聖女と最強の護衛、勇者に誘われて魔王討伐へ〜え?魔王もう倒したけど?〜

みどりぃ

4 拉致の理由

「ではいってらっしゃいませ」

 あっという間に着替えさせられたルストとムムは、追い出されるように更衣室から出てきた。

「なぁ、逃げていいかな?」

 黒を基調にして要所に銀糸で刺繍の入った服はいかにも格式高い雰囲気であり、実際に着心地や肌触りだけでなく動きやすさも問題無い。
 ルストの傷んだ黄色に近い金髪では服に負けてしまいそうだがそれも整髪された事で形になっている。そうしてしまえば髪で隠れていた紫の瞳と平均よりは整った顔立ちもあり、十分様になっていると言えるだろう。

「ダメだとおもう!」

 対してムムはかわいらしい桃色のドレスだ。ふわふわしたフリルが細身の彼女に柔らかなシルエットを飾り立てている。
 その純白の髪と真紅の瞳を混ぜたような桃色の服は、見る者の頬を緩ませるようなかわいらしい彼女によく似合っていた。

 そんなムムはドレスを気に入ったのか嬉しそうにくるくるとその場で回転したりしている。それを微笑ましく見ていたルストだが、背後にある扉が開いた事で先と同じ言葉を口にする。

「……なぁ、やっぱ逃げちゃダメか?」
「う……申し訳ないとは思ってるわよ」

 扉から現れたリーネはバツが悪そうに呟いた。
 ルストが振り返るとそこには先程までの町娘のような姿ではなく、いかにも聖女といった純白の衣装に身を包んだ彼女の姿があった。

 あまり華美すぎないシンプルなドレスといった格好に、胸元で光る小さな金の十字架のネックレス。肩を出してはいるが二の腕から先を覆うこれまた純白のロンググローブ。
 申し訳なさそうに俯く彼女は、暴力聖女と呼ばれているとは思えない神聖な雰囲気を放っていた。

 金糸のような煌く発光しているようなストレートの金髪を肩甲骨くらいまで流し、吸い込まれるような碧の瞳。
勝ち気さの滲む吊り目は整った顔立ちとあわさり綺麗さや美しさの印象を強めるが、今のように困ったように眉尻を下げたりマリーと話す際に見た笑顔の時にはかわいらしさも垣間見せた。

(腐っても聖女か……)

 もし口にすれば再び取っ組み合いになりかねない発言を内心に留めるルスト。賢明だった。

「はわぁ〜!おひめさまみたい!」
「え……ふふ、ありがとねムムちゃん」

 目をキラキラさせてリーネを見上げるムムに、リーネは優しく微笑む。なるほど確かにこの笑顔と格好ならば聖女である事を疑う者は居ないだろう。
 そんな事を思いながらルストは壁に背中を預けて腕を組む。

「さてと、それじゃ言い訳を聞こうか」
「……そうね。まだ時間もあるみたいだし」

 リーネはムムの頭を優しく撫でながら頷いた。そして目配せでムムをどうするか問うと、ルストはそのままで良いと頷く。
 保護者(?)である彼がそう言うならば、とリーネはムムの頭を撫でたまま口を開く。

「……勇者が認定されたのは知ってるわよね?」
「あぁ?やっと決まったのか。てか話変わってねぇか?」
「いや変わってないわよ、順を追って話すってだけ。……てゆーかなんで知らないのよ?世界的ニュースでしょ」

 怪訝そうな表情のルストに別の意味で怪訝そうな表情のリーネ。ルストは溜息混じりに言う。

「ここ数年は人があんま居ないとこにいたんだよ。……んで、それで?」
「これだけ開拓が進んでてそんな所あるの?……まぁいいわ、その勇者がメンバーを自分で探し回ってるの」
「ふーん……それで聖女に目を付けたってか?」
「半分当たりかしらね。聖王が聖女をと進言したの。それで勇者がその目で見る為に今日ここに来てるってワケ」

 会話のテンポが速いな、とリーネは思いながら言葉を続けていく。察しが良く、頭が悪くないなとルストを評価する反面、ムムがかわいらしく小首を傾げている事を申し訳なく思う。

「けど、今この聖国には2人の聖女が居るのよ」
「へぇ……珍しいな。史上初なんじゃねぇか?」
「そうみたいね」

 基本的な知識はあるのかと内心安心しながらリーネは頷く。

 聖国ホーリィはシュヴァリア王国の隣国であり、アリア教の総本山でもある。一応は聖王という王族がトップとなっているのだが、国外への影響力が強いのはアリア教であると言えた。
 そのアリア教の象徴的存在が『聖女』であり、高い聖法への適正を示す女性が選ばれる。

 魔法を扱うのに必要な魔力とは別に、聖法を扱う為の聖力。それを多く持ち、そして聖法の扱いに長けている女性と言い換えても良い。
 そして聖法は回復や支援が主であり、先先代の『大聖女』に至っては聖都住民を全て癒したとさえ言われていた程だ。

 そんな『聖女』は基本的に1人が選ばれる。では何故今代は2人も『聖女』がいるのか。

「私の異名、知ってたわよね」
「暴力聖女な。……あぁ、素行の悪さでもう1人まともなのを用意したのか」
「そっちじゃないわよ!『異端聖女』の方っ!」

 納得したように手をぽんと叩くルストにリーネは怒鳴る。いや、もしかしたらそれも理由なのかも知れないとリーネ自身迷った事はあったが。

「私はね、聖力も魔力も扱えるの」
「――!……それは、すごいな」

 本当に驚いたようで目を瞠るルストに、しかしリーネは誇るでもなく眉尻を下げて首を横に振った。

「そんな良いものじゃないわ。変な目で見られる事も多いわよ」
「……まぁ、そうだよな。すまん、軽率だった」

 あれだけ頑なに謝らなかったルストが素直に謝るのを見て今度はリーネが目を瞠った。
 そして、意外と良いヤツなのかも、と思ってふっと笑みを溢す。

「いいの、もう慣れたわ。とにかく、そんな経緯で2人の聖女が居るんだけど、今度はどっちが勇者パーティに相応しいかって内部で割れちゃってね」
「…………」
「もう1人の聖女……アンジェリカ様は支援聖法のエキスパートなの。勿論、治癒聖法も扱うけどね」

 ここまで聞けばルストには十分だった。

 勇者パーティともなればこの上ない〝宣伝〟になり得る。魔王討伐の暁にはそのメンバーにも多大なる報酬が恩恵を受けた国々から支払われるし、何より名誉を得る事になる。
 そこに『聖女』が入っていたとなれば、聖国の収入の大部分である信者や治癒を求めて訪れる民からのお布施も大きく跳ね上がるだろう。

 そしてそれを求めるのは国だけではなく個人にも言える。
 
魔王討伐を成し遂げた勇者パーティとなれば歴史上でも最大級の名誉だ。それを得る為に勇者パーティに入りたいと思う者はいくらでも居る。
それをアンジェリカというもう1人の聖女は求めているのだろう。そして、それを決める為に勇者の前で会談をするという事なのだ。
 
そして、加えてリーネとマリーの会話にあった言葉。

「なるほど。実力が求められる勇者パーティに入るのには、決闘という実力を示す場を設けるのが手っ取り早くアピール出来る、って訳か」
「……あんた、察しが良すぎて気持ち悪いわね」
「暴力的な脳筋聖女と一緒にすんな」
「脳筋?!私は頭は悪くないわよ!」
「知識と知性は別物だろうが」

 『聖女』とは象徴である。であれば、ただ聖法に長けているだけでなく、その立ち振る舞いや言動も高い水準が求められるのは有名な話だ。即ち、リーネの持つ知識は決して少なくない事はルストも分かっている。
 それでも粗探しのように馬鹿にするルストに青筋を浮かべるリーネだが、さすがに今暴れる訳にはいかないとグッと堪えた。

「とにかく!巻き込んだのは悪かったわよ。……だってマリーが怖かったんだもん」
「………………」

 ルストも追撃の嫌味は無かった。だってルストもマリーが怖かったんだもん。

「勿論決闘になれば私1人で闘うわ。というより辞退するのがベスト」
「確か聖国の女性の決闘って付き人と2人じゃないとダメなんじゃないのか?」

 決闘というシステムは大陸中に存在している。とは言え、実際に決闘なんてシステムを使うのは大半が男性だ。
 だが、聖国という他国に比べて圧倒的に女性が多い国ではその限りではない。その為、女性同士の決闘用にルールが設けられる事となった。

 それが付き人――聖女等の地位のある女性は護衛として男性を雇う事が多く『近衛』と呼ぶーーを前衛に置き、女性が後衛となる二対二の決闘だ。
 これは余談だが、女性同士の一対一だと男性のそれより凄惨な事態になる事が多かった為、クッション代わりに付き人を前衛に配置するようになったとか。

 ちなみに聖国に女性が多いのは聖法に適正を示すのが女性の方が多いからだ。

「別に女性が前衛じゃダメってルールはないわよ」
「ふーん。んで、もし決闘になれば1人で勝てる相手なのかよ?」
「勝てなくてもいいわよ。さっさと降参するわ。アンタは変に目をつけられないように端っこにいなさい。私はともかく、近衛はペナルティが出かねないし、そうならないようにね」
「ペナルティ?」
「決闘なんだから多少はね。まぁ大人しくしてればわざわざ臨時の近衛に突っ掛かる人達じゃないわ。……それに、別に勇者パーティなんて興味ないもの。あ、もちろんこれが終わったらアンタは帰っていいから」
「そりゃそうだ。さっさと帰るよ」

 本当にどうでも良さそうに吐き捨てるリーネに、ルストは肩をすくめる。

(勝てるとは言わない、か。まぁ前提から負けていいってんなら、大怪我しなけりゃいいくらいだしな)

 なんせ治癒聖法の使い手などいくらでも居る。あまり酷い怪我であれば傷一つ残さず回復するだろう。
 そんな時だった。

「リーネ様っ!マリー様をお見かけしませんでしたか?!」
「え……?」

 慌てて駆け寄ってきたシスターに、リーネは言葉を失った。

「聖女と最強の護衛、勇者に誘われて魔王討伐へ〜え?魔王もう倒したけど?〜」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く