霧の異世界物語(ミスティアストーリー)

みうけん

第三話 雪山の怪物

マユイルは目の下にクマがあり、まだ魔力を回復しきっていないようだ。ハーナイルはマユイルの背中に手を当て、マユイルに魔力を送りながら歩いている。
シャウル「ハーナイル、ほかの魔術師たちは置いて行ってもよいのですか?」
ハーナイル「ええ。彼らには個々のタイミングで帰るように伝えてあります。」
ハーナイルはコスローを西側に出た。コスローの大森林を抜けると巨大な山の向こうに真っ白な霧の壁が見えた。
シャウルはハーナイルに提案をした。
シャウル「ハーナイル、私のユミユルにまたがり走った方が速いでしょう。」
ハーナイル「早いのにこしたことはありません。」
そう言うとマユイルとハーナイルはシャウルの後ろに乗り、シャウルが目を閉じ、ユミユルに手を当て、(走って)と念じると、とたんに前方から強烈な風が吹いたような感じがして、ユミユルが正面の巨大な山に向かって走り出した。
しばらく走り続けると巨大な山へ近ずいていった。山に近ずくにつれ、空が次第に黒い雲に覆われてきた。
シャウル「ハーナイル、あの山を越えるのは危険です。よけていきますか?」
ハーナイル「いいえ、あの山を越えなければジュコイルへは入れません。」
シャウル「分かりました。」
ユミユルはそのまま山へ入っていった。山のふもとには三から五メートルの低い木が並び、ユミユルが十分通れるくらいの感覚は開いている。山の中を進むにつれて気温が低くなっているように感じた。ユミユルの速度で山を登って行けばこれくらい急激に冷えるのは仕方がないとは思ったがシャウルはその考をすぐに改めることとなった。山の中腹を少し過ぎたところで地面に積もった雪を確認したのである。コスローの西側の標高は低く、この高さで雪が積もるはずもないのにこれはおかしい。
極寒の地に行く準備をしていない三人はさらに山を登るにつれ凍えて体力を消費して、心なしかユミユルの速度も落ちていった。ハーナイルは炎の魔法を使い三人を温めた。ハーナイルのおかげで三人とユミユルは少し楽になったがまだまだ頂上に行くにつれて寒さは増すままだった。
シャウル「ハーナイル、本当に頂上に行かなければっジュコイルへは入れないのですか?」
ハーナイル「ええ。その通りです。この極寒は避けては通れません頂上でこの寒さをもたらしている何者かを倒さなければなりません。」
そうしているうちに三人は山の頂上に出た。頂上の木はすでに寒さで根っこから倒れ切り、一面開けた白銀の世界のようになっていた。強烈な吹雪でよく見えないが奥に黒い影の様なものが動いているのが見える。シャウルは奥の黒い影がこの極寒の現況だろうと考え、オーギル(風のマント)の力で吹雪を吹き飛ばし、黒い影の姿を確認した。
黒い影はシャウルの三倍はある巨体で正八面体の青いラピスラズリの様な魔石の様なものを先端に取り付けた長い長い杖を持ち、その巨体に合った大きな山吹色のフード付きマントを羽織りマントの隙間からはあばら骨が出てやせ細った漆黒の肉体が見え、顔は大きな目はが黄色く光り、ヤギの様な大きく曲がった角に横に大きく避けた口を持つ化け物だった。
化け物「何者だ?我が吹雪を吹き消すとは。」
シャウル「この山を経由していくところがある。もし戦闘を避けられるならこのまま行かしてもらいたい。」
化け物は黄色い目を大きく開き睨みつけながら言った。
化け物「私はこう見えても慈悲深い。普通の人間なら通すところだろう。だがこんな雪山を超えていくところと言えば決まっている。お前たちがもしもジュコイルの魔術師であるならば我らが破壊神の敵となるだろう。残念だがお前たちはここで死ぬことになる。死ぬ前に名を名乗れ。」
シャウル「私の名前はシャウル。こちらがマユイルとハーナイルです。そちらは?」
化け物「我は名もなき怪物。しいて言うならば破壊神様の三人の側近の一人である腐敗の悪魔ガユーイル様の使いの者、幻の神都市ジュコイル探索の命を受けた者といったところだ。」
シャウル「いいでしょう。ジュコイルの探索とあらばこちらとしても戦わざるを得ません。」
そしてしばらくの沈黙が流れた。
白銀の世界にシャウルが先ほど吹き飛ばした吹雪が風に流され目の前にびゅっと吹いて視界が少し鈍った瞬間、化け物から強烈な冷気が発生し、地面から巨大な直方体の氷の柱が付き出てユミユルごとシャウル達を突き飛ばそうとした。ギリギリでユミユルがかわしたがその衝撃で三人はユミユルから振り落とされ、声を出す間もなくニ撃目の氷の柱が来た。即座にマユイルが前に出てコスロー防衛戦の時に見せた強烈な火炎放射をぶつけ、氷の柱を溶かして防いだ。蒸気が上がりこちらが見えなくなったであろうところで素早くシャウルがユミユルの方へ走り、怪物の左前に抜けていった。怪物はユミユルに乗って突進して来るシャウルに対して長い杖を一振りして自分の周りに複数のつららを発生させ、つららの先端をシャウルに向けてシャウルにぶつけてきた。シャウルは弓矢の威力の確認もかねてつららに向かって矢を連続で放ち、つららを壊しながら化け物の方へ向かっていった。シャウルが化け物までもう五メートルほどのところで
シャウルは強烈な冷気を感じ、とっさにユミユルを踏み台にコスローの木の枝に上る要領で高く飛んだ。次の瞬間、地面から巨大な氷の柱が付きだして、宙に飛んだシャウルの足元でギリギリ止まった。シャウルはチャンスと思い、さらに氷の柱を踏み台に高く飛びあがり、ちょうど怪物の高さに届くところまで飛び、強化された弓を空中で構え、にありったけの魔力を込めて巨大な矢を怪物の眉間に狙いを定め、打ち込んだ。

巨大な矢は音を置き去りにして怪物の眉間を貫通し、後頭部から出てなおも遠くへと飛んで行った。
後から眉間を貫いたグシャッという生々しい音と矢が空中を飛ぶヒューンという音が同時に来た。

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