聖女と最強の護衛、勇者に誘われて魔王討伐へ〜え?魔王もう倒したけど?〜

みどりぃ

12 決闘

 試合開始を宣言して右手を振り下ろすルドニーク。
 その合図と同時に、足元の土を爆ぜさせて弾かれたように飛び出したのはパークスだ。

(あぁもうっ!とにかく今は目の前の決闘!パークスに支援聖法を!)

 アンジェリカは意識を切り替えて顔を上げる。
 
 打ち合わせ通りリーネに突貫するルドニークの迫力は、背後から見ても凄まじい。
 間違いなく防戦に回るであろうリーネ達を予想しながら聖力を練り上げるアンジェリカの目に、

「貴様!良い度胸だっ!」

 リーネのもとから飛び出して迎え撃たんと駆ける無礼者の姿が映った。

「度胸も何もねぇよ、仕事なんでね」
「ふん、意外に律儀なようだな!だがこの『豪剣』の前に無手で飛び出すとは無謀だぞ!」

 パークスの言葉と共に、持ち上げるだけでも苦労しそうな巨大な剣が軽々振り下ろされる。
 それを左に潜り込むように飛び出して回避するルスト。
 
「あっ!ちょっ……なんで武器持ってないのよ!」
「なかなかすばしっこいな!」

 そんなルストを追いかけるように横薙ぎに振るわれた大剣を、蹲み込んで回避するルスト。
 そんな彼の耳に、慌てたようなリーネの声と称賛するようなパークスの声が届く。
 
「いや今更だろ……ろくに飯も食えなかったヤツが武器買える金があると思うか?」
「なんで偉そうに言ってんのよ!てゆーか私も気付きなさいよ!」

 ふんと鼻を鳴らすルストに呆れながら自身の間抜けを嘆くリーネ。

「あぁもうっ!とにかく予定通り行くわよっ!」
「勝手に嘆いて勝手に立ち直ったな」
「うるさいっ!」

 小馬鹿にしたような口調のルストにぴしゃりと言ってのけ、リーネは魔力を練り上げていく。
 渦巻くように体から溢れ出る魔力の波動にアンジェリカが顔を顰めた。

「パークス!その男は放っておいてリーネから仕留めなさいっ!」

 慌ててか敬称を忘れて叫ぶアンジェリカにパークスは返事よりも早く行動で示す。
 ルストを追いかけるように振るっていた大剣を引き戻して、素早くリーネへと駆け出した。

「っ!貴様ぁ!卑怯な真似を!」
「隙だらけなお前が悪い」

 しかしその足はすぐに止まる事となる。

 いつの間にか進行方向の脇に移動したルストが、パークスの足を引っ掛けたのだ。
 思い切り踏み出した足を地につけれずに体を放り出されたパークスは、転倒こそしなかったもののたたらを踏んでしまう。

 単純ながらも効果的な足止めと言えた。

「くっ……!」

 パークスは焦りが滲んだ舌打ちをしつつ、牽制として大剣をルストに振るいながら再度駆け出さんと踏み込む。
 だが、腰も入っていない苦し紛れの剣がこれまで回避し続けてきたルストに当たるはずもない。

「『豪剣』ね……ちょっと見栄はってないか?重たそうだけど」

 回避されるどころか、潜るように回避しながら大剣の腹を上方向に掌で突き上げられる。おまけに小馬鹿にしたような感想まで残される。
 体重が乗っていないとは言え、超重量の大剣が突如突き上げられた事で予想外の方向に弾かれ、重心が崩されたパークスはまたもたたらを踏んだ。

「すごい……」

 それを見て目を輝かせるのは勇者パーティのクロディーヌだ。
 
 最初はただの不審な男だと思っていた彼は、しかも武器さえ持たずに飛び出す愚か者だと思っていた。
 
 いくら大剣とは言えそれをもってS級まで登り詰めたパークスの剣は決して遅くない。
 むしろ、その威力や威圧感に身を強張らせて近付こうとさえ思えない恐ろしさがある。

 それを彼はただの一度もその身に傷をつける事なくパークスの大剣を回避し続けた。
 その身のこなしや胆力は驚嘆に値する。
 
 特に最後、今の大剣を弾いた妙技。
 何気なく行われたそれは、本人の言葉と相まって簡単そうに聞こえるが、実際クロディーヌをもってしてもやろうとさえ思えない技巧を要する。

「ね、ねぇラクス!彼って一体何者なんスか?!」

 思わず身を乗り出して問うクロディーヌに、ラクスは苦笑いを浮かべる。

「はは……また後で話す時間があると思うから、そこで本人に聞いたらどうかな?正直、勝手な事言ったら怒られそうでさ」
「えぇ〜〜っ!」

 焦らされて不満そうな子供のように頬を膨らませるクロディーヌ。その横でリィンはラクスを見ながら小さく呟く。

「……勇者であるラクスが怒られる人物。何者?」

 クロディーヌにも聞こえない呟きは、しかしラクスは聞こえていたようだ。苦笑いを深めるラクス。
 
 その表情にクロディーヌもリィンも追求する事を辞めた。意外と頑固な一面のあるラクスに粘っても無意味だと悟ったのだ。

(さすがルスト、この2人にもう興味を持たれてるや)

 苦笑いを浮かべたまま内心で嘆息するラクス。仲間に引き入れるのに苦労した2人がこうも簡単に気を引かれているのは少し複雑な気持ちもあった。


 そんな会話をしている内に、決闘は次の展開へと進んでいた。

「よくやったわ!離れてなさいっ!――『炎龍』!」

 そんな会話を他所にリーネの透き通るような声が響く。
 弾かれたようにその場から離れてリーネのもとに下がるルストと入れ替わるように、炎の龍がパークスへと向かう。

「なぁっ……?!」

 顎を開けてパークスを丸呑みにせんと迫る巨大な龍にパークスは目を剥く。
 ものの10秒にも満たない〝溜め〟で放たれたとは思えない規模に、心底驚愕して反応が遅れてしまっていた。

「う、ぅぉおおおおおおおっ!!」

 もはや回避は間に合わないと判断したパークスは咄嗟に大剣を炎龍へと振りかぶる。
 硬直も無く素早い判断はさすがS級冒険者と言えよう。

――ドォオオオンッッ!!

 だが相手が悪かった。

 上級炎魔法でも上位に位置する『炎龍』を前に大剣だけではまさに焼け石に水。
 爆音と土煙をあげて着弾する『炎龍』にパークスはあっさりと飲み込まれてしまった。

 周囲で見ていたシスター達や聖王は頬を引きつらせる。あれ?これ死んでない?と心の声がハモる。

「………まだだね」

 そんな中、ラクスが呟く。
 同じ事を思っていたのか、ラクスと同じく見定めるような表情で土煙を見ていたクロディーヌとリィン。
 
 その言葉を証明するように、土煙が弾かれるように放射状に吹き飛ばされた。

「さっき貴様が言ったように、俺の大剣は『近衛』になってあえて一回り大きくした。……そうしないと、〝こうなった時〟に軽すぎるからな!」

 土煙を剣圧で吹き飛ばしたらしく、大剣を片手で振り抜いた体勢のパークスがニヤリと笑って叫んだ。
 その身体からはほのかに桃色の光が溢れている。

「うっわぁ、間に合わなかったわね」

 それを見てリーネはげんなりとした表情でぼやく。
 その視線の先には、両手をパークスへと翳して微笑むアンジェリカが居た。

「ふふ、リーネ様。これくらい朝飯前ですわ。……パークス、『筋力向上』と『耐魔法向上』を施してます!思い切り攻めなさい!」

 支援聖法。
 対象の能力を向上させる聖法で、術者の技量や込めた聖力でその上昇率は変動する。
 
 それをアンジェリカという支援聖法のエキスパートが、十二分に聖力を込めた支援聖法ともなれば、その向上率は凄まじい。

「お任せ下さい!」

 水を得た魚といった表情で駆け出すパークス。アンジェリカの支援により爆発的に向上した脚力による踏み込みは先程までとは比較にならない速度を生む。

「ぶへぁっ?!」

 そしてそんな脚力で足を引っ掛けられたら、それはもう豪快に転ける。顔面で数メートルは地面を抉るくらいには。

「うわぁ……痛そ」
「アンタが言っちゃう?!」

 足をかけた体勢で手を口元に当てて言うルストに味方のリーネからツッコミが飛んできた。

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