聖女と最強の護衛、勇者に誘われて魔王討伐へ〜え?魔王もう倒したけど?〜

みどりぃ

7 嗤う聖女

「え、あ、はい、そうですな。勇者殿から見て問題なければ、どちらかの『聖女』をお連れください」

 勇者の言葉に我に返ったルドニークが頷く。
 遅れてアンジェリカがあんぐりと開いた口を慌てて閉じて、恥じ入るように桃色の髪を手櫛で整えながら姿勢を正す。

 それらをリーネは口を開く事なく微笑んで眺めていた。冷めた視線を送る目は一切笑う事なく。

(2人いれば1人は宣伝に回そうって事でしょ。ルドニークのじいさん、優しいけど食えないとこあるし。……まぁ反論しても意味ないんだろうけどさ)

 好々爺にしか見えないルドニークは、しかしあくまで一国の王。優しいだけで務まるはずがない。
 聖国という国の性格に合っている穏やかな容姿や口調も、もしかしたらそれを考慮して使っているのではないかと考えた事さえある。

(ま、悪いようにはしないでしょうけど)

 しかし優しさがあるのは事実だ。そしてその優しさはひねくれ気味のリーネも認める所である。
 そんな事を考えるリーネを脇目に、ラクスは口を開く。

「好きな方を、と言われても……魔王討伐は危険な旅になるんで、強い方にお願いしたいとかしか」
「ご安心ください、勇者様。そう仰ると思いまして、決闘のご用意はしております」
(用意って……私は何も聞いてませんけど?)

 アンジェリカはまるで用意していたセリフを言うように微笑む。
 それにリーネは予想はしていたとは言え、こっそり溜息をつきながら内心で吐き捨てた。

「準備が良いっスね」
「……良すぎる気もするけど」

 クロディーヌは笑い、リィンは怪訝そうな表情だが、アンジェリカは畳み込むように話を進めていく。

「教会の裏にて広場がございます。闘技場といったちゃんとした施設ではございませんが、決闘をするには十分なスペースですのでそちらで行おうかと思います」
「あ、はい。分かりました」

 頷くラクスにアンジェリカは微笑む。
 異性を虜にするようなかわいらしい微笑みに、しかしラクスはふと横にいるリィンに目を向けた。

 そのリィンはその広場の方角がある壁の方に視線を向けて微動だにしない。

「リィン?」
「……ん、なんでもない」

 明らかになんでもなさそうではない態度だったが、ラクスは深く追求する事なく「そっか」と言って視線を戻した。
 その視線を戻した先で、微笑んでいたアンジェリカはリィンの方に熱のない視線を向けている。

「………。 えっと、ではアンジェリカ様、決闘はいつ行う予定ですか?」
「あ、はい。あまり時間を頂くのも恐縮ですし、今すぐにでも始めようと思うのですが」

 そう言ってチラとリーネに視線を向ける。
 
 普通なら断っても良い状況だろう。
 付き人は行方不明であり、近衛もまだ来ていない。それどころか、まずはマリーの捜索を優先すべきである。

 当然リーネもそう考えた。
 とにかく一刻も早くマリーの安否を確かめたいのだ。そう切り出されるのは予想していたとは言え、首を縦に振る気にはなれない。
 勿論、リーネは断ろうとして、

「それに、いつ何時戦う場面に遭遇するか分からないのが魔王討伐の旅と思います。ですから、日を改める事自体が選考に矛盾するかと思いますし」

 アンジェリカが言葉を挟んでくる。
 それに苛立ちを覚えるが、そもそも勇者パーティに入る事に前向きではないリーネからすればむしろ不戦敗で構わない。

 いきなり勇者を前に「魔王なんかどうでもいい」と言う訳にもいかずに大人しく座っていたが、だんだんと腹が立ってきたリーネはそれさえどうでも良くなってくる。

「ふざ……」
「リーネ様っ!!」

 だが、罵倒ついでに辞退の言葉を口にするより早く、円卓の間の扉が勢い良く開かれた。
 リーネが連れて来られた時のそれと違い、けたたましい音を立てて開かれた扉に、アンジェリカが眉根を寄せる。

「ちょっと、神聖な円卓で騒がないで頂けませんか?」
「すみません!でもそれどころじゃないんです!」

 『聖女』であるアンジェリカの指摘に扉を開けたシスターは謝罪するも、それ以上に慌てているようですぐさまリーネに視線を向ける。
 
 その様子に嫌な予感が胸を過ったリーネは咄嗟に耳を塞ぎたくなる衝動にかられるも、それを許してくれる事はなく。

「マリー様がっ……!」

 ドクン、と嫌な音が世界に響いた気がした。
 怪訝そうな表情の聖王や勇者パーティや、眉根を寄せるアンジェリカと妙に冷静なパークスも視界に入らない。
 
「……っ」

 気付けば、椅子を倒しながら立ち上がっていた。
 扉に向かう途中に座る勇者達を押し退けるようにして扉に向かい、何やら後ろから聞こえる声に耳も貸さずに円卓の間から飛び出す。

「案内しなさい!早くっ!!」
「っ、はいっ!」

 怒号にも似た声音で指示をしてシスターを急かす。
 それに弾かれるように頷きながら駆け出すシスターの背中を追いながら、締め付けられるような胸の痛みを必死に堪えていた。

「ちょっと!……もう、リーネ様ったら。すみません、勇者様」

 それを咎めようと声を掛けていたアンジェリカは、ラクスへと頭を下げる。
 その落ち着いた優雅な所作は、普段ならば目を引かれる事だろう。

「いえ、そんな事よりどうしたんですか?マリーさん、とは?」
「はい、リーネ様の付き人にございます。何かあったようですね……」

 しかし、この空気の中であまりに落ち着いた態度は、かえって不気味とさえ感じる事もあるだろう。
 もっとも、状況が一切分からない勇者様はその事までは思い至らなかったようだが。
 
 よく分からないまでも緊迫した様子に心配そうにリーネが立ち去った方を見ているラクス。
 それに構わずリーネは言葉を続ける。

「それより……リーネ様はお忙しいようですし、私がラクス様達の旅をお手伝いするというのはどうでしょうか?リーネ様も何も文句は仰らないと思います」
「……あぁ、その方が良いかも知れないですね。彼女はそれどころでは無いように見えましたし」

 心配そうな表情のまま頷くラクス。
 ラクスとしては今のリーネに同行を切り出すのは申し訳ないという想いからの発言であり、また、早めに話をまとめて様子を見に行きたいという気持ちもあった。

 人の為に。それを胸に勇者として生きるラクスは、リーネの緊迫した様子が気になって仕方なかった。
 それでもリーネを追わなかったのは、わざわざ用意したくれた大事な会談であるとは理解していたからである。

 そうした心境を他所に、アンジェリカは「まぁ」と口元に手をやって喜びを示す。
 選ばれた事を光栄に思うかわいらしい少女、といった所作は、しかしこの空気の中においてはどうにも不似合いには思えるが。
 
 そして、手元に隠れた口元が裂けるように笑っている事に誰も気付く事なくーー「では」と話をまとめようと切り出そうとしたアンジェリカ。

――バチチッ

「「「っ!!」」」

 それよりも早く、小さな放電するような音と同時に円卓の中心に突如現れた男に、ラクスとクロディーヌ、パークスがバッと振り返った。

「え」
「ぬ?」
「……わお」

 遅れて気付くアンジェリカ、ルドニーク、リィン。
 
 それらの6対の視線を受けて、円卓の中心に立つ男は不敵に笑った。

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