聖女と最強の護衛、勇者に誘われて魔王討伐へ〜え?魔王もう倒したけど?〜

みどりぃ

5 探索に向かうのは

 マリー・フォレア。聖国最大の教会でもありアリア教の総本山とも言えるここアリア大教会でも古参の1人であり、相応の発言力を有する女性。
 2人居る今代の『聖女』の1人、リーネ・ルーアンの付き人であり、小さい頃から面倒を見てきた母代わりの存在でもある。

「マリー、が……?」
「はい、やっぱりお見えになってないんですか?おかしいですね……」

 目の前のシスターは不思議そうに首を傾げる。
 
どうやらそろそろリーネも会談に向かわなければならないのだが、いつもならマリーが時間管理まで行ってリーネを連れて来るだろうと周囲は思っていた。
 だが、時間になっても現れないリーネに数名のシスター達がこうしてマリー含めてリーネを探し回っていたらしい。

「と、とにかく!もう勇者様御一行もアンジェリカ様達もお待ちになっております!急いで向かわれてください!」
「え、や、ちょっ……」
「マリー様は私達で探しておきますから!」

 シスターが背中をグイグイ押してくるが、リーネはどうにも嫌な予感がして素直に従おうと思えない。
 いつも側に立ってくれている彼女が居ない故の不安というだけには思えず、少し血の気の引いた顔でマリーを探すように周囲を見回している。

(マリー……!)

 それに、疑いたくは無いがマリーが狙われる理由は嫌でも思い当たる。

 『聖女』が2人存在する今代。国民はその恩恵を二倍受けられると喜んでいたりするのだが、人が集まれば摩擦も衝突も生まれるものだ。
 ましてや大教会というアリア教会総本山ともなれば尚更だ。神の教えに従う者達が争うというのも残念の話ではあるのだが。

(マリー……マリー!)

 マリーはいわば〝リーネという『聖女』派閥〟のほぼトップに立つ存在、と言えなくもないのだ。それをアンジェリカ派の人間がどう見るかは想像に難くない。
 そう思い至ったリーネは、背筋に冷たいものを感じて立ち止まる。

「ちょ、早く向かって下さいリーネ様!」
「っ、嫌よ!」

 背中を押していたシスターは立ち止まるリーネを急かすが、リーネはまるで何かを振り払うように叫んだ。
 その声量に目を丸くしたシスターに、リーネは振り返って視線を合わせる。

「私、マリーと一緒じゃないと行かないっ!」
「……え。あ、いや…だっ、ダメですって!それこそマリー様に怒られちゃいますよ?!」

 ごもっとも。もし単にマリーが席を外しているだけならばそれはひどく叱られる事だろう。
だが、だからこそ。そんな大切な場にマリーが居ない事がおかしい。

「そう、そうよ。こんな時にマリーが無断で居なくなるなんてありえないわ……何かあったのよ!」
「え、でも、マリー様に何か不敬を働く人なんて……」
「……っ!」

 確信した事で動揺を振り切ったリーネはその勝ち気さを象徴するような吊り目がちな意志の強そうな瞳に力を込める。
 そしてリーネの言っている事が理解出来ていないような若いシスターの様子に、彼女が無関係な事を理解した。同時に、これ以上は時間の無駄だとシスターを押し退けて駆け出そうとする。

「ちょちょっ!リーネ様ぁ〜っ!」
「マリーを見つけたらすぐ行くから、あなたは先に戻ってなさい!」
「そんな事言える訳ないじゃないですかぁ!」

 涙目なシスターは実に哀れだった。それはそうだろう、勇者という国賓や、上司にあたる聖女が今か今かと待つ場に、リーネを見つけたにも関わらず逃したと報告するのはあまりに酷である。
 しかしリーネは知った事かと走り出す。なかなかに非情な上司だ。

「あー……ちょっといいか?」
「良くないわよ!」

 そこに目立たないようにそっと話しかけるルスト。他人事のようにボケっと脇に立っていたが、一応声は掛けないとなぁといった様子で口を開いた。
 それにぴじゃりと言いのけて走り去るリーネに、ルストは嬉しそうに笑う。

「そう?なら俺はラッキーだけどさ」
「ルスト兄!もうっ!ダメっ!」
「あ、やっぱ?」

 だがペチペチと太ももを叩くムムに、ルストは溜息混じりに頷く。
 そしてリーネへと視線を向けた。すでにかなりの距離を駆け抜けている彼女の背中を見て、もう一度溜息を溢してから体を向ける。

「やっぱ待った」
「っ?!」

 その次の瞬間、リーネの前にルストが現れた。

(ウソっ、見えなかった……!一瞬で回り込まれた。速い!)

驚愕に目を見開くリーネに、ルストは肩をすくめながら口を開く。

「マリーさん?だっけ?あの阿修羅みたいな怖いシスターを見つけたいんだな?」
「そっ、そうよ!って急いでるの!退きなさい!」
「まぁ待て待て。俺が探しとくから」
「はぁ?!」

 母のような女性に対して聞き捨てならない表現をされた気がするがそれを指摘する時間も惜しい。
 押し退けようとするリーネの手を掴んで言うルストに、リーネは苛立ちを込めて叫ぶ。

「なんでアンタがっ」
「飯の礼」

 リーネの言葉を遮るようにルストは言う。
 意識の死角を縫うような、言葉の隙間に差し込むようなタイミングで放たれたルストの言葉に、リーネは無意識の内に続く言葉を引っ込めていた。

「悪いが今金ねぇんだよ。これで手を打ってくれ」
「で、でもっ」
「任せとけ。仕事はきっちりやる……5分くらいで戻るわ」
「……!」

 逃げ出した街でたまたま拾った行き倒れの青年。常識や礼節に欠け、軽薄な印象ばかりのどうにも腹立たしい男。
 そんな彼の、思わず目を逸らしてしまいそうな程真っ直ぐこちらを見る瞳。紫に煌く瞳には、不思議と信じたくなるような、反論する意志を解きほぐすような不思議な眼光があった。

「ムムは任せた。良い子だから迷惑かけねぇとは思うからさ」
「……保護者のアンタの方が手が掛かりそうだものね」

 だからだろうか。リーネは、自分でも分からないままそんな事を言っていた。
 つい先程初めて会って巻き込んだだけの青年に、最も慕う母のような女性の捜索を頼むなど、普段なら考えられない判断だと自分でも分かっているのに。

 そして、リーネの遠回しの肯定にルストはニヤリと笑う。

「そうだな。だから、俺はまた迷惑かけるかも知れん」
「え、えっ?!ちょっ」

 何やら不穏な言葉を告げるルストにリーネは問い正そうと慌てて詰め寄る。だが、その手が届く前にルストは現れた時のように一瞬で視界から消えた。
 一拍遅れて巻き起こる豪風に金糸のような髪をはためかせるリーネの右手は、行き場を失ったように虚空に浮かんだまま。

「……やっぱり、早まったかも」

 ぽつんと残ったリーネに、いつの間にか追いついていたムムの小さな手がポンと置かれる。
 慰めるような仕草は、しかし何故か「諦めよう?」と言っているような気がしてならない。

「あぁっリーネ様!早くお越し下さい!」
 今からでも自分で探すかと迷うも、集まってきたシスター達に捕まり連行されてしまう。リーネは彼との約束通り面倒を見ようとムムを抱き上げながら、大きな溜息を溢したのであった。

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