ臨機応変に。」


「はい。」


「お酒は、2種類で居酒屋みたいに頼むのと、ボトルっていうのがあるんだけど、ボトルって知ってる?」


「さすがにそれは知ってます・・・。(笑)」


「OKOK!ボトルなら、その場でお酒を作る、居酒屋みたいに注文なら減ってきたら注文してあげる。そんな感じ。」


「で、女の子もお酒を飲んでお金をもらうんだけど、ちなみにお酒のめる?」


「好きは方で、よく飲みます。」


「お、意外!席に座って、お客さんにお酒作ったり一段落したら、”私も一杯頂いていいですか?”って聞いてね。それでいいよって言われたらオレたちを呼んでほしいんだけど、そのときは”すいません”じゃなくて”お願いします”って呼んでね。」


「”お願いします”ですね。」


「で、好きなお酒頼んでいいよ。まあ、今日は体入で初めてだし、1000円くらいのお酒頼めたらOKかな。」


「がんばります・・・。」


「接客方法とかさ、俺よくわかんないから女の子とかに聞いてね。他にわからないことは?」


「大丈夫です・・・・。」


「緊張してる?」


「すっごく・・・。」


「今日クリスマスだし。もう年末だしお客さん沢山来るから緊張してる暇なんてないと思うから大丈夫だよ。」


「はい・・・。」


「まあ、一番は自分が楽しむことだね。頑張って」


「はい。」


「じゃ、さっきバックヤードで女の子達が座っていた場所行って名前呼ぶまでそこで待機しててくれる?携帯いじってていいからね。」


「はい・・・。」


バックヤードの待機する場所に行き、空いている椅子に座った。


女の子が9人くらい並んで皆携帯をいじっていた。
とてもじゃないけど挨拶できる雰囲気ではなく静かに座った。

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