霧の異世界物語(ミスティアストーリー)

みうけん

第九話  救済

メジクリアスが魔物たちの死体の山を見て怒りの叫びをあげた。メジクリアスのまとう熱気はすさまじくダラスで戦った時よりも力を増しているように感じた。
シャウルはメジクリアスを倒すことは考えずに、魔術師やゴーレムをすべて前に出し、敵の動きを待った。だが敵は圧倒的戦力差であるにもかかわらず、動かなかった。
シャウルは彼らは夜を待っているのでは?と考え、一度魔物の数人が抜け駆けしてコスローに近ずいていないか魔術師の一人に確認させに行かせようかと思ったが、軍勢の先頭でずっと座っていたメジクリアスが立ち上がり、言った。
メジクリアス「あの木の人形は目障りですねえ。コスローを燃やす前に肩慣らししておきましょうか。」
そう言うと鎌の一本を持ち、鎌に魔力を込めて横向きに一振りすると、鎌から炎が発生し、瞬きする間もなく木のゴーレムに炎が届きシャウルの目の前に大きな炎が起こった。シャウルは声も出なかった。とんでもない熱気で顔をあぶられる気分なのだ。数十秒にわたり炎が上がりすべてを燃やし尽くすとシャウルの目の前は案の定というべきか、ただの灰のようになっていた。
シャウルは絶望した。勝てるはずもないような強敵を前に、四つ目の軍勢を倒しても明日の夜まで耐え忍べる気がしないのだ。とりあえず少し危険ではあるが、いったんコスローの近くまで下がれば木々の加護でシャウルは戦いやすくなり、少しは不利を緩和することもできるがその間にメジクリアスがコスローに到達するとそれでこの戦いは負けになる。そんなことを考えている間に夜が訪れ、メジクリアスが大きな声で叫んだ。
メジクリアス「我が配下たちよ、ファボール様復活の祝いにコスローにとどめを刺しなさい。」
メジクリアスがそう言うと四つ目の軍勢が川を渡ってきた。ゴーレムの壁はなく、また暗闇で目が慣れるまで昇順も定まらない。シャウルがもう負けかと思った時に川の前の一帯がピカッと明かりがついたように照らされた。シャウルがあたりを見渡すとシャウルから見て右斜め後ろに光りの集まりの様なものが見える。よく見るとそれは五十人ほどの人の集まりの様だ。おそらくオウルの魔術師ではないだろうとシャウルは思った。
メジクリアス「やめー」
シャウルはメジクリアスの号令と言い状況が分からなかった。すべてはこのタイミングであの光を放つ五十人の人間が現れたところからだろう。
人間たちはゆっくりシャウル達の方へ歩いてきた。メジクリアスはじっと何もせず見ている。川を渡りかけていた魔物たちはいったん川の向こうまで引いていった。
人間たちは全員白い服を着て個別の形をした長い杖を持っている。
するとマユイルが言った。
マユイル「何故あなた達がここに?」
シャウル「マユイル、あの方々は誰です?」
マユイル「私の住んでいるジュコイルの街の魔術師達です。今回の戦いでは呼んでいませんでしたが、なぜここにいるのかはわかりません。」
ジュコイルの魔術師の一人が話した。その魔術師はマユイルにとても良く似た見た目をしているが、マユイルよりも一回り大きく、長い金色の髪の毛に頭にはティアラの様な金色ベースに緑の飾りのついた冠をかぶっている。
ジュコイルの魔術師の一人「今までよく頑張ってくれましたねマユイル。コスローが落ちる前に駆けつけられてよかったです。」
マユイル「ありがとうございます我が母ハーナイル。しかしなぜあなたがここに?」
ハーナイル「我々はあなたをダラスの調査に行った後、帰りが遅れるという連絡を聴き、ダラスで何かが起こっていると思い、調査を送ったところコスローの方向へ行進する何万もの魔物の軍勢を見かけたとのことだったので急遽駆け付けたのです。」
メジクリアス「このタイミングでジュコイルの魔術師が来たということは形勢は逆転したとみるべきですかねえ。しかしあきらめるわけにはいきません。お前たちよ、あの魔術師たちを倒せー」
そう言うと再び魔物たちが川を渡り、迫ってきた。
四つ目の軍の魔物たちは今までの魔物の比にならないほど強く灰色の犬の様な魔物は兵士の様な戦いぶりで剣を振りながら同時に魔術も行使し、戦ってくる。ガーゴイルの様な魔物は空を飛び空中から鋭い妻で襲ってくるがジュコイルの住人たちはそれ以上に強く、シャウルが苦戦する相手を次々と呪文で打ち倒していく。ジュコイルの住人の中には呪文だけでなく杖を武器にした近接戦闘をする者もいて、川を渡ってきた魔物たちをすでに一人四十人、合計で二百人は倒した。
メジクリアス「やめー」
メジクリアス「ここで我が貴重な戦力を割くわけにはいきませんねえ。どうやらここは引く以外ないようです。」
そう言うとメジクリアスは魔物たちを引かせ、ダラスの方向へ退いて行った。

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