聖女と最強の護衛、勇者に誘われて魔王討伐へ〜え?魔王もう倒したけど?〜

みどりぃ

14 二人の話

 決闘の終了がルドニークにより宣言され、観客として見守っていた者達がまばらに戦った者達へと近寄っていった。

 リーネはそれを迎えるように視線を向け、反対にアンジェリカは視線を逸らすように足元に視線を落とす。
 パークスは全身を焼かれてうつ伏せに倒れており、それの生死を確認するかのようにルストはその脇、魔法の余波で焦げた地面にしゃがみ込んでいた。

 そんなルストに視線を向けるラクス。

「ルスト、彼は大丈夫?」
「ん?」

 よく見ればうつ伏せのパークスの頭を掴んで仰反らせるように持ち上げている。
 ラクスに問われて確認するように、頬をビタンべチンと怪我人に打ち込む音ではないビンタをするルクス。

「……ぅ…やめ、…くれ……」
「あぁ、生きてるぽいぞ」
「……もう少し手柔らかに確認しなよ」

 ピクピクと痙攣するように四肢を震わせてか細い反応を見せるパークスを見て、ラクスは苦笑いで諫める。
 ルストは特に興味がなかったように肩をすくめながら髪を掴む手を離して立ち上がった。当然、ぐしゃっと鼻から地面に落ちた。痛そうである。
 
 それを横目に見ていたリーネはひきつるような苦笑いでルストに耳打ちする。

「アンタね……そんな事したら絶対アンジェリカ様が怒るわよ?」
「聖女の説教か。ある意味貴重な体験だな」
「散々私もしたわよね!?一応私も聖女なんだけど!?」

 ルストの言葉に目を剥くリーネだが、ルストは首を捻る。

「聞いてんの?!」
「いや、怒られねぇなぁと」
「怒ってるわよ!」
「いや〝まさに〟の方に」
「え?」

 ルストの言葉に、リーネはルストの視線を追う。その先にはルストや民いわく〝まさに聖女〟と言われるアンジェリカ。
 
 リーネの知る彼女なら間違いなくルストの粗野な行いを叱る。が、アンジェリカはブツブツと何か呟いており、そもそも怪我をしたパークスすら見ていなかった。

「オイ、なんか怖いんだけど。あっちの聖女は病んでんのか?同僚なら悩み聞いてこいよ」
「え、嫌よ。私も怖いわよ。どうしたのかしら?」

 小声で話している2人。他の勇者パーティや聖王も訝しげにアンジェリカを見ている。

「…………あなたのせいね」

 そんな視線の先で、アンジェリカの独り言が終わる。最後の言葉は少し音量が上がり、かろうじて周囲の者も聞き取れた。
 
 どういうことか、と誰かが口を開くより早く、視線を地に向けていたアンジェリカの顔が跳ねるようにルストへと向く。

「あなた、なんなの?!」
「俺かよ。いやお前がなんなんだ。急にヒスんな」

 血走る眼で貫くような視線をルストに向けて叫ぶアンジェリカ。
 ルストは左眉を跳ねさせながら返すが、アンジェリカは聞こえていないように言葉を続ける。

「あなたの存在なんて知らない!なんなの?!」
「そりゃ今日初対面だし知らねぇだろ」
「うるさい!あなたが居なかったらストーリー通りだったのに!バグ?!」

 捲し立てるように叫ぶアンジェリカ。その視線を直接向けられている訳ではないのに圧倒されるような剣幕に、リーネは戸惑うように口を開く。

「あの、アンジェリカ様?どうしたんですか?」
「あなたもおかしいわよ!悪役聖女のくせに変に人気があって!」
「えぇ、私も怒られちゃうの?……えぇ、っと。とりあえず落ち着きましょう。ね?」
「そうだぞアンジェリカ。どうしたお前らしくない」

 意味不明な内容に戸惑いつつも宥めるリーネにルドニークも加わる。
 言ってる内容は意味が分からないが、まずは冷静にならないと話が出来ないと判断したようだ。

「らしくないのはリーネよ!私は完璧に進めてきたのに!」

 しかし一向に落ち着く様子のない、更に言えば理解不能な言葉を並べ立てる彼女に、決して短くない付き合いのリーネとルドニークも困惑したように閉口してしまう。
 
 どうしたものか、と言葉を探す2人の耳に、

「ははぁ、なるほどなぁ。だとしたら、そんなつもりは無かったけど……結果的には俺のせいだな」
「え?」

 ルストの声が響いた。

 アンジェリカの言葉を肯定するような言葉に。否、アンジェリカの言葉の〝意味〟を理解しているような言葉にリーネ達は目を丸くする。

「……どういうことなの」

 アンジェリカの囁くような音量の言葉は、しかし全員の耳に届いた。 その声にリーネ達がアンジェリカの方に視線を向けると、先程まで手に負えない叫喚ぶりを消し去って信じられない何かを見るように目を見開いている。

 突然の事態の急変の繰り返しに、いよいよ混乱しそうになる周囲を他所に、ルストは思い出すように視線を少し上に投げながら口を開く。

「確か、裏ボスとかじゃなったっけか?」
「アンタ……何言って……」

「えっ?!あっ……!で、でもっ!……う、ウソよ!あり得ないわ!だって……!」
「色々あってな。多分、ラクスの仲間も本来と違うんじゃねぇか?」
「……っ!!」

 リーネの困惑の言葉を無視して、ルストとアンジェリカは周囲が理解出来ない会話を続けていく。

「なんで……?もしかして貴方も……?」
「いやさ、妹が好きで手伝わされたりしてたんだよ。そうか、『英雄譚』も混ざってたんだな」
「っ、やっぱり…!……って、混ざってる?」

 困惑から一転、問い詰めるような鋭い視線を向けるアンジェリカに、ルストは肩をすくめながら言う。

「あぁ、他のも混ざってる……っていうか『英雄譚』の方は今知ったけど」
「な、何よそれ……!」
「マニアックだけどな。『復讐の姫』ってやつ」
「っ!………そういうことなの、なるほどね」
「うわ知ってんのか、すげぇ」

 憎々しげに吐き捨てるアンジェリカに、ルストは楽しそうに笑った。
 そのまま笑いの余韻を楽しむようにくつくつと笑うルストを睨むアンジェリカ。
 
 会話が切れたと思ったリーネは、すっかり置いてけぼりとなった周りを代表するようにルストの腕をつつきながら口を開く。

「ねぇ、何の話なの?」
「聞いても困るだけだし気にするな」
「いやすっごく気になるんだけど」
「ははは」

 問い詰めるようにつついていた腕を掴むリーネに、ルストは笑って誤魔化す。
 いかにもとってつけたような棒読みの笑い声に、掴んだ腕に力を入れようとする。

 しかしその軽薄な表情に対して紫の瞳にはどこか寂しげな光が見え、リーネは自分でも不思議な程に追求する気が失せてしまった。
 リーネと同じく気になって黙って聞いていたルドニークだが、追求を諦めたリーネを見て彼も諦めたようだ。
 話を切り替えるようにゴホンと咳払いをしてから口を開く。

「……まぁよいわ。とにかく決闘は終わりだ。 すみません、勇者殿。見苦しい所をお見せしましたな」
「あ、いえ……」
「ともあれ勇者殿。どうなさいますかな?」
「あー……」

 やはりリーネと同じく気になって仕方なかったラクスは、ルドニークに言われてこの決闘の本来の趣旨を思い出す。
 そう、勇者パーティにどちらの聖女を選ぶか見定める、という決闘だ。

 そして勝利したのはリーネである。当然というべきか、ラクスの視線はリーネへと向き、

「……思ったんですけど、『近衛』も一緒に勧誘してもいいんですか?」

 はせず、ルストへと視線を向けた。
 その視線に左眉を跳ねさせるルストを他所に、ルドニークから言葉が返ってくる。

「勇者殿が構わないのであれば勿論。本来『近衛』とは聖女に理由が無い限り一生仕える騎士を指しますからな」
「そうですか、分かりました。ありがとうございます」

 ルドニークの説明に感謝を述べ、ラクスはリーネへと視線を向ける。

「ではリーネさん、勇者パーティに入ってくれませんか?」


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