聖女と最強の護衛、勇者に誘われて魔王討伐へ〜え?魔王もう倒したけど?〜

みどりぃ

1 プロローグ

 空は厚い雲に覆われ、大地は血と炎によって埋め尽くされる。
 まるで地獄絵図がこの世に顕現したようなその地にそびえ立つ巨大な建造物は、威圧感と不気味さを併せる迫力のある城。

 しかし城も今にも崩れ落ちそうな姿であり、その威容は感じられずどこか不気味な印象さえ与えられる。
 その城の頂上付近、一際広いフロアにて2人の男が対峙していた。

 1人は真紅の髪と瞳を持つ偉丈夫であり、乱れた呼吸を正そうと空気を忙しく入れ替えている口からは鋭い牙が覗いている。
 浅黒の肌を血で汚し、左眼は斬られたように裂けており開く様子はない。

 対するもう1人の青年は引き締まった体躯は五体満足ながらも、無傷の箇所が見当たらない程全身に裂傷や火傷を負っていた。
 銀の髪もべっとりと血で汚れており、土や血で汚れた顔から覗く紫の瞳も流しすぎた血のせいか焦点がずれかけている。

「ぬぅううあああっ!!」
「ぜぁあああああっ!!」

 そんな満身創痍の身体を裂帛の気合いと共に突き動かして両者は激突する。
 
 片や怖気が走るような魔力を振るう偉丈夫と、片や呆れる程に巨大な剣をまるで羽のように振り回す青年。 衝突の余波だけで城の壁は更に崩れ落ち床は割れるが、それに気を配る余裕がある者は今この場には居ない。

「っだりゃぁあ!」
「ぐぅううっ!」

 嵐の如き激突の末に、青年の持つ巨大な剣が偉丈夫の左腕を斬り飛ばした。
 
 激痛と片腕を失った事でバランスを崩した偉丈夫。それを好機と捉えた青年は残り僅かの体力を全て絞り出す。

「おォおああああっ!!」

 獣のような咆哮と共に、軋む腕を叱咤して巨大な剣を振るう。
 
 神速の如き剣速は、もはや青年の霞む視界では捉えられない。
 感覚だけ信じて振り回されるただ型も何もない我武者羅な剣撃は、しかしまるで嵐を恐縮したかのような凶悪な猛威となる。
 
「がぁあああっ!」

 その破壊の嵐に晒された男は全身を斬り刻まれ、ついに悲鳴をあげて崩れ落ちた。
 剣撃の余波により投げ出された身体を受け身もなく地面に叩きつけ、仰向けになったまま動く事すら出来ない。

「はぁっ!はぁっ、はぁっ」

 一方、文字通り渾身の攻撃を放った青年も限界をとうに超えた身体がついに悲鳴を上げた。
 剣を杖のようにして支えにしても立つ事すら叶わず、膝から崩れて蹲る。

「がはっ、ごほっ!……ま、まさか、我が負けるなど……」
「っ!……てめぇ、しぶてぇんだよ……」

 フロアに血の池を作りながら倒れる偉丈夫が血と共に言葉を漏らした。
 それに青年は舌打ちしながらトドメを刺さんと震えて言う事を聞かない身体を執念で動かす。
 
「ぐ、ぅう……!」

 引き摺るようにして青年は数歩の距離に何分もかけて進む。ぼやける視界は、バケツを返したような血に埋もれる偉丈夫を捉えた。

「ぐ……アルグランドの、亡霊め……!」

 呻く偉丈夫を、青年は狂気に染まった瞳で睨むように見下ろす。

「やっとだ……!これでやっと、全てが終わる…!」

 独り言のように呟く青年は、先程まで羽のように扱っていたとは思えない程重たそうに、巨大な剣を痙攣したように震える腕で持ち上げた。

 この一太刀をどれほど待ちわびたか。
 その想いに、口元が吊り上がる。

 それを右眼だけの真紅の瞳で見上げ、ひゅーひゅーとか細い呼吸と血を漏らしながら男は口を開く。
 その表情は死を受け入れているのか、恐怖に歪んだものでは無い。むしろ嘲笑のような、ともすれば余裕さえ感じる笑みを浮かべていた。

「なんという、貌よ……まさに亡霊、か……だが」
「遺言は、それでいいか……!」

 当然その表情は青年にとって快いものでは無い。苛立ちを覚え、吊り上がっていた頬を忌々しげに食いしばった。
 青年のその表情に偉丈夫は更に笑みを深めた。そして振り下ろさんと巨剣が迫る光景を、一切目を逸らす事なく見つめながら最期の言葉を吐き捨てる。

「貴様に、安らぎは無い……これから、恐怖に怯え、て、過ごすが良いわ……」
「…………死ね」

 待ちわびた一撃。怨敵を屠る一太刀。
 
 それを放った青年は、しかし晴れ晴れとした表情とは程遠い。
 それは、死の淵までまるで上を行かれたような言動に呑まれてか、それとも別の理由か。

 物言わぬ骸となった宿敵。それを見届けて役目を終えたとばかりに、手に持つ巨剣も砕け散っていく。
 長年相棒として闘いを共にした剣の破片が風に流されていく様を呆然と青年は眺めていた。

 空は厚い雲に覆われ、大地は血と炎によって埋め尽くされる。
 その地の中心で、宿願を果たした。そして、敵も武器も長年の宿願に懸けた執念さえも消え去った。
 
 全てを終えた。それは同時に、何も無くなってしまった。
 空っぽになった青年は、まるで糸の切れた操り人形のように蹲ったまま、呆然と動く事は無かった。

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