聖女と最強の護衛、勇者に誘われて魔王討伐へ〜え?魔王もう倒したけど?〜
3 拉致寄りの歓迎
「ルストといいます」
「ふーん」
「つい意地になってわざと焦らしてました」
「やっぱりか!このっ!」
「うわ危ねっ!この暴力聖女が!」
店主から放り出されたリーネと青年――ルスト。
人目につく大通りで取っ組み合う2人に周囲はなんだと視線を向けるが、片方がリーネだと気付くと「あぁなんだ」と視線を外して素通りしていく。
「誰が暴力聖女よ!」
「いや周りが見慣れた光景みたいな扱いされてる時点で反論出来ねぇだろ!てか拳何で出来てんの?!いってぇ!」
「もー!おちついてー!」
それに割って入ったのはムムだ。
小さな体を目一杯に広げるようにして2人を引き離そうとする姿に、通り過ぎていく住民達がほっこりとする。
それはリーネも同じだったようで、むぐっと口と拳を詰まらせた。
「う……そ、そうね。私ったらつい。ごめんねムムちゃん」
「ムムの言う通りだ、落ち着け暴力聖女」
「っ、こんのぉ…あんたが言うか……!」
「もールスト兄!そーゆーのゆっちゃダメ!」
「えー」
拳を握りしめるリーネと頬を膨らませるムムに睨まれたルストは、しかし面倒そうな表情を浮かべる。
その姿に「よっしゃしばこう」と心に決めて、ムムを避難させようと脇から手を入れて持ち上げるリーネ。
「あっ!やっと見つけましたよリーネ様!」
「うぇっ?!あっ、マリー?!」
そこに息を切らせたマリーが現れた。
柔和な微笑みと優雅な立ち振る舞いを常とする彼女は、しかしつい先程まで戦に出ていたような気迫と鋭い眼光でリーネを睨むようにして見据える。
「あ、あのねマリー、えっと……あ、あはは…」
言い訳を探すも見つからなかったらしいリーネは笑顔で誤魔化そうと笑う。だいぶ引きつっていたが。
そして当然誤魔化せるはずもなく、マリーはズンズンという効果音が聞こえてくるような一歩一歩を踏み締めてリーネに近寄る。
「リーネ様ぁ……?今日はアンジェリカ様と会談でしょう?!もう勇者様は到着しておいでですよ!!」
「ひゃわっ!か、会談なんていってもどうせ決闘になるんでしょ!」
「だからこその近衛でしょう!早くお越し頂きなさいな!」
「ひぇえっ!……えっと、で、でもぉ……」
「でもも何もありません!近衛も今日までに見つけると仰いましたよね!?どこにいるのですか?!まさか…見つけてないなんて言いませんよねぇ……?」
雷のようなお叱りと、ホントに聖職者?と言いたくなるような眼光のマリーに、リーネは怯えたように固まってしまう。
ついでにリーネに抱えられていたムムも流れ弾をもらい固まる。
「……………」
視線の射線から外れていたルストは、決して悟られないように存在感を可能な限り消してひっそりと佇む。
聖女に対しても軽口を叩く彼も、マリーの気迫には同じようにはいかなかったらしい。あのおばちゃん怖ぁ。
追い詰められたリーネは泳ぐ視線が捉えたルストを見てハッとした。
「えっと、その……こ、この人っ!」
「はぁああ?!」
掴まれた袖にギョッとしたルストはすぐさま振り払おうとする。
話の内容は分からないまでも、嫌な予感しかしない。あとこのシスターの皮を被った悪鬼の視界に入るのが怖い。
「ご、ごめんねマリー!近衛を迎えに来てたのよ!だから、決して逃げて来てた訳じゃないのよ?」
「ふざけっ…」
「まぁ……!まぁまぁまぁ!」
だがそれは間に合わない。壮年の女性とは思えない速度で詰め寄るマリーにビクリと体を硬直させてしまったからだ。
それは嬉しそうな表情でルストとリーネに視線を交互に送るマリーは、なるほど聖職者らしい慈愛と年相応の柔らかさを兼ね備えている。
先程の光景が無ければこちらまでつられて笑顔になってしまいそうな微笑ましい表情だろう。
「ちょ、えっと……マリーさん?でしたっけ、これは…」
「リーネ様、ちゃんと見つけていたんですね!私ったら疑っちゃって……ごめんなさいねぇ」
誤解です。と言おうとしたルストの言葉は遮られた。言わせてくれなかった、とも言う。
「いやだからですね、これは…」
「それにあなたも!引き受けてありがとうございます。かわいらしいお子様までお連れしちゃって、素敵な殿方ですこと」
「えへへー」
「ムム、喜んでる場合じゃ…」
「本当なら歓迎のお食事でもご用意したいんですが、今はご容赦してくださいね?当然、リーネ様から聞いてるとは思いますが今は時間がありませんので、食事の代わりに会談の場でのお披露目という形で歓迎させてくださいな」
「いや…」
「リーネ様も仰ってくれれば良かったのに!こんなおばさんが走らずとも良かったではないですか」
当然、全く聞いてません。それすら言わせてもらえない。 良くない流れだ、と察したルストは無理やりでも割って入ろうと声を張り上げようとして、
「でしょっ?!私もやる時はやるんだから!」
「そうですよねぇ!さぁさぁ、もう会議も始まりますよ、急ぎましょ」
素早く話が終わった。
もはやマリーはリーネの嘘を見抜いた上であえて丸め込もうとしているのではないかとさえ思ってしまう。というか、そうとしか思えない。
勢いのままグイグイと両腕を引かれるルストの背中にムムが飛び乗り、肩をポン。
「……どんまいだよ、ルスト兄」
「…………はぁ」
ルストは重たい溜息を置き去りにしながら、聖女と付き人になされるがまま拐われていくのであった。
それから引き摺られるようにして運ばれた先は当然教会だ。まさに少し前にリーネとマリーが飛び出していった教会である。
帰ってきたリーネ達に親父やシスター達は安堵の表情で迎え入れた。
「さぁさぁ、急いで準備をしてくださいね」
「分かってるわよ……」
連れ戻された事で改めて逃走失敗を思い知らされたらしいリーネは、どこか不満そうにマリーは笑顔で急かす。
そしてリーネとルスト達をそれぞれ更衣室に押し込んだ。
「ふぅ……」
一仕事終えました、という表情で額をぬぐうマリーに、尊敬の視線が集まる。
ちなみに、自由奔放すぎる聖女のリーネを捕獲出来るのはマリーくらいのものだからだったりする。
そんなマリーに物陰から昏い視線を向ける者が居た。しかしそれは忙しなく準備に奔走する職員に紛れるように消えていった。
「ふーん」
「つい意地になってわざと焦らしてました」
「やっぱりか!このっ!」
「うわ危ねっ!この暴力聖女が!」
店主から放り出されたリーネと青年――ルスト。
人目につく大通りで取っ組み合う2人に周囲はなんだと視線を向けるが、片方がリーネだと気付くと「あぁなんだ」と視線を外して素通りしていく。
「誰が暴力聖女よ!」
「いや周りが見慣れた光景みたいな扱いされてる時点で反論出来ねぇだろ!てか拳何で出来てんの?!いってぇ!」
「もー!おちついてー!」
それに割って入ったのはムムだ。
小さな体を目一杯に広げるようにして2人を引き離そうとする姿に、通り過ぎていく住民達がほっこりとする。
それはリーネも同じだったようで、むぐっと口と拳を詰まらせた。
「う……そ、そうね。私ったらつい。ごめんねムムちゃん」
「ムムの言う通りだ、落ち着け暴力聖女」
「っ、こんのぉ…あんたが言うか……!」
「もールスト兄!そーゆーのゆっちゃダメ!」
「えー」
拳を握りしめるリーネと頬を膨らませるムムに睨まれたルストは、しかし面倒そうな表情を浮かべる。
その姿に「よっしゃしばこう」と心に決めて、ムムを避難させようと脇から手を入れて持ち上げるリーネ。
「あっ!やっと見つけましたよリーネ様!」
「うぇっ?!あっ、マリー?!」
そこに息を切らせたマリーが現れた。
柔和な微笑みと優雅な立ち振る舞いを常とする彼女は、しかしつい先程まで戦に出ていたような気迫と鋭い眼光でリーネを睨むようにして見据える。
「あ、あのねマリー、えっと……あ、あはは…」
言い訳を探すも見つからなかったらしいリーネは笑顔で誤魔化そうと笑う。だいぶ引きつっていたが。
そして当然誤魔化せるはずもなく、マリーはズンズンという効果音が聞こえてくるような一歩一歩を踏み締めてリーネに近寄る。
「リーネ様ぁ……?今日はアンジェリカ様と会談でしょう?!もう勇者様は到着しておいでですよ!!」
「ひゃわっ!か、会談なんていってもどうせ決闘になるんでしょ!」
「だからこその近衛でしょう!早くお越し頂きなさいな!」
「ひぇえっ!……えっと、で、でもぉ……」
「でもも何もありません!近衛も今日までに見つけると仰いましたよね!?どこにいるのですか?!まさか…見つけてないなんて言いませんよねぇ……?」
雷のようなお叱りと、ホントに聖職者?と言いたくなるような眼光のマリーに、リーネは怯えたように固まってしまう。
ついでにリーネに抱えられていたムムも流れ弾をもらい固まる。
「……………」
視線の射線から外れていたルストは、決して悟られないように存在感を可能な限り消してひっそりと佇む。
聖女に対しても軽口を叩く彼も、マリーの気迫には同じようにはいかなかったらしい。あのおばちゃん怖ぁ。
追い詰められたリーネは泳ぐ視線が捉えたルストを見てハッとした。
「えっと、その……こ、この人っ!」
「はぁああ?!」
掴まれた袖にギョッとしたルストはすぐさま振り払おうとする。
話の内容は分からないまでも、嫌な予感しかしない。あとこのシスターの皮を被った悪鬼の視界に入るのが怖い。
「ご、ごめんねマリー!近衛を迎えに来てたのよ!だから、決して逃げて来てた訳じゃないのよ?」
「ふざけっ…」
「まぁ……!まぁまぁまぁ!」
だがそれは間に合わない。壮年の女性とは思えない速度で詰め寄るマリーにビクリと体を硬直させてしまったからだ。
それは嬉しそうな表情でルストとリーネに視線を交互に送るマリーは、なるほど聖職者らしい慈愛と年相応の柔らかさを兼ね備えている。
先程の光景が無ければこちらまでつられて笑顔になってしまいそうな微笑ましい表情だろう。
「ちょ、えっと……マリーさん?でしたっけ、これは…」
「リーネ様、ちゃんと見つけていたんですね!私ったら疑っちゃって……ごめんなさいねぇ」
誤解です。と言おうとしたルストの言葉は遮られた。言わせてくれなかった、とも言う。
「いやだからですね、これは…」
「それにあなたも!引き受けてありがとうございます。かわいらしいお子様までお連れしちゃって、素敵な殿方ですこと」
「えへへー」
「ムム、喜んでる場合じゃ…」
「本当なら歓迎のお食事でもご用意したいんですが、今はご容赦してくださいね?当然、リーネ様から聞いてるとは思いますが今は時間がありませんので、食事の代わりに会談の場でのお披露目という形で歓迎させてくださいな」
「いや…」
「リーネ様も仰ってくれれば良かったのに!こんなおばさんが走らずとも良かったではないですか」
当然、全く聞いてません。それすら言わせてもらえない。 良くない流れだ、と察したルストは無理やりでも割って入ろうと声を張り上げようとして、
「でしょっ?!私もやる時はやるんだから!」
「そうですよねぇ!さぁさぁ、もう会議も始まりますよ、急ぎましょ」
素早く話が終わった。
もはやマリーはリーネの嘘を見抜いた上であえて丸め込もうとしているのではないかとさえ思ってしまう。というか、そうとしか思えない。
勢いのままグイグイと両腕を引かれるルストの背中にムムが飛び乗り、肩をポン。
「……どんまいだよ、ルスト兄」
「…………はぁ」
ルストは重たい溜息を置き去りにしながら、聖女と付き人になされるがまま拐われていくのであった。
それから引き摺られるようにして運ばれた先は当然教会だ。まさに少し前にリーネとマリーが飛び出していった教会である。
帰ってきたリーネ達に親父やシスター達は安堵の表情で迎え入れた。
「さぁさぁ、急いで準備をしてくださいね」
「分かってるわよ……」
連れ戻された事で改めて逃走失敗を思い知らされたらしいリーネは、どこか不満そうにマリーは笑顔で急かす。
そしてリーネとルスト達をそれぞれ更衣室に押し込んだ。
「ふぅ……」
一仕事終えました、という表情で額をぬぐうマリーに、尊敬の視線が集まる。
ちなみに、自由奔放すぎる聖女のリーネを捕獲出来るのはマリーくらいのものだからだったりする。
そんなマリーに物陰から昏い視線を向ける者が居た。しかしそれは忙しなく準備に奔走する職員に紛れるように消えていった。
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