聖女と最強の護衛、勇者に誘われて魔王討伐へ〜え?魔王もう倒したけど?〜

みどりぃ

16 食べ放題と聞いて

 アンジェリカの決意と聖王ルドニーク、ひいては聖国の未来を天秤にかけて悩むラクスの肩をルストが掴んだ。
 
 先程まで立ち去ろうとしていたルストの、感情を見せない表情。
 しかし、その眼はラクスをまっすぐに捉え、ラクスは不思議と紫の瞳に見透かされているような気分になる。

「……ルスト?どうしたんだい?」

 その感覚に恐怖に似たそれを覚えて、ラクスは思わずといった風に口を開いた。そんなラクスの内心を知ってか知らずか、ルストは表情や瞳はそのままに口を開く。

「お前は勇者になったんだろ。だったら、自分の意志を誤魔化さず、自分で考えろ」
「……っ!」

――勇者になりたいんだろ?だったら、自分の意志をちゃんと言葉にしろよ!

 ルストの言葉に、〝かつて〟の言葉を重ねたラクスは、ハッとしたように閉口した。
 そして、そのまましばしルストの瞳に圧されるように、それでも目を離せずに見ている。
 
「………………………」

 ラクスは己と向き合うように静かに黙考を始めた。そして視線をルストからアンジェリカへと移す。
 そこには変わらずに強い意志を秘めた瞳のアンジェリカが。その眼を数秒程見つめて、再び視線をルストに戻す。

「………ふん」

 再び目が合ったラクスの眼を見て、ルストは鼻を鳴らす。それは不機嫌そうなものではなく、嬉しさを誤魔化すようなものだった。
 そして肩から手を下ろし、舞台から降りるかのように数歩ラクスから離れる。

「ありがとう」

 そんなルストに、小さく呟くラクス。口の中で消えるような小さな言葉がルストに届いたかは分からない。それを確認するつもりもない。
 ラクスは下がるルストを目で追う事なく、ルドニークへと振り返った。

「すみません、聖王ルドニーク様。アンジェリカ様も連れて行きたいと思います」
「なっ……!?」

 真っ直ぐにルドニークを見据えて放った言葉にルドニークは驚愕した。
 争う国同士を様々な言葉で丸め込む。そんな口達者なルドニークが口を開けない内に、ラクスは言葉を重ねる。

「アンジェリカ様の意志は本物だと思いました。そして、僕がこうして国々が選ぶ戦士ではなく、自分で仲間を探しているのは……彼女のような仲間を探す為です」
「………っ、ラクス様…!」

 目の端に微かに涙を浮かべるアンジェリカにチラと視線を向けて微笑み、再びルドニークへ視線を向ける。
 そして、頭を下げた。

「申し訳ないとは思ってます。ですが、どうかアンジェリカ様のお力を借りる事をお許しください」
「ま、待ってくだされ勇者殿!それでは聖国という中立国の力が…」
「勇者の要求が目的に向けてのものであり、そしてそこに違法性がない場合。国はどうするだったっけか?聖王ルドニーク?」

 頭を下げるラクスに慌てて撤回を促す言葉を口にするルドニークに、ニヤリとタチの悪い笑みを浮かべたルストが割って入った。
 
「……それは…」
「援助、または容認が基本だよなぁ?」
「ぐっ……!」

 ニタリと笑うルストに、ルドニークは押し黙る。

「そもそもよ、2人も居るから1人貸すとか、2人居るのに更に聖国の利益や権威の広告に聖女を使おうとかしてたんだろ?そんな欲が透けて見えるような事をするから女神アリア様からバチが当たるんじゃねぇか?……ほら、アリア様に許しを乞う為にも気前よく2人を出しちまえよ」

 いいじゃねぇか、広告効果も倍なんだしよ。なんて続けるルスト。
 言いたい事はラクスのフォローであり、アンジェリカの意志を尊重する為のものなのだろうが、どうにもカツアゲで脅すチンピラにしか見えない。

 そんなルストに、頭を上げたラクスが苦笑いを浮かべるが、それを真面目な表情に切り替えて脂汗を浮かべるルドニークに言う。

「勿論、すぐにとは言いません。僕の旅は確かに急ぐものではありますが、しかし最近は情勢も安定しているので、いくばかりかの猶予はあります。ですので……」

 そこで言葉を切り、アンジェリカへと視線を向ける。

「後継者が決まってからで構いません。アンジェリカ様、それで構いませんか?」
「……っ、はい!ありがとうございますラクス様っ!」

 微笑むラクスに、感極まったように笑顔を浮かべて頷くアンジェリカ。

 その笑顔を見たルドニークは、しばし言葉を探すように口ごもっていたが、観念したように溜息をついた。

「……分かりました。勇者殿の要求通り、後継者を構え次第、リーネとアンジェリカ両名を勇者殿の旅に同行させるようにします」
「ありがとうございます、聖王ルドニーク様」

 ルドニークに頭を下げて感謝を告げるラクスに、ルストは薄く笑顔を浮かべた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「おいムム、好きなだけ食っていいんだとよ」
「えへへぇ。ゆめのようですなぁルスト兄!」

 ニヤニヤと笑うルストと、嬉しさを堪えきれないといった笑顔のムム。

 2人は聖国にある酒場へと来ていた。
 酒場とは言え傭兵や冒険者といった者はほとんど居ない。そういった者達が来るには少し価格帯の高めな、しかし高すぎない店を選んでいたのだ。
 
 とは言え全く居ない訳ではなく、チラホラと戦士と思われる者達も居た。恐らくは稼ぎが十分に得る事が出来ているであろう腕利きの冒険者等だろう。

 ともあれ、そんな店で早速ウェイトレスにメニューを指差しながら注文をしているルスト。
 我慢出来ないとばかりにルストの膝に乗り出して小さい指をメニューに向けてリクエストしているムム。
 この二人がこの店で食べる事が出来るのは目の前の者が原因である。

「あの、ルスト?注文量が多くないかい?」

 メニューのここからここ、あとここからここも!と結局ほとんどのメニューを指差しているルストに冷や汗を浮かべているのはラクスだ。

 やはりと言うべきか、アンジェリカを連れていく事が決まった後、ルストは再び立ち去ろうとした。

 それを引き止めるラクスを振り切る勢いのルストを引き止める為にこうなったのだった。

「あぁ?お前が忙しい俺に時間を寄越せなんて言うからその対価だろ?勇者ともあろうもんがケチケチすんなよ」
「けつのあなの小さいおとこはモテないぞー!」

 こら、ケツなんて言うな、下品だぞ?とムムを嗜めるルストに、諦めたように天を仰いで溜息をつくラクス。あと地味にムムの言葉が刺さり、それなりに落ち込む。

「まぁいいや……それで、お願いがあるんだルスト」
「この唐揚げ美味すぎて今それどころじゃねぇ」
「ルストさん、ラクス様の話を聞いて下さい。怒りますよ」

 早速届いた料理に手をつけ始めるルストの取り付く島もない対応に、ムッとした表情で割り込むのはラクスの右横に座るアンジェリカである。

「ずいぶんハッキリした人ッスねぇ。あ、その唐揚げひとつ欲しいッス!」
「……私はそこの高そうなステーキ」

 アンジェリカの反対側、ラクスの左側に座るのは勇者パーティの剣士クロディーヌと魔法使いリィン。
 ほらよ、と料理を渡すルストに礼を言いながら、便乗するように箸を進める2人に、アンジェリカはなんとも言えない表情を浮かべた。

「美味しいわね」

 アンジェリカの横に座るリーネはいつの間にやら注文していた赤い液体を口につけて舌鼓を打っていた。

 恐らくカクテルと思われるそれを傾けて微笑むリーネ。傾けるグラスが美しさを際立たせる小道具となって、彼女に妖艶さを生まれさせる。

 どうやら仲間の助けはアンジェリカだけだと気付いたラクスは、諦めたように溜息を溢してから言う。

「……じゃあさ、食べながらでいいから聞いてくれないかな?」
「ふぉう」

 口いっぱいに頬張ったまま頷くルストに、ラクスは苦笑いを浮かべるが、どうにか真面目な表情に戻して言う。

「ルスト、どうか僕と共に来て欲しいんだ」
「プロポーズか?俺にそういう趣味はねぇ」
「……こんだいのゆうしゃはおとこがすき?」

 ラクスの真面目な表情はピシリと固まった。あと、ムムのセリフは全集中力をもってスルーした。

「いやそうじゃなくて!いや分かるだろ?!旅についてきて欲しいんだってば!」
「だってお前、さっきの発言は……なぁムム」
「うーん、プロポーズはまずはこうさいをへてからだよ!こうかんどが足りてない!」

 どこでそんな言葉覚えてくんだ?おばあちゃんたち!若いな婆さん。等と会話を始める2人に、ラクスは頭痛を堪えるかのようにこめかみを押さえる。

「……とにかく、ルスト。君にも旅に参加して欲しいんだ」
「却下だ!俺は忙しいんだ。そんだけのメンツが居れば十分だろ?逃げ足ばっかの俺なんて足引っ張るだけだっての」

 そう言い切り、リィンが食べているステーキの一片をフォークで刺してひょいと口に運ぶルスト。
 返す?といった風に首を傾げてステーキの皿をルストに差し出そうとするリィン。
 ルストは手近にあったローストビーフを皿に乗せて指先で軽く皿を押し返す。
 
 リィンは再び皿を自分の前に置き、ローストビーフをぱくり。美味しかったのか眠そうな瞳を微かに見開いていた。

 そんな光景を横目に、ラクスは言う。

「メンツはともかく、逃げ足だけだなんて…」
「それもそうですね。ラクス様、ルストさん程度ではこの過酷な旅についていくのは厳しいのでは?」

 アンジェリカがルストの言葉に頷く。バカにした様子も無く、ただ事実を述べたような口調だが、それをラクスは首を横に振る。

「いや、ルストは強いよ。多分、僕よりも」
「………は?い、いえ、それはあり得ません。少なくとも同世代で誰も敵わないからラクス様は勇者なのでしょう?」

 勇者とは現時点の強さや実績とは別に、人類最強になり得る人物というのがひとつの条件である。
 
 また、その条件の要素の一つに、単純に年齢があった。

 歳を重ねて完成された戦力は、しかし伸び代は少ない。若いが故の未完成、それは言い換えれば発展途上の秘めた実力である。
 
 それを考慮される一面があるのだが、それはつまり同世代でラクスを凌ぐ実力者がいれば、当然その者が勇者と呼ばれてもおかしくないのである。

「それともこう見えて結構な年齢とかですか?何歳なんです、ルストさん?」
「19」
「……見たまんまですね」
「ムムは4さい!」
「……なんなの、このかわいい生物」

 右手の指を開いて5を示しながら割って入るムムに無意識の内に抱き着こうと手が伸びるアンジェリカに、ルストがぺしりと手を叩きつつ言う。

「そういう事だ。あり得ねぇよ、しっかりしろよ勇者様」
「あーっ!でもでも、あの体捌きや移動速度は凄かったッス!教えて欲しいッス!」
「逃げ足を極めれば足も速くなるし、ビビリは回避が上手いんだ。全てにビビれ、それか俺の教えだ」
「なるほどッスね!」
「おねーちゃん、なっとくしちゃったよ、ルスト兄?」
「あぁ、こいつおもしれぇな」

 どうしよう、凄まじい速度で話が逸れる。
 ルストが意図的に逸らしているのは分かるが、それを助けるのがまさかのパーティメンバーだという事にラクスは少し泣きたくなった。

「……ルスト。忙しいって言ったね?何かやる事があるのかい?」
「あぁ、ある。俺にはなぁ……負けられない戦いがどっかにあんだよ!」
「そんな理由?!いやまず人類が負けられない戦いがここにあるから!」
「そんなふわふわした場所の戦いなんて後でいいっス!それよりちゃんと教えて欲しいッス!」

 さすがにこれじゃダメか、とかクロディーヌは冗談に気付いてたのか、とか思いつつ、ルストは溜息をついた。 
 そんななかなか進まない会話に呆れたのか、リーネが溜息混じりに口を開く。

「それで、アンタのやる事ってのは何なのよ?言わないと永遠に終わらないわよ、これ」
 
 その言葉に納得したのか、ルストは再び溜息をつきながら告げる。

「……はぁ。人探しだな。おまけで解呪聖法の使い手探し」

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