霧の異世界物語(ミスティアストーリー)

みうけん

第十話  準備完了

ハーナイル「まさか本当にウボーギルへの入り口が現れるとは。」
三人は少しの間沈黙した。シャウルが旅の前に感じていた情報の薄さへの不安は謎の深さへの不安に切り替わっていた。
しばらくするとマユイルが口を開いた。
マユイル「ではまずは食料と武器の準備を済ませましょう。」
シャウル「これは色々と謎が深いですね。」
三人が洞窟の入り口から離れると崩れた岩が時間を巻き戻したようにして元に戻った。
三人は再びジュコイルの中央の大きな建物の側面にあるドアの前に来た。ハーナイルがドアの魔術式を解除し、三人が建物の中に入るとシャウルが言った。
シャウル「私は少しやることがあるので私はこれで」
そう言うとシャウルはハーナイルとマユイルと一時離れ、エレベーターで四階に上がり泊まっていた部屋に追いてきたオーギル(風のマント:神器)とミトルス(弓矢:神器)と金貨の入った袋を持って建物を出た。シャウルはこれから食料を調達しなければならないのだ。
シャウルはそこら辺にいるジュコイルの住人に市場の場所を聞いた。ジュコイルの住人たちはみんながシャウルを怪しげににらみつけるような目で見ている。シャウルは少し気分が悪かったが。勇気を振り絞りジュコイルの住人に食料を買うことのできる場所を尋ねてみた。ジュコイルの住人は嫌な顔をしながら教えてくれた。どうやらシャウルがジュコイルに来た時に通った大通りは中央の建物を挟んで反対側にも続いていてそこで市場が開かれているそうだ。シャウルはジュコイルの住人にお礼をして中央の大通りを建物の方向へ歩いて行った。建物の横を通り過ぎて反対側に出ると通路の両脇にずらっと屋台が並んでいる。屋台と言っても、さすがジュコイルでの売り方は一風変わっており屋台はまず無人で、横長の台の上に紙などに包まれた食べ物がいくつも乗っており、台の中心には金色の皿が置かれている。
シャウルはとりあえず通路の左側の一番手前の屋台の前に立った。
台の前に立つと金色の皿がフワッと宙に浮いてシャウルの胸の高さでシャウルの手に届くくらいの位置に来た。シャウルはどういうシステムかわからないので他の買い物に来ているジュコイルの住人たちがどうやって買うのか観察した。
観察したところ、どうやらジュコイルの住人たちは金色の皿に通貨(お金)を入れているようだ。
試しにシャウルも金貨を一枚金の皿に入れてみた。すると金の皿がカランと音を立てて空気中で揺れると金の皿の上の金貨が消えた。次に紙に包まれた食べ物が二つ宙に浮いてシャウルの目の前でぷかぷか浮いた。
宙に浮いた食べ物を手でつかんでみると、取ることができた。
シャウルはなかなか面白い仕組みだなあと思いながらとりあえず食べられるものかどうか確かめるために二つある食べ物のうちの一つをその場で口に運んでみた。
どんな素材が使われているのかはわからないが食感は木の実をいくつも混ぜ合わせたようなものでちゃんと食べることができるものだという確認は取れた。シャウルはここで出発の時に食糧を入れるための袋を持ってくるのを忘れていたということに気づき、中央の建物にいるハーナイルに相談に行った。中央の建物の中に入るための側面のドアには魔術式のロックがかけられていて入れなかったのでドアをノックすると中からハーナイルが開けてくれた。
シャウル「ハーナイル、ジュコイルに約一か月分の食料を入れられる袋の様なものはありますか?」
ハーナイル「いちおうありますが、それが何でしょう?」
シャウル「この旅の間だけ貸していただけませんか?」
ハーナイル「もちろんいいですよ。」
そう言うとハーナイルは建物の中の正面のエレベーターで二階へ上がり、しばらくすると小さな袋を持って戻ってきた。
ハーナイル「どうぞ、こちらです。ただの袋に見えますが、縮小呪文をかけているので通常の袋の何十倍もの容量があります。あと、食料を入れるための袋ということでしたのでついでに食料を保存するための冷却魔法も付け足しておきました。」
シャウル「ありがとうございます。」
シャウルはジュコイルの人々は本当に気が利くと思いながらハーナイルからもらった袋を持って市場へ向かった。
シャウルは色々な食べ物を食べたいと思い、合計で十三個の屋台で買い物をし、持っている金貨をすべて使い果たして、買った食料はすべて袋に詰めた。
シャウルは食料の調達も終わり、ウボーギルの入り口も見つけ、あとはユミユル(巨犬)が回復すればやっと旅に出られると思いながらもう一度ハーナイルのいる中央の建物へ戻った。
中央の建物の側面のドアをノックするとハーナイルが中から開けてくれた。
シャウル「治療室に寝かせてあるユミユルの傷が完治すれば私は準備完了です。」
ハーナイル「もうすぐマユイルと私の準備も完了します。そろそろ出発しますか・・・」

ハーナイル「ウボーギル(地下世界)へ」

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