聖女と最強の護衛、勇者に誘われて魔王討伐へ〜え?魔王もう倒したけど?〜
20 ……ほう?
聖国ホーリィの首都であり、アリア教総本部である大教会がある聖都セイント。
そんな駄洒落のような名前の都市の外れにあるなだらかな山に、アンジェリカを除く勇者パーティが揃って訪れていた。
「あ、これか?」
「……違う、それは毒草」
「マジか。んじゃこれは?」
「……それも毒草。よく毒草ばかり見つける。逆にすごい」
手近な草を手で引きちぎっているのはルストであり、それをチェックしているのは魔法使いリィンだ。
人形のように整っているが表情に欠けた彼女は、熱を感じさせない蒼い瞳で突き出された毒草を見ている。
「はぁ。アンタね、真面目にやりなさいよ。はいリィン、これでしょ?」
「……リーネ、それも毒草」
「ハッ、聡明な主人に仕えれて幸せだなぁ俺は」
「ぐっ、このっ、うるさいわね!これ食べさせるわよ!」
「はは……」
毒草を掴んでルストを追い回すリーネを苦笑いで見つつ、目的の薬草を採取しているラクスと、薬草探しに飽きたのかアリの巣の近くに持参した弁当のおかずを小さく落としているクロディーヌ。
「はいリィンお姉ちゃん!」
「……ありがとう。ムム偉い」
満面の笑顔で手に持った草を差し出してくるムムに、リィンは薄く微笑んで受け取った。 ちなみにこれも毒草であり、内心何故このメンバーは毒草ばかりピンポイントで拾うのかと密かに戦慄しながら、こっそり薬草を入れる袋とは別の袋に仕舞う。さすがに目の前で捨てるのは躊躇われたのだ。
「それにしてもリィンは若いのに賢いわね。しかもかわいいし」
「近所のおばさんみたいな発言だな。さすが井戸端聖女」
「っ…………」
いつの間にかリィンの近くに来ていたリーネを遠くからルストがからかうが、青筋を浮かべつつもリーネは耐えた。
乗っては調子に乗らせるだけだ、私は聖女であり主人。貫禄を見せてやる。
「リィンは魔法だけじゃなく薬学や魔法具にも精通してるからね」
「我らがパーティが誇る天才ッス!」
「……そんな事ない」
微笑むラクスと誇らしげなクロディーヌにリィンは小さく首を横に振る。が、微かに頬が赤いあたり照れてるようだ。
そんな様子をリーネはだらしない笑顔で眺め、それを横に来ていたルストがひいたように見る。
うへ、かわいすぎる。という言葉は女子特有のかわいい発言より危ないおじさんのそれに近かった。
「まぁなんにせよ、リィンがいりゃこの依頼は楽勝だな」
「……ありがとう。でも、今のところあたしとラクスしかちゃんと採ってない」
「………うん、ちゃんと探すわ」
表情の乏しいリィンの、しかしどこかジトっと咎めるような視線にさすがのルストは苦笑いを浮かべた。
以降、ちゃんと目的の薬草だけを採取しているあたり、最初の毒草は冗談だったのかも知れない。
それから程なくして、十分な量が採れたとリィンが告げる。良い時間だという事もあり、下山する前に昼食をとる事となった。
「予定より早かったね。リィンのおかげだよ、ありがとう」
「……後半のルストの追い上げのおかげ」
「え、わ、私は?」
「……リーネは毒草に呪われてるぽい」
愕然とするリーネは置いておき、予定より早く完了した事もありピクニックのようにのんびりする面々。
のどかな雰囲気の中で弁当を楽しんでいたが、フライングで食べ始めており、とっくに食べ終えていたクロディーヌと、即座に食べ終えて物足りなそうにしていたルストがピクリと反応して茂みに目を向ける。
なだらかで魔物が少ないとは言え、全く居ない訳ではない。
依頼を申請した時の受付嬢の言葉を証明するように、茂みから現れたのは数匹のゴブリンだった。
「よぉーっし、食後の腹ごなしッスね!」
「アンタも行きなさいよ、護衛でしょ?」
「ルスト兄、がんばれーっ!」
「へいへい」
弁当の匂いに引かれたのか、よだれを垂らして一行に近寄るゴブリン達に、元気よく立ち上がるクロディーヌと気怠げに立ち上がるルスト。
クロディーヌは立ち上がるルストに気付くと、八重歯を見せて笑う。
「ルストっちもやるッスか!じゃあ競争ッスね!」
「っちをつけんな。お前の勝ちでいいから全滅させて来いよ」
「もーっ、張り合いがないッスねぇ。……あ!じゃあ、勝った方が晩御飯総取りとかどうッスか?」
「……ほう?」
クロディーヌの提案に目を光らせるルスト。乗った、と判断したクロディーヌはニィっと笑って、ルストからゴブリンに振り返るやいなや、剣を抜き放ちながら駆け出していく。
「先手必勝ッスよ!……ってえぇ?!」
抜け駆けとばかりに走り出したクロディーヌの目が捉えたのは、いつの間にかゴブリンの背後に回り込んでそれらに拳を振り上げているルスト。
思わず足を止めて、ルストが立っていたはずの後方とゴブリンの方を交互に見るクロディーヌ。
そんな事をしている間にルストは振り上げた拳を裏拳の要領で横薙ぎに振るう。
「グギャッ!?」
「ゲァアッ!」
その一撃はゴブリンをまとめて薙ぎ払った。紙切れのように吹き飛んだゴブリン達は、木々に激突して地面に力無く伏せる。
クロディーヌがそれを見ると、拳が直接当たったゴブリンの首は千切れ、後のゴブリン達も拳の衝撃や木にぶつかった衝撃で所々が折れ曲がり、凹んだりしていた。
「あぁ〜〜っ!」
「よっしゃ晩飯2倍ぃ!」
負けた。と悲痛な叫びをこだまさせるクロディーヌを尻目に、ルストはそれは嬉しそうにガッツポーズを決める。よほど昼飯が少なく感じたのだろう。
そんなルストを涙目で恨めしそうに睨み、クロディーヌは叫ぶ。
「うぅ……さっきのは何なんスか?!ボクより速かったッスよ!?」
「逃げ足の速さで鍛えた脚力」
「はい絶対嘘ぉー!そんなんで『瞬剣』を超えられたらたまったもんじゃないッス!」
ヤケクソ気味に叫ぶクロディーヌに、ルストと弁当をつまんでいたリーネが微かに目を見開いた。
「え?お前『瞬剣』なの?え?」
「……何スか?俺より遅いのにって言いたいんスか?」
「うん。ねぇそれ俺より遅いのに名乗っていいの?ねぇ?」
「くっそぉ〜〜っ!むかつくッスぅ!」
ニヤニヤ笑って指差すルストと涙目で拳を握り締めるクロディーヌを見ながら、リーネが口の中の卵焼きを飲み込んで口を開く。
「驚いたわ……勇者様、『瞬剣』なんてビッグネームをよく引きこめましたね」
「うん、苦労したけどね。というか勇者様って辞めない?あと敬語も。ほら、これからは仲間なんだしさ」
「え、いいの?助かるわ」
「うわ切り替えすごいね!」
そんな会話を他所に、ルストのからかいにいよいよ半泣きになってきたクロディーヌが剣を抜いて言い放つ。
「もう怒ったッス!勝負ッスよルストっち!」
「え、めんどくせ」
「ボクに勝てたら1週間分のおやつと夜食をあげるッス!」
「……ほう?」
目を光らせるルストにクロディーヌはニヤリと犬歯をのぞかせて笑った。
そんな駄洒落のような名前の都市の外れにあるなだらかな山に、アンジェリカを除く勇者パーティが揃って訪れていた。
「あ、これか?」
「……違う、それは毒草」
「マジか。んじゃこれは?」
「……それも毒草。よく毒草ばかり見つける。逆にすごい」
手近な草を手で引きちぎっているのはルストであり、それをチェックしているのは魔法使いリィンだ。
人形のように整っているが表情に欠けた彼女は、熱を感じさせない蒼い瞳で突き出された毒草を見ている。
「はぁ。アンタね、真面目にやりなさいよ。はいリィン、これでしょ?」
「……リーネ、それも毒草」
「ハッ、聡明な主人に仕えれて幸せだなぁ俺は」
「ぐっ、このっ、うるさいわね!これ食べさせるわよ!」
「はは……」
毒草を掴んでルストを追い回すリーネを苦笑いで見つつ、目的の薬草を採取しているラクスと、薬草探しに飽きたのかアリの巣の近くに持参した弁当のおかずを小さく落としているクロディーヌ。
「はいリィンお姉ちゃん!」
「……ありがとう。ムム偉い」
満面の笑顔で手に持った草を差し出してくるムムに、リィンは薄く微笑んで受け取った。 ちなみにこれも毒草であり、内心何故このメンバーは毒草ばかりピンポイントで拾うのかと密かに戦慄しながら、こっそり薬草を入れる袋とは別の袋に仕舞う。さすがに目の前で捨てるのは躊躇われたのだ。
「それにしてもリィンは若いのに賢いわね。しかもかわいいし」
「近所のおばさんみたいな発言だな。さすが井戸端聖女」
「っ…………」
いつの間にかリィンの近くに来ていたリーネを遠くからルストがからかうが、青筋を浮かべつつもリーネは耐えた。
乗っては調子に乗らせるだけだ、私は聖女であり主人。貫禄を見せてやる。
「リィンは魔法だけじゃなく薬学や魔法具にも精通してるからね」
「我らがパーティが誇る天才ッス!」
「……そんな事ない」
微笑むラクスと誇らしげなクロディーヌにリィンは小さく首を横に振る。が、微かに頬が赤いあたり照れてるようだ。
そんな様子をリーネはだらしない笑顔で眺め、それを横に来ていたルストがひいたように見る。
うへ、かわいすぎる。という言葉は女子特有のかわいい発言より危ないおじさんのそれに近かった。
「まぁなんにせよ、リィンがいりゃこの依頼は楽勝だな」
「……ありがとう。でも、今のところあたしとラクスしかちゃんと採ってない」
「………うん、ちゃんと探すわ」
表情の乏しいリィンの、しかしどこかジトっと咎めるような視線にさすがのルストは苦笑いを浮かべた。
以降、ちゃんと目的の薬草だけを採取しているあたり、最初の毒草は冗談だったのかも知れない。
それから程なくして、十分な量が採れたとリィンが告げる。良い時間だという事もあり、下山する前に昼食をとる事となった。
「予定より早かったね。リィンのおかげだよ、ありがとう」
「……後半のルストの追い上げのおかげ」
「え、わ、私は?」
「……リーネは毒草に呪われてるぽい」
愕然とするリーネは置いておき、予定より早く完了した事もありピクニックのようにのんびりする面々。
のどかな雰囲気の中で弁当を楽しんでいたが、フライングで食べ始めており、とっくに食べ終えていたクロディーヌと、即座に食べ終えて物足りなそうにしていたルストがピクリと反応して茂みに目を向ける。
なだらかで魔物が少ないとは言え、全く居ない訳ではない。
依頼を申請した時の受付嬢の言葉を証明するように、茂みから現れたのは数匹のゴブリンだった。
「よぉーっし、食後の腹ごなしッスね!」
「アンタも行きなさいよ、護衛でしょ?」
「ルスト兄、がんばれーっ!」
「へいへい」
弁当の匂いに引かれたのか、よだれを垂らして一行に近寄るゴブリン達に、元気よく立ち上がるクロディーヌと気怠げに立ち上がるルスト。
クロディーヌは立ち上がるルストに気付くと、八重歯を見せて笑う。
「ルストっちもやるッスか!じゃあ競争ッスね!」
「っちをつけんな。お前の勝ちでいいから全滅させて来いよ」
「もーっ、張り合いがないッスねぇ。……あ!じゃあ、勝った方が晩御飯総取りとかどうッスか?」
「……ほう?」
クロディーヌの提案に目を光らせるルスト。乗った、と判断したクロディーヌはニィっと笑って、ルストからゴブリンに振り返るやいなや、剣を抜き放ちながら駆け出していく。
「先手必勝ッスよ!……ってえぇ?!」
抜け駆けとばかりに走り出したクロディーヌの目が捉えたのは、いつの間にかゴブリンの背後に回り込んでそれらに拳を振り上げているルスト。
思わず足を止めて、ルストが立っていたはずの後方とゴブリンの方を交互に見るクロディーヌ。
そんな事をしている間にルストは振り上げた拳を裏拳の要領で横薙ぎに振るう。
「グギャッ!?」
「ゲァアッ!」
その一撃はゴブリンをまとめて薙ぎ払った。紙切れのように吹き飛んだゴブリン達は、木々に激突して地面に力無く伏せる。
クロディーヌがそれを見ると、拳が直接当たったゴブリンの首は千切れ、後のゴブリン達も拳の衝撃や木にぶつかった衝撃で所々が折れ曲がり、凹んだりしていた。
「あぁ〜〜っ!」
「よっしゃ晩飯2倍ぃ!」
負けた。と悲痛な叫びをこだまさせるクロディーヌを尻目に、ルストはそれは嬉しそうにガッツポーズを決める。よほど昼飯が少なく感じたのだろう。
そんなルストを涙目で恨めしそうに睨み、クロディーヌは叫ぶ。
「うぅ……さっきのは何なんスか?!ボクより速かったッスよ!?」
「逃げ足の速さで鍛えた脚力」
「はい絶対嘘ぉー!そんなんで『瞬剣』を超えられたらたまったもんじゃないッス!」
ヤケクソ気味に叫ぶクロディーヌに、ルストと弁当をつまんでいたリーネが微かに目を見開いた。
「え?お前『瞬剣』なの?え?」
「……何スか?俺より遅いのにって言いたいんスか?」
「うん。ねぇそれ俺より遅いのに名乗っていいの?ねぇ?」
「くっそぉ〜〜っ!むかつくッスぅ!」
ニヤニヤ笑って指差すルストと涙目で拳を握り締めるクロディーヌを見ながら、リーネが口の中の卵焼きを飲み込んで口を開く。
「驚いたわ……勇者様、『瞬剣』なんてビッグネームをよく引きこめましたね」
「うん、苦労したけどね。というか勇者様って辞めない?あと敬語も。ほら、これからは仲間なんだしさ」
「え、いいの?助かるわ」
「うわ切り替えすごいね!」
そんな会話を他所に、ルストのからかいにいよいよ半泣きになってきたクロディーヌが剣を抜いて言い放つ。
「もう怒ったッス!勝負ッスよルストっち!」
「え、めんどくせ」
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