聖女と最強の護衛、勇者に誘われて魔王討伐へ〜え?魔王もう倒したけど?〜
26 フン
「信じらんない……」
「そうだな、何で俺らだけで働かねぇといけねぇんだか」
「そっちじゃないわよ!」
ルストの爆弾発言の翌日、ルストはリーネと共に冒険者ギルドへと訪れていた。
『ちょちょちょっと時間をくくれないか?あ、明日は僕は大教会に行って少し話をしてきたいんだ』
動揺を全然隠し切れないラクスによりオフとなったルストだったが、だったら朝から晩まで食べ放題だな!という嬉しそうな発言でラクスは財布の中を脳裏に描き、依頼をこなすように言い渡してきたのだ。
ルストを放っておいたら資金が尽きる。ならば時間を拘束しつつ、少しでも稼ぎを生む為の案だったのだが、それはルストが拒否。
『俺はお前の仲間でも部下でもねぇよ』
ごもっとも。反発も抵抗もなくそう納得したラクスは、リーネにお願いして一緒に同行をお願いしたのである。
つまり、リーネが依頼を受け、その『護衛』にルストを拘束するというものだ。
それをこちらも驚愕で半分放心していたリーネが頷いた事で、こうして2人でギルドへと来ていたのだ。
ちなみにムムは昨晩の大音量でさすがに起きてしまいそのまま夜更かし、結果今朝はおねむでお留守番となっている。
「さて、何の依頼にするよ?楽で早く終わるのがいいよな」
「はぁ……それじゃ意味ないでしょ?楽なのはともかく、時間は多少かかる依頼よ」
言うまでもなく、ラクスを時間的に拘束する必要がある為である。
それにはルストも言うだけ言った程度だったようで、肩をすくめさせて否定しない。
「おぉ?今日は聖女様と〝フン〟だけかぁ?」
「優男と『瞬剣』、『絶対零度』はどうしたんだよ?」
そうしてギルド内に入ると、それを見た冒険者達がわらわらと2人を囲み始める。
「あいつらはサボりだよ」
「あいつ呼ばわりたぁ、何様だよお前?」
「そんな言って、お前が足引っ張るから捨てられそうなんじゃねぇのかぁ?」
「聖女様は優しいからついてきてくれたんだろ?保護者いないと何も出来ねーのかよ?」
ルストが答えると冒険者達は大声で笑いながら罵倒し始める。
それをルストは男達に囲まれながら溜息をそっとこぼした。
ルストは冒険者達に陰口を叩かれているのは気付いていたのだ。
どうやら情報に詳しい者には簡単に分かるようで、『瞬剣』クロディーヌと『絶対零度』リィンは今ではほぼ全員が正体に気付き、憧憬と畏怖の目で見られていた。
また、ラクスがリーダーなのは当然見ていれば分かり、かの二つ名持ちを2人も擁するパーティのリーダーとしてやはり似たような視線が向けられている。 聖女リーネは言うまでもなくこの都市の尊敬の的である。少々尊敬よりも親近感の割合が高めだが。
ともあれ、勇者パーティにおいてルストだけが異様に浮いてしまうのでは仕方ない事であった。
野暮ったく伸ばされた、塗ったくったような黄と金の中間という色合いの髪に、武器も持たずメンバーの後ろを歩く男。
覇気もなくヘラヘラとメンバーに話しかける姿に、好意的な視線はほとんどなく、むしろ否定的な視線ばかりが刺さってしまうのも予想出来ない事ではないだろう。
それでもこういった直接的なちょっかいは初めてである。
恐らく、というより確実にメンバーがこの場にほとんど居ないからであろう。
「聖女様はどうぞこちらに」
「こんなださくて弱そうな男とじゃつまらんでしょ、たまには俺らと冒険しやせんか?」
地元――聖都の冒険者がにこやなにリーネに話しかける。顔見知り、とまではいかずとも見たことがある顔もあった。
そんな冒険者達に囲まれて誘われるリーネは、ふと考える。
「意外とそれも面白いかも?」
「おぉ!リーネ様が乗ってきたぞ!」
「マジか!おいお前捨てられてんぞ!」
単純に聖都を離れる前に少し地元の者達と交流もアリかも、といった意味での軽い気持ちだったのだが、それに冒険者は大盛り上がりを見せる。
そして当然、その分ルストへは罵倒の言葉が飛び交った。
あ、しまった。そう思ったリーネはルストを見やる。
さすがに愛すべき民とは言え、眉をしかめてしまいそうな罵倒に晒されるルストに、慌てて弁解しようとして、
「お、マジで?んじゃ俺ゆっくりしてるから行ってこいよ」
「………は?」
「ん?いやこいつらと冒険してくるんだろ?たまにはそういうのも良いだろうし、羽伸ばしてこいよ」
あっけらかんと返された。
「……アンタね…」
「……おい、なんだこいつ。ナメてんのか?タメ口きいてんじゃねぇよ」
「これだけ言われて言い返す根性もねぇのかよ、あぁ?」
思わず呆れと、護衛はどうしたという怒りに頬をひきつるせるリーネの前に、ズイと進み出てルストを威嚇する冒険者。
ルストの態度やリーネへの言動が彼らの琴線に触れたらしく、据わった目でルストを睨みつける。
「ん?あぁ悪い。学がないもんで、敬語は苦手なんだよ。気ぃ悪くしたんなら謝る」
「謝って済む話かコラ!」
「え、済むだろ普通」
済むわね、普通。と内心呟くリーネ。しかしどうやら彼らはそうではないらしい。
ルストの胸ぐらを掴んでメンチを切る冒険者に、ルストは深く溜息をついて、チラとリーネを見やる。
「……リーネ、地元のヤツらだろうに悪いな」
「いいわよ、流石に自業自得だわ。まぁアンタがボコボコにされるのも面白そうではあるけどね」
「あぁ?なんだぶつぶつと!リーネ様に助けでも乞う気か?!」
リーネの許可をもらい、目の前で大声で叫ぶ冒険者をルストは見据えた。そして、薄く口の端を吊り上げる。
「よし、それじゃあ俺に文句があるヤツは好きなだけかかってこいよ。そんで負けたら飯代出せ」
その言葉を最後に、冒険者ギルドに罵声と衝突音が炸裂するように響いた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「私実はアンタの嘘じゃないかなって思ってるんだけどね。ちょっと信じそうになっちゃったわ」
「あ?何が?」
「いや、なんでもないわよ」
リーネは目の前のテーブルに所狭しと置かれた料理を片っ端から口に運んでいるルストに溜息混じりでぼやく。
ギルド内に響く騒音はそう長くは続かなかった。 リーネが手頃な避難場所を見つけて椅子を運んで座る頃には罵声に悲鳴が混じり、それに気付いた周りで見ていた冒険者がまさかと思いつつ乱入する。
長引きそうね、とリーネが依頼書でも見ようと張り出されているボードに足を運んでいつか眺めていると、一際大きな悲鳴が響いた。
何事かとリーネが振り返ると、何をしたのか分からないまでもまとめて吹き飛ばされたらしい冒険者達が周囲の冒険者を巻き込んで吹き飛び、倒れていたのだ。
「これなら金も使わずに飯が食えるし、またやろっかな」
「勘弁してくだせぇよ旦那!」
「ほんとですぜ、もうこりごりだ」
満足そうに笑って食事を頬張るルストに、近くの席に座る冒険者がギョッとして叫んだ。
あれから荒れたギルド内の片付けをリーネに言い渡され、痛む体に鞭打って片付けていく冒険者達に飯代を請求したルスト。そして、参ったとばかりに快く金を出していく冒険者達。
「つーかこいつらいいヤツらだな」
「でしょ。 ……財布として、とか言ったら怒るわよ?」
箸休めに水を飲んだルストがふと口にした言葉に、リーネはジトっと半眼になりながら返した。
それにルストはまた箸を手にしながら笑う。
「いやお前の為に怒ってたみたいだし。しかも負けたら潔く認める度量もあるしな」
取っ組み合いとなった際、彼らは「リーネ様に何様だ」「リーネ様の弱みでも握ってんのか」とリーネの事ばかり口にしていたのだ。
浅い付き合いとは言え仮にも主人であるリーネを想っての暴挙と思えば、ルストもあまり手酷い扱いは控えていた。
実際、冒険者達は打撲くらいはあれど、血は一切流れていない。
そして終われば悪かったと口にして金を支払う冒険者達に、ルストの方が虚をつかれた程である。
「さすがは仕える主人の済む街、ってか。良い民だ」
「………ふん」
ニィっとからかうように笑うルストに、しかしリーネは返す言葉を用意出来ずにそっぽを向いた。
その仕草に、照れたか?と追撃をしようとするルストだが、その頬が緩んでいるのを見て口を閉じた。
「……ねぇ、アンタ。昨日の話、ホントなの?」
「ん?信じてねぇのかよ?……まぁそりゃそう、なのか?」
眉根を寄せかけたルストは、話すうちに首を捻って語尾を落とした。
そして、肩をすくめて唐揚げをぱくり。それを存分に味わって飲み込み、口を開く。
「嘘じゃねぇな。だからもう安心しとけ。そんなヤツと戦う必要はねぇんだ」
「――っ」
ルストの言葉に、リーネはピクリと肩を跳ねさせた。
あ、動揺してる。と自覚出来たリーネは、しかし何故動揺したかは分からない。
こんなふざけたヤツが本当に人類の最大最凶の厄災を討った事に驚いてか。
それともそんな脅威に対峙する事を怖いと思っていた事が見透かされているような気がしてか。
それとも、彼らしからぬ優しい微笑みにか。
ともあれ、心を掻き乱されて言葉が出ないリーネ。しかし、確かにその心にもたらされる、安堵。
それをひとつずつ処理するように、または噛み締めるように黙り込んだ彼女に、ルストは何を言うでもなく肩をすくめて食事を再開するのであった。
「そうだな、何で俺らだけで働かねぇといけねぇんだか」
「そっちじゃないわよ!」
ルストの爆弾発言の翌日、ルストはリーネと共に冒険者ギルドへと訪れていた。
『ちょちょちょっと時間をくくれないか?あ、明日は僕は大教会に行って少し話をしてきたいんだ』
動揺を全然隠し切れないラクスによりオフとなったルストだったが、だったら朝から晩まで食べ放題だな!という嬉しそうな発言でラクスは財布の中を脳裏に描き、依頼をこなすように言い渡してきたのだ。
ルストを放っておいたら資金が尽きる。ならば時間を拘束しつつ、少しでも稼ぎを生む為の案だったのだが、それはルストが拒否。
『俺はお前の仲間でも部下でもねぇよ』
ごもっとも。反発も抵抗もなくそう納得したラクスは、リーネにお願いして一緒に同行をお願いしたのである。
つまり、リーネが依頼を受け、その『護衛』にルストを拘束するというものだ。
それをこちらも驚愕で半分放心していたリーネが頷いた事で、こうして2人でギルドへと来ていたのだ。
ちなみにムムは昨晩の大音量でさすがに起きてしまいそのまま夜更かし、結果今朝はおねむでお留守番となっている。
「さて、何の依頼にするよ?楽で早く終わるのがいいよな」
「はぁ……それじゃ意味ないでしょ?楽なのはともかく、時間は多少かかる依頼よ」
言うまでもなく、ラクスを時間的に拘束する必要がある為である。
それにはルストも言うだけ言った程度だったようで、肩をすくめさせて否定しない。
「おぉ?今日は聖女様と〝フン〟だけかぁ?」
「優男と『瞬剣』、『絶対零度』はどうしたんだよ?」
そうしてギルド内に入ると、それを見た冒険者達がわらわらと2人を囲み始める。
「あいつらはサボりだよ」
「あいつ呼ばわりたぁ、何様だよお前?」
「そんな言って、お前が足引っ張るから捨てられそうなんじゃねぇのかぁ?」
「聖女様は優しいからついてきてくれたんだろ?保護者いないと何も出来ねーのかよ?」
ルストが答えると冒険者達は大声で笑いながら罵倒し始める。
それをルストは男達に囲まれながら溜息をそっとこぼした。
ルストは冒険者達に陰口を叩かれているのは気付いていたのだ。
どうやら情報に詳しい者には簡単に分かるようで、『瞬剣』クロディーヌと『絶対零度』リィンは今ではほぼ全員が正体に気付き、憧憬と畏怖の目で見られていた。
また、ラクスがリーダーなのは当然見ていれば分かり、かの二つ名持ちを2人も擁するパーティのリーダーとしてやはり似たような視線が向けられている。 聖女リーネは言うまでもなくこの都市の尊敬の的である。少々尊敬よりも親近感の割合が高めだが。
ともあれ、勇者パーティにおいてルストだけが異様に浮いてしまうのでは仕方ない事であった。
野暮ったく伸ばされた、塗ったくったような黄と金の中間という色合いの髪に、武器も持たずメンバーの後ろを歩く男。
覇気もなくヘラヘラとメンバーに話しかける姿に、好意的な視線はほとんどなく、むしろ否定的な視線ばかりが刺さってしまうのも予想出来ない事ではないだろう。
それでもこういった直接的なちょっかいは初めてである。
恐らく、というより確実にメンバーがこの場にほとんど居ないからであろう。
「聖女様はどうぞこちらに」
「こんなださくて弱そうな男とじゃつまらんでしょ、たまには俺らと冒険しやせんか?」
地元――聖都の冒険者がにこやなにリーネに話しかける。顔見知り、とまではいかずとも見たことがある顔もあった。
そんな冒険者達に囲まれて誘われるリーネは、ふと考える。
「意外とそれも面白いかも?」
「おぉ!リーネ様が乗ってきたぞ!」
「マジか!おいお前捨てられてんぞ!」
単純に聖都を離れる前に少し地元の者達と交流もアリかも、といった意味での軽い気持ちだったのだが、それに冒険者は大盛り上がりを見せる。
そして当然、その分ルストへは罵倒の言葉が飛び交った。
あ、しまった。そう思ったリーネはルストを見やる。
さすがに愛すべき民とは言え、眉をしかめてしまいそうな罵倒に晒されるルストに、慌てて弁解しようとして、
「お、マジで?んじゃ俺ゆっくりしてるから行ってこいよ」
「………は?」
「ん?いやこいつらと冒険してくるんだろ?たまにはそういうのも良いだろうし、羽伸ばしてこいよ」
あっけらかんと返された。
「……アンタね…」
「……おい、なんだこいつ。ナメてんのか?タメ口きいてんじゃねぇよ」
「これだけ言われて言い返す根性もねぇのかよ、あぁ?」
思わず呆れと、護衛はどうしたという怒りに頬をひきつるせるリーネの前に、ズイと進み出てルストを威嚇する冒険者。
ルストの態度やリーネへの言動が彼らの琴線に触れたらしく、据わった目でルストを睨みつける。
「ん?あぁ悪い。学がないもんで、敬語は苦手なんだよ。気ぃ悪くしたんなら謝る」
「謝って済む話かコラ!」
「え、済むだろ普通」
済むわね、普通。と内心呟くリーネ。しかしどうやら彼らはそうではないらしい。
ルストの胸ぐらを掴んでメンチを切る冒険者に、ルストは深く溜息をついて、チラとリーネを見やる。
「……リーネ、地元のヤツらだろうに悪いな」
「いいわよ、流石に自業自得だわ。まぁアンタがボコボコにされるのも面白そうではあるけどね」
「あぁ?なんだぶつぶつと!リーネ様に助けでも乞う気か?!」
リーネの許可をもらい、目の前で大声で叫ぶ冒険者をルストは見据えた。そして、薄く口の端を吊り上げる。
「よし、それじゃあ俺に文句があるヤツは好きなだけかかってこいよ。そんで負けたら飯代出せ」
その言葉を最後に、冒険者ギルドに罵声と衝突音が炸裂するように響いた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「私実はアンタの嘘じゃないかなって思ってるんだけどね。ちょっと信じそうになっちゃったわ」
「あ?何が?」
「いや、なんでもないわよ」
リーネは目の前のテーブルに所狭しと置かれた料理を片っ端から口に運んでいるルストに溜息混じりでぼやく。
ギルド内に響く騒音はそう長くは続かなかった。 リーネが手頃な避難場所を見つけて椅子を運んで座る頃には罵声に悲鳴が混じり、それに気付いた周りで見ていた冒険者がまさかと思いつつ乱入する。
長引きそうね、とリーネが依頼書でも見ようと張り出されているボードに足を運んでいつか眺めていると、一際大きな悲鳴が響いた。
何事かとリーネが振り返ると、何をしたのか分からないまでもまとめて吹き飛ばされたらしい冒険者達が周囲の冒険者を巻き込んで吹き飛び、倒れていたのだ。
「これなら金も使わずに飯が食えるし、またやろっかな」
「勘弁してくだせぇよ旦那!」
「ほんとですぜ、もうこりごりだ」
満足そうに笑って食事を頬張るルストに、近くの席に座る冒険者がギョッとして叫んだ。
あれから荒れたギルド内の片付けをリーネに言い渡され、痛む体に鞭打って片付けていく冒険者達に飯代を請求したルスト。そして、参ったとばかりに快く金を出していく冒険者達。
「つーかこいつらいいヤツらだな」
「でしょ。 ……財布として、とか言ったら怒るわよ?」
箸休めに水を飲んだルストがふと口にした言葉に、リーネはジトっと半眼になりながら返した。
それにルストはまた箸を手にしながら笑う。
「いやお前の為に怒ってたみたいだし。しかも負けたら潔く認める度量もあるしな」
取っ組み合いとなった際、彼らは「リーネ様に何様だ」「リーネ様の弱みでも握ってんのか」とリーネの事ばかり口にしていたのだ。
浅い付き合いとは言え仮にも主人であるリーネを想っての暴挙と思えば、ルストもあまり手酷い扱いは控えていた。
実際、冒険者達は打撲くらいはあれど、血は一切流れていない。
そして終われば悪かったと口にして金を支払う冒険者達に、ルストの方が虚をつかれた程である。
「さすがは仕える主人の済む街、ってか。良い民だ」
「………ふん」
ニィっとからかうように笑うルストに、しかしリーネは返す言葉を用意出来ずにそっぽを向いた。
その仕草に、照れたか?と追撃をしようとするルストだが、その頬が緩んでいるのを見て口を閉じた。
「……ねぇ、アンタ。昨日の話、ホントなの?」
「ん?信じてねぇのかよ?……まぁそりゃそう、なのか?」
眉根を寄せかけたルストは、話すうちに首を捻って語尾を落とした。
そして、肩をすくめて唐揚げをぱくり。それを存分に味わって飲み込み、口を開く。
「嘘じゃねぇな。だからもう安心しとけ。そんなヤツと戦う必要はねぇんだ」
「――っ」
ルストの言葉に、リーネはピクリと肩を跳ねさせた。
あ、動揺してる。と自覚出来たリーネは、しかし何故動揺したかは分からない。
こんなふざけたヤツが本当に人類の最大最凶の厄災を討った事に驚いてか。
それともそんな脅威に対峙する事を怖いと思っていた事が見透かされているような気がしてか。
それとも、彼らしからぬ優しい微笑みにか。
ともあれ、心を掻き乱されて言葉が出ないリーネ。しかし、確かにその心にもたらされる、安堵。
それをひとつずつ処理するように、または噛み締めるように黙り込んだ彼女に、ルストは何を言うでもなく肩をすくめて食事を再開するのであった。
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