聖女と最強の護衛、勇者に誘われて魔王討伐へ〜え?魔王もう倒したけど?〜
22 瞬剣
『瞬剣』クロディーヌ・ゲイル。
18歳という若さにして剣の最高峰の一角の異名を与えられるに至った天賦の才を持つ剣士である。
剣士において到達点といえる存在に与えられる称号である『剣神』。
斬り裂けぬものなしと言われる驚異的な破壊力を剣に宿すとされる『破剣』。
それに並ぶ『瞬剣』という異名は、防ぐ事も見る事も叶わぬとされる神速の剣の持ち主に与えられる。
ほとんどの剣士の憧れであり手の届かない存在、その一角。
そんな彼女は、空腹に耐えていた。
「うぅ〜っ、師匠ぉ〜、ホントに全部食べちゃうんスかぁ?」
「いや当たり前だろ、俺の戦利品だしな」
ルストと手合わせをした晩、先日の歓迎会と称した暴飲暴食の宴を行った店は財布に優しくないからと、手頃な価格帯の飲食店をリーネから紹介されて訪れていた。
そこでルストとムムという大喰らい対策に決められた「1人大銅貨2枚まで」という範囲で注文したのだが、クロディーヌはゴブリン狩りの際に賭けた晩御飯をルストに取られたのである。
「あぁ〜お腹空いたッスよぉ〜!あんなに運動したのにご飯抜きとか地獄ッス!師匠、可愛い弟子に一口、いやせめて一皿あげるとかないんスか?!」
「俺なんか毎食物足りねぇんだぞ!……つーかなんで要求が上がってんだよ、普通逆だろ」
涙目でルストにしがみつくクロディーヌを鬱陶しそうにしながらも見ないようにして目の前の食事に箸を伸ばすルスト。
そんなルストにリーネが呆れたように溜息を溢した。
「アンタね、一口くらいあげたら?」
「リーネちゃんっ!」
「見てて鬱陶しいのよ」
「リーネちゃんっ?!」
味方!とばかりに輝かせた瞳を次の言葉で涙目にして叫ぶクロディーヌを無視して、ルストは口の中のものを飲み込んでから口を開く。
「お前な。勝負の結果に後からどうこう言う剣士を甘やかすのか?」
「たかが一口でしょ?別にいいじゃない」
「うぐ……」
くだらない、といった風に肩をすくめるリーネだが、クロディーヌは痛い所を突かれたと言わんばかりに縮こまった。
確かに剣士に限らずだが、勝負の結果がハッキリと出た後で譲歩を申し出るのは褒められたものではない。
もっとも、仲間内の遊びの一端の勝負と捉えれば少しくらいという意見も分からなくはないのだが、クロディーヌからすればそうは思いにくいのも仕方ない。
「うぅぅぅ、我慢するッスぅ……」
唸り声と腹の虫が鳴る音で1人でハモっているクロディーヌに、ルストは鼻を鳴らす。 そして通りかかったウェイトレスに声を掛けて新しいフォークをもらい、それを目の前のカットされたステーキを数枚ぐさぐさと突き刺して串焼きのようにする。
「これ、食いたいか?」
「師匠っ!いやでも……」
「いや聞けよ、これすげぇ美味いんだよなぁ。ミディアムレアに焼かれてて、噛むだけ溢れる肉汁と程よい歯応え、それでいて焼きすぎてねぇから柔らかさを残した絶品なんだよなぁ」
そう言って反対の手で同じステーキをとって自分の口にゆっくりと運んで咀嚼。たっぷりと味を噛み締めるように咀嚼してから飲み込み、満足そうに微笑む。にっこり。
「悪魔ねコイツ」
「……良い性格してる」
それをなんとも言えない視線で見るリーネとリィン。そんな2人に構わず、ルストはチラとクロディーヌを見やる。
まるでリポーターのような説明とそれは美味しそうに食べるルストを前に、先程生まれた遠慮を忘れ去りよだれをたらして目を輝かせてステーキを見るクロディーヌに、ルストはニヤリと笑う。
「けど、お前は俺との賭けに負けた。そうだな?」
「うっ、そうッス……」
「だが、条件を飲めばこの肉と、さらに白飯もくれてやる」
「えっ?!な、なんスか?もしかして夜ベッドに……?」
言いながら自分の体を抱きしめるようにして両手をまわし、頬を薄く染めて身をくねらせるクロディーヌ。
バカっぽい言動が多くて忘れがちだが、彼女は間違いなく美少女だ。快活さを表すような大きな瞳は少し吊り上がり気味だが、しかしそれも豊かな表情と相まって猫のような愛嬌となっている。
胸元の膨らみはリーネに比べれば小さいものの平均は十分あり、鍛えたしなやなか筋肉はモデルのようなスレンダーさを作っていた。
そんな彼女がモジモジと頬を染めて、まわす腕で胸を押しつぶすように体を抱く姿は男性の視線を釘付けにするには十分すぎる。周囲の男性客はチラ見を通り越して凝視する者さえ居た。
そんな普段の快活さに代わり、初々しくも妖しい雰囲気を見せるクロディーヌにルストは、
「アホか」
「ぁいたっ!」
でかい青筋を浮かべてデコピンした。
「俺をなんだと思ってんだお前は……」
「師匠なら特別に良いかなって思っちゃいそうッス」
「〝それ〟だよ、条件は!」
「ぁいたぁっ!」
再びデコピンをして言うルストに、クロディーヌは額を押さえて涙目になりながら首を傾げた。
そんな庇護欲を掻き立てる表情の彼女に、ルストは眉根を寄せてステーキの刺さったフォークを口元に突きつける。
「その『師匠』呼びを辞めろ!『瞬剣』にそんな呼ばれ方されちゃ周りが勘違いして、面倒な目に遭うのが目に見えてるだろ!」
「えぇええっ!それは嫌ッス!」
ルストの言葉に目を丸くして、それからプイっと顔を背けるクロディーヌ。
そんな彼女に、ルストは青筋を浮かべながら口元にステーキをゆらゆら。
「おら、美味いぞ?いいのか?早く食わねぇと冷めちまうぞ?」
「う、む、むむむ……要らないッス!それは師匠のものッス!」
唸りつつも拒否するクロディーヌに、ルストは再びステーキの味のプレゼンを始めたりする。これ、白米にもすげぇ合うぞぉ?
それを必死に顔を背けて耳を塞ぎ拒否するクロディーヌを見て、リーネは不思議そうに首を傾げた。
「あんなサイテーなヤツの師匠呼びになんでそんな拘るのかしら?」
「さぁ……まぁ、ルストを師匠にしたい気持ちは分かるけどね」
「え?は?ラクス、正気?」
本気で疑いの目を向けてくるリーネに苦笑いしつつ、ラクスは言う。
「きっとリーネもそのうち分かるよ。ルストの強さは隠せるものじゃないからね」
「ふーん……?まぁ、あんな手合わせとは言え『瞬剣』に勝ったんだものね。そう思えば強いのは強いんでしょうけど……」
リーネはそう言いつつルストに視線を戻す。
片手にステーキ、片手に白米を持ってクロディーヌの視界に入ろうと体を乗り出している青年。
今ならなんとスープも付いてくるぞぉ、とか言ってる姿を見て、脱力したように溜息をついた。
「いや、見えないわ。ただのバカよあれは」
「あはは……」
微妙にフォロー出来ないラクスは結局苦笑いをするだけだった。
そんな光景を尻目にやっと食べ終えたリィンが、食事をした事で眠くなったようで瞼が閉じそうなムムをつついて口を開く。
「……ムム、ルストって強い?」
「うにゅ……?」
「……ううん、なんでもない。ごめんね。おやすみ」
どうやら本格的に夢の世界に飛び立とうとしているムムに謝ってから、リィンは熱のない視線をルストに向けるのであった。
18歳という若さにして剣の最高峰の一角の異名を与えられるに至った天賦の才を持つ剣士である。
剣士において到達点といえる存在に与えられる称号である『剣神』。
斬り裂けぬものなしと言われる驚異的な破壊力を剣に宿すとされる『破剣』。
それに並ぶ『瞬剣』という異名は、防ぐ事も見る事も叶わぬとされる神速の剣の持ち主に与えられる。
ほとんどの剣士の憧れであり手の届かない存在、その一角。
そんな彼女は、空腹に耐えていた。
「うぅ〜っ、師匠ぉ〜、ホントに全部食べちゃうんスかぁ?」
「いや当たり前だろ、俺の戦利品だしな」
ルストと手合わせをした晩、先日の歓迎会と称した暴飲暴食の宴を行った店は財布に優しくないからと、手頃な価格帯の飲食店をリーネから紹介されて訪れていた。
そこでルストとムムという大喰らい対策に決められた「1人大銅貨2枚まで」という範囲で注文したのだが、クロディーヌはゴブリン狩りの際に賭けた晩御飯をルストに取られたのである。
「あぁ〜お腹空いたッスよぉ〜!あんなに運動したのにご飯抜きとか地獄ッス!師匠、可愛い弟子に一口、いやせめて一皿あげるとかないんスか?!」
「俺なんか毎食物足りねぇんだぞ!……つーかなんで要求が上がってんだよ、普通逆だろ」
涙目でルストにしがみつくクロディーヌを鬱陶しそうにしながらも見ないようにして目の前の食事に箸を伸ばすルスト。
そんなルストにリーネが呆れたように溜息を溢した。
「アンタね、一口くらいあげたら?」
「リーネちゃんっ!」
「見てて鬱陶しいのよ」
「リーネちゃんっ?!」
味方!とばかりに輝かせた瞳を次の言葉で涙目にして叫ぶクロディーヌを無視して、ルストは口の中のものを飲み込んでから口を開く。
「お前な。勝負の結果に後からどうこう言う剣士を甘やかすのか?」
「たかが一口でしょ?別にいいじゃない」
「うぐ……」
くだらない、といった風に肩をすくめるリーネだが、クロディーヌは痛い所を突かれたと言わんばかりに縮こまった。
確かに剣士に限らずだが、勝負の結果がハッキリと出た後で譲歩を申し出るのは褒められたものではない。
もっとも、仲間内の遊びの一端の勝負と捉えれば少しくらいという意見も分からなくはないのだが、クロディーヌからすればそうは思いにくいのも仕方ない。
「うぅぅぅ、我慢するッスぅ……」
唸り声と腹の虫が鳴る音で1人でハモっているクロディーヌに、ルストは鼻を鳴らす。 そして通りかかったウェイトレスに声を掛けて新しいフォークをもらい、それを目の前のカットされたステーキを数枚ぐさぐさと突き刺して串焼きのようにする。
「これ、食いたいか?」
「師匠っ!いやでも……」
「いや聞けよ、これすげぇ美味いんだよなぁ。ミディアムレアに焼かれてて、噛むだけ溢れる肉汁と程よい歯応え、それでいて焼きすぎてねぇから柔らかさを残した絶品なんだよなぁ」
そう言って反対の手で同じステーキをとって自分の口にゆっくりと運んで咀嚼。たっぷりと味を噛み締めるように咀嚼してから飲み込み、満足そうに微笑む。にっこり。
「悪魔ねコイツ」
「……良い性格してる」
それをなんとも言えない視線で見るリーネとリィン。そんな2人に構わず、ルストはチラとクロディーヌを見やる。
まるでリポーターのような説明とそれは美味しそうに食べるルストを前に、先程生まれた遠慮を忘れ去りよだれをたらして目を輝かせてステーキを見るクロディーヌに、ルストはニヤリと笑う。
「けど、お前は俺との賭けに負けた。そうだな?」
「うっ、そうッス……」
「だが、条件を飲めばこの肉と、さらに白飯もくれてやる」
「えっ?!な、なんスか?もしかして夜ベッドに……?」
言いながら自分の体を抱きしめるようにして両手をまわし、頬を薄く染めて身をくねらせるクロディーヌ。
バカっぽい言動が多くて忘れがちだが、彼女は間違いなく美少女だ。快活さを表すような大きな瞳は少し吊り上がり気味だが、しかしそれも豊かな表情と相まって猫のような愛嬌となっている。
胸元の膨らみはリーネに比べれば小さいものの平均は十分あり、鍛えたしなやなか筋肉はモデルのようなスレンダーさを作っていた。
そんな彼女がモジモジと頬を染めて、まわす腕で胸を押しつぶすように体を抱く姿は男性の視線を釘付けにするには十分すぎる。周囲の男性客はチラ見を通り越して凝視する者さえ居た。
そんな普段の快活さに代わり、初々しくも妖しい雰囲気を見せるクロディーヌにルストは、
「アホか」
「ぁいたっ!」
でかい青筋を浮かべてデコピンした。
「俺をなんだと思ってんだお前は……」
「師匠なら特別に良いかなって思っちゃいそうッス」
「〝それ〟だよ、条件は!」
「ぁいたぁっ!」
再びデコピンをして言うルストに、クロディーヌは額を押さえて涙目になりながら首を傾げた。
そんな庇護欲を掻き立てる表情の彼女に、ルストは眉根を寄せてステーキの刺さったフォークを口元に突きつける。
「その『師匠』呼びを辞めろ!『瞬剣』にそんな呼ばれ方されちゃ周りが勘違いして、面倒な目に遭うのが目に見えてるだろ!」
「えぇええっ!それは嫌ッス!」
ルストの言葉に目を丸くして、それからプイっと顔を背けるクロディーヌ。
そんな彼女に、ルストは青筋を浮かべながら口元にステーキをゆらゆら。
「おら、美味いぞ?いいのか?早く食わねぇと冷めちまうぞ?」
「う、む、むむむ……要らないッス!それは師匠のものッス!」
唸りつつも拒否するクロディーヌに、ルストは再びステーキの味のプレゼンを始めたりする。これ、白米にもすげぇ合うぞぉ?
それを必死に顔を背けて耳を塞ぎ拒否するクロディーヌを見て、リーネは不思議そうに首を傾げた。
「あんなサイテーなヤツの師匠呼びになんでそんな拘るのかしら?」
「さぁ……まぁ、ルストを師匠にしたい気持ちは分かるけどね」
「え?は?ラクス、正気?」
本気で疑いの目を向けてくるリーネに苦笑いしつつ、ラクスは言う。
「きっとリーネもそのうち分かるよ。ルストの強さは隠せるものじゃないからね」
「ふーん……?まぁ、あんな手合わせとは言え『瞬剣』に勝ったんだものね。そう思えば強いのは強いんでしょうけど……」
リーネはそう言いつつルストに視線を戻す。
片手にステーキ、片手に白米を持ってクロディーヌの視界に入ろうと体を乗り出している青年。
今ならなんとスープも付いてくるぞぉ、とか言ってる姿を見て、脱力したように溜息をついた。
「いや、見えないわ。ただのバカよあれは」
「あはは……」
微妙にフォロー出来ないラクスは結局苦笑いをするだけだった。
そんな光景を尻目にやっと食べ終えたリィンが、食事をした事で眠くなったようで瞼が閉じそうなムムをつついて口を開く。
「……ムム、ルストって強い?」
「うにゅ……?」
「……ううん、なんでもない。ごめんね。おやすみ」
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