聖女と最強の護衛、勇者に誘われて魔王討伐へ〜え?魔王もう倒したけど?〜
25 消えた目的
その晩、食事を終えた一行をラクスが宿屋の一室に集めていた。
「なんだよ、俺もう眠いんだけど」
「すぐ終わるよ。ただ、あまり人の多い所で話す内容じゃないってだけ」
食後に眠くなったムムを膝の上に乗せて、反対の膝に肘を置いて気怠気に話すルストに、ラクスは申し訳なさそうに言った。
そして、ルストを見やって申し訳なさそうな顔を苦笑に変える。
「なるほどな。勇者の仕事の話か?」
「いやちょっと待って?ちょっと話入ってこないわ」
ルストが話の内容を推理する。が、それを待ったをかけるように手をルストに突き出しながらリーネが言った。
「どうした?」
「アンタがどうしたのよ?!」
叫ぶリーネに、ルストは何言ってんだこいつ?とばかりの表情で同意を得ようとラクスにアイコンタクトを送る。が、ラクスはフォローもないと首を振った。
「まぁ……だよな」
つい惚けてはきたルストだが、心当たりはがっつりあった。というよりある。進行形だ。
ルストはちらと視線を動かす。
肘をついて顎を乗せている腕、その反対の腕を掴んでまるで抱き枕のように抱え込んでいるのは、どこか冷ややかな雰囲気を常とする少女リィン。
次いで、今度は首ごと視線を後方に向ける。
その背中に寄りかかるように抱きついているのはクロディーヌだ。
リィンとクロディーヌは同時に、不思議そうに首を傾げた。
「「ん?」」
「ん?じゃねぇよ!どけやお前ら!なんなんだよくっそ邪魔だわ!」
我慢ならんと叫ぶルスト。
青筋を浮かべて思い切り叫ぶルストの膝で寝返りをうつムムに、ラクスは現実逃避気味に図太い神経した子だな、と内心でぼやく。
「師匠と認めてくれたら離れるッス!」
「……お兄ちゃんが甘えていいって」
「あーうん、よしリィンは後回しだ。てめぇはダメだクロディーヌ!どけ!」
「あぁん!」
「変な声出すなボケぇ!」
「ーーうるさい」
「「あ、はい」」
吹き飛ばされた体勢で固まるクロディーヌと吹き飛ばした状態で固まるルストは、リィンの魔法より冷たい視線で睨むリーネに素直に頷いた。
そんな中で我関せずと眠るムム、腕を抱いたままのリィンはきっと大物なのだろう。
怒られたじゃねぇか、師匠がさっさと認めないからッスよ、お前いい加減にしろよおい、うるっさいって言ってんでしょ?!といった元気なメンバーにリーダーの勇者ラクスは天を仰ぐ。あれ?もしや仲間集めミスったかな?
「……で?早く話せよリーダー」
「君がよくそれ言えたよねルスト」
青筋を浮かべるラクスに、ルストは何のこと?とばかりに首を捻る。ついつい握り拳をぎゅっとしちゃう。
「……ふぅ〜〜〜〜っ…………よし、それじゃ話の事なんだけど」
「何今の長い溜息」
「アンタへの怒りを吐き出したのよ」
「話の事なんだけど!」
いい加減に話をさせろと無理矢理軌道修正をかけつつ、ラクスはひかない青筋を浮かべたまま言葉を続ける。
「今日アンジェリカの引き継ぎを手伝ってきた時聞いたんだけど、思ったより早く終わりそうなんだ。今週中には終わるようだから、そろそろ準備したり予定を決めようと思うんだ」
その言葉にリーネの体が微かに強ばる。それを視界の端に納めたルストは、しかしリーネに視線を向けないまま口を開く。
「あー、やっとか。……そう言えば、お前ら何しにどこ行くんだ?」
「いや師匠、どこはともかく何しには決まってるッスよ!」
「……お兄ちゃん、頭大丈夫?」
「聞いてねぇし分かるかよ」
「……ウソでしょ?」
クロディーヌ、リィン、ラクスから呆れられた目で見られるが、ルストは首を捻るしかない。
「アンタね。勇者の旅なんて、魔王討伐に決まってるじゃない」
「はぁ?……え?もう次の魔王が出たのか?」
「……ん?」
「ん?」
ルストの発言に首を捻るラクス、にまた首を捻るルスト。疑問符ばかりが浮かぶ部屋で、ふとラクスは勇者の直感とも言える嫌な予感を覚える。
ちなみに、ルストは「次の」と口にはしたものの、それはありえない事は知っていた。
ルストが確信しているものとは少し理由は違うのだが、そもそもそれは誰もが知っている知識である。
魔王は滅びても長い月日を経て復活する。同じ個体では無いものの、魔王というべき力を備えた凶悪な存在が、一定期間を置いて現れるのだ。
その理由までは解明されていない。
現状として人族からすれば魔王を倒せばしばらくはその脅威から逃れられると考えており、その都度魔王を討伐すべく勇者という戦力を用意してきたのだ。
それはさておき、ラクスは嫌な予感を振り払うように、あるいは確認するかのように説明を始める。
しかしルストと話が噛み合わないのは仕方がない事ではあった。 何故なら、
「待って、ルスト。僕のーー勇者の目的として、この旅は魔王ルシフェルの討伐。 その為に最終的には大砂漠デザイアの最奥、魔王の住むとされる死の大地パンデモニウムに攻め入る……んだけど…」
「バカだなお前、何言ってんだよ。え?魔王ならもう倒したけど?……なんかの冗談かこれ?」
「「「「え?」」」」
ルストからすれば討伐すべき魔王は居ないからだ。
その事を伝えると、それはもう盛大に空気が死んだ。
一行が一拍、では済まない時間をかけて心ゆくまで硬直している間に、ルストは自力で結論に思い至り、そして納得したようにうんうんと頷き始める。
「あー、報告してねぇもんな俺。言わなきゃパンデモニウムの情報なんてそうは回らんわな」
あっはっは、こりゃ一本とられたわ、と誰に何をとられたか分からないが、軽快に笑うルストの声はそれはもう冷ややかに固まった空気の部屋によく響いた。
そしてその直後、宿を揺らす驚愕の叫び声と、店主がうるせぇ!と叫ぶ声が聖都に響き渡ったのは、言うまでもないだろう。
「なんだよ、俺もう眠いんだけど」
「すぐ終わるよ。ただ、あまり人の多い所で話す内容じゃないってだけ」
食後に眠くなったムムを膝の上に乗せて、反対の膝に肘を置いて気怠気に話すルストに、ラクスは申し訳なさそうに言った。
そして、ルストを見やって申し訳なさそうな顔を苦笑に変える。
「なるほどな。勇者の仕事の話か?」
「いやちょっと待って?ちょっと話入ってこないわ」
ルストが話の内容を推理する。が、それを待ったをかけるように手をルストに突き出しながらリーネが言った。
「どうした?」
「アンタがどうしたのよ?!」
叫ぶリーネに、ルストは何言ってんだこいつ?とばかりの表情で同意を得ようとラクスにアイコンタクトを送る。が、ラクスはフォローもないと首を振った。
「まぁ……だよな」
つい惚けてはきたルストだが、心当たりはがっつりあった。というよりある。進行形だ。
ルストはちらと視線を動かす。
肘をついて顎を乗せている腕、その反対の腕を掴んでまるで抱き枕のように抱え込んでいるのは、どこか冷ややかな雰囲気を常とする少女リィン。
次いで、今度は首ごと視線を後方に向ける。
その背中に寄りかかるように抱きついているのはクロディーヌだ。
リィンとクロディーヌは同時に、不思議そうに首を傾げた。
「「ん?」」
「ん?じゃねぇよ!どけやお前ら!なんなんだよくっそ邪魔だわ!」
我慢ならんと叫ぶルスト。
青筋を浮かべて思い切り叫ぶルストの膝で寝返りをうつムムに、ラクスは現実逃避気味に図太い神経した子だな、と内心でぼやく。
「師匠と認めてくれたら離れるッス!」
「……お兄ちゃんが甘えていいって」
「あーうん、よしリィンは後回しだ。てめぇはダメだクロディーヌ!どけ!」
「あぁん!」
「変な声出すなボケぇ!」
「ーーうるさい」
「「あ、はい」」
吹き飛ばされた体勢で固まるクロディーヌと吹き飛ばした状態で固まるルストは、リィンの魔法より冷たい視線で睨むリーネに素直に頷いた。
そんな中で我関せずと眠るムム、腕を抱いたままのリィンはきっと大物なのだろう。
怒られたじゃねぇか、師匠がさっさと認めないからッスよ、お前いい加減にしろよおい、うるっさいって言ってんでしょ?!といった元気なメンバーにリーダーの勇者ラクスは天を仰ぐ。あれ?もしや仲間集めミスったかな?
「……で?早く話せよリーダー」
「君がよくそれ言えたよねルスト」
青筋を浮かべるラクスに、ルストは何のこと?とばかりに首を捻る。ついつい握り拳をぎゅっとしちゃう。
「……ふぅ〜〜〜〜っ…………よし、それじゃ話の事なんだけど」
「何今の長い溜息」
「アンタへの怒りを吐き出したのよ」
「話の事なんだけど!」
いい加減に話をさせろと無理矢理軌道修正をかけつつ、ラクスはひかない青筋を浮かべたまま言葉を続ける。
「今日アンジェリカの引き継ぎを手伝ってきた時聞いたんだけど、思ったより早く終わりそうなんだ。今週中には終わるようだから、そろそろ準備したり予定を決めようと思うんだ」
その言葉にリーネの体が微かに強ばる。それを視界の端に納めたルストは、しかしリーネに視線を向けないまま口を開く。
「あー、やっとか。……そう言えば、お前ら何しにどこ行くんだ?」
「いや師匠、どこはともかく何しには決まってるッスよ!」
「……お兄ちゃん、頭大丈夫?」
「聞いてねぇし分かるかよ」
「……ウソでしょ?」
クロディーヌ、リィン、ラクスから呆れられた目で見られるが、ルストは首を捻るしかない。
「アンタね。勇者の旅なんて、魔王討伐に決まってるじゃない」
「はぁ?……え?もう次の魔王が出たのか?」
「……ん?」
「ん?」
ルストの発言に首を捻るラクス、にまた首を捻るルスト。疑問符ばかりが浮かぶ部屋で、ふとラクスは勇者の直感とも言える嫌な予感を覚える。
ちなみに、ルストは「次の」と口にはしたものの、それはありえない事は知っていた。
ルストが確信しているものとは少し理由は違うのだが、そもそもそれは誰もが知っている知識である。
魔王は滅びても長い月日を経て復活する。同じ個体では無いものの、魔王というべき力を備えた凶悪な存在が、一定期間を置いて現れるのだ。
その理由までは解明されていない。
現状として人族からすれば魔王を倒せばしばらくはその脅威から逃れられると考えており、その都度魔王を討伐すべく勇者という戦力を用意してきたのだ。
それはさておき、ラクスは嫌な予感を振り払うように、あるいは確認するかのように説明を始める。
しかしルストと話が噛み合わないのは仕方がない事ではあった。 何故なら、
「待って、ルスト。僕のーー勇者の目的として、この旅は魔王ルシフェルの討伐。 その為に最終的には大砂漠デザイアの最奥、魔王の住むとされる死の大地パンデモニウムに攻め入る……んだけど…」
「バカだなお前、何言ってんだよ。え?魔王ならもう倒したけど?……なんかの冗談かこれ?」
「「「「え?」」」」
ルストからすれば討伐すべき魔王は居ないからだ。
その事を伝えると、それはもう盛大に空気が死んだ。
一行が一拍、では済まない時間をかけて心ゆくまで硬直している間に、ルストは自力で結論に思い至り、そして納得したようにうんうんと頷き始める。
「あー、報告してねぇもんな俺。言わなきゃパンデモニウムの情報なんてそうは回らんわな」
あっはっは、こりゃ一本とられたわ、と誰に何をとられたか分からないが、軽快に笑うルストの声はそれはもう冷ややかに固まった空気の部屋によく響いた。
そしてその直後、宿を揺らす驚愕の叫び声と、店主がうるせぇ!と叫ぶ声が聖都に響き渡ったのは、言うまでもないだろう。
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