聖女と最強の護衛、勇者に誘われて魔王討伐へ〜え?魔王もう倒したけど?〜

みどりぃ

13 拍子抜けな決着

 顔面で床に真っ向勝負で突っ込んだパークスを他所に、ルストは肩をすくめながら口を開く。

「それより、こんな愉快なやつと長々戦う気はねぇ」
「アンタが勝手に楽しんでるだけでしょ……」
「まぁいいから聞けって」

 溜息をこぼすリーネのもとまで下がったルストが耳打ちをする。それを呆れた表情の余韻を残して聞いていたリーネは今度は怪訝そうな表情を見せた。

「はぁ?あんたね……これまで逃げ足の速さと不意打ちで誤魔化してこれたけど、パークスの強さは本物なのよ?」
「いいから。そろそろムムも暇だろうし早く済まそう」

 リーネの言葉をさらりと返して再び前衛へと進み出るルスト。リーネは溜息を溢してから一拍、魔力を練り上げ始める。

「もうっ、どうなっても知らないわよ」
「はいはい」
「……このガキぃ、なめやがって」

 そんな作戦会議を終えたらしいリーネとルストの視線の先で、怒りに震えるパークスが怒気に混じって威圧感と魔力を放ちながら立ち上がった。
 鋭い眼光と肌を刺すような迫力を前に、ルストを挟んで立つリーネは目を細める。

(鋭い魔力と気配ね……さすがはS級か。強いわね)

 それだけにリーネの前に立つルストが気にかかる。

 この威圧感を前に萎縮していないか?まともに動けるのか?
 
 しかし、それをルストに確認させてくれる時間をわざわざ与えてくれるはずもなく。床が割れる程の踏み込みと共に、パークスは大剣を振りかざしながらルストへと駆け出した。

「くっ……『焔雨』っ!」

 砲弾のように迫るパークスに押されるように、リーネも動き出す。練り上げていた魔力を余す事なく注ぎ込んだ上級火炎魔法を放った。
 
「っ!!」

 天から無数に降り注ぐ拳大の炎。

 そう大きくはない炎は、しかし、それがパークスの進行方向にひとつ着弾するのを見てパークスは思わず足を止めた。
 
「なんて威力……!」

 たかが拳大の炎は、床に直径1メートル程のクレーターを作っていた。
 ひとつならば大した威力ではないが、視界を覆い尽くす雨の如き炎の全てにこの威力があるとすれば話は別だ。
 
 パークスは冷や汗で背中を湿らせつつ炎が迫る上空へと鋭い視線を向ける。

「ーーうし、終わりだ」
「ッ?!」

 その瞬間、有り得ない声があり得ない程近くから聞こえーー直後、視界が赤く染まった。




「相変わらずとんでもない魔法ですわね……」

 炎の雨が空から落ちるのを後ろから見て呟くアンジェリカ。
 
 だが、パークスにはリーネ対策として『耐魔法向上』を施してある。通常のそれと違い、アンジェリカが聖力を存分に込めた『耐魔法向上』ならば、いかに上級魔法であろうともそう簡単に突破は出来ない。

 確かに彼女の魔法は強烈だが、アンジェリカの聖法を下地に、パークスという凄腕の剣士がその大剣と技術をもって防げば十分耐えられる。
 そしてそれは当然、リーネも理解していた。

 ひょんな事から巻き込んでしまった青年ルストは、なんだかんだで逃げ足を存分に発揮して立ち回ってくれた。
 
 そんな彼のリクエストーー『足止め出来て、かつ高威力の魔法』に応えて、範囲型殲滅魔法の『焔雨』を発動させた。
 
――でも、その程度じゃあのコンビ、というか今のパークスには通じないわよ?
――大丈夫だ、ちょちょいと小細工はする。

 端的に告げられたどこか小物臭い発言。しかし、そんな小細工をする暇がいつあるのか。
 
 体当たりでもされれば数メートルは吹き飛ばされそうな速度で走るパークス相手に、巻き込まれれば一般人なら跡形も残らないような絨毯爆撃の中で。

 その思考を同じくして辿った2人の聖女。
 
 だからこそ、『焔雨』による土煙が去った後の光景に2人とも目を疑った。

「え?」
「う、うそ、ちょっ、パークス?!」

 思わず寝転びたくなるような芝があった庭一帯を月面のようなクレーターに変え、その中心で全身から煙をあげて倒れる男――パークス。
 その強靭な肉体と『耐魔法向上』のおかげで五体満足ではあるようだが、砕けた鎧や隙間から覗く傷を見れば戦闘の続行が不可能である事は誰の目から見ても明らか。

「えっ、と、これ……チェックメイトでいい、のよね?」
「う、嘘よっ!なんでなの?!」

 あとは個人的な戦闘能力に乏しいアンジェリカを残すだけとなり、疑問形ながらも王手をかけるリーネ。
 あまりにあっさりと、重用していた前衛が倒されて混乱するアンジェリカ。

「……なんだか、拍子抜けな終わり方」
「はは……まぁそうだね。それにしても、リーネさんの魔法は凄い威力だな」

 肩をすくめて期待外れといった口調が滲むリィンと、それに苦笑いながらも頷くラクス。

「ちょ、違うっスよ今の……」

 そして、目を丸くして、仲間の言葉を否定しつつもどこか自信のなさそうな口調で言うクロディーヌ。

「え?クロディーヌ、どうしたんだい?」

 どうやら聞き取れなかったらしいラクスがクロディーヌに耳を寄せつつ問うと、クロディーヌは歯切れが悪くもゆっくりと口を開く。

「リーネさんの近衛……ルスト、でしたっけ。あの人が、魔法が当たる直前にーーパークスさんに攻撃したように見えたっス」
「……んん?私にはそんなの見えなかった」

 クロディーヌの言葉に、反論というより首を傾げて不思議そうに言うリィン。
 そのリィンの横で、納得したように手をポンと合わせるラクス。

「なるほど。そう言う事か。さすがクロディーヌ、よく見えたね」
「いや、あたしも気のせいかなってくらい微かにしか見えなかったっスけどね」

 しかし、唯一かろうじて見えたクロディーヌでさえ信じられない。

 それ程までに、有り得ない速さだった。
 
 視線を上にやったパークス。
 その瞬間に一瞬で距離を詰めて顎を振り払うような裏拳で撃ち抜いて脳を揺らした。
 そして降り注ぐ炎の雨を掻い潜りながら下がり、元の位置に戻った。
 
 所々見失いながらもかろうじて目で追ったクロディーヌにはそう見えた。

「一体、ナニモノなんスか……」
 
 思わず漏れた言葉。
 半信半疑、よりは「疑」が気持ち強めなリィンと、楽しそうに笑うラクス。

「ははっ、ホント、何者なんだろうね」
「あれ?いやいやラクスも知らないんスか?」
「うん。僕も少し会った事があるくらいだからね」

 少し会った程度にしては随分と彼に信頼のようなものを寄せているように思えるが、しかしそれを追求しても仕方ない事だとリィンとクロディーヌは小さく嘆息して切り替える。
 
 再び視線を戻すと、手をかざしたリーネと、その先でアンジェリカの周りを囲うように展開された炎。
 
 リーネの火炎魔法に包囲されて身動きのとれないアンジェリカは、程なくして降参の言葉を告げるのであった。

「聖女と最強の護衛、勇者に誘われて魔王討伐へ〜え?魔王もう倒したけど?〜」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く