ID-2040

ジェダ

第1話 第3市民の少年

2040年、ジャパン地区。

OSAKA地区の郊外にある第3市民居住区、トンダバヤシ。

下層民である第3市民は都市部から離れた専用の居住区に住む事を義務づけられ、第1、第2市民の住む都市部への移動や地区を跨ぐ移動も許されない。

移動だけでなく教育や娯楽や職業にも制限があり、感染予防の名目でマスク着用が義務づけられている。

第3市民から上の階級に上がるのは特別な理由が無い限り困難であり、彼らはこの階級のまま生涯を終える事になる。



居住区にある第三高校に通う少年、シオン・アカツキ。

彼は今日も真面目に黙々と授業を受けている。

成績は優秀でも友達はあまり作らず、学校と自宅を往復するだけ毎日。

「ただいま。」

家に帰ってもやる事は勉強だけだ。

家には両親はいない。

いつ別れたのか、それとも死んだのか、覚えていない。

新型ウイルス感染を恐れて誰も身元引受人もいない為、仕方なく独り暮らししている。

でもそんな彼でも唯一の楽しみはある。

それはVRゲームである。

シオンはヘッドギアを装着し、仮想空間内にログインする。

彼が今ハマっているのはロボット同士で戦うオンライン対戦ゲーム「ゴーレムバーサス」だ。

シオンはこのゲームが合っているらしく、すでに最高ランクのプラチナまで上がっている。

今日も対戦では連勝だった。フレンドが優秀だったのもあるが、やっぱりシオンも強かったのだ。

フレンドに最低限の挨拶だけして対戦を終えると、フレンド申請が来ていた。

申請したのはairiという女の子のアバターのプレイヤーだった。

「はじめまして、試合見てました!良かったら一緒にチーム組みませんか?」

シオンは簡潔に「いいですよ。」と答えた。

airiは自分のチームの仲間も呼び、試合の準備が終わる。

対戦相手のマッチングも完了し、ついに試合が始まる。

シオンは使う機体は世界大戦から実用化された汎用人型兵器、タクティカルゴーレム(TG)に似た機体を使用している。

中距離用のマシンガンにバズーカ、そして接近戦用のビームソードを装備したバランス重視だ。

試合が開始されると、シオン機だけが圧倒的な強さを発揮した。

結局シオン達のチームが圧勝し終了した。

airiは「ありがとうございました!また一緒にやりましょう!」と言って別れた。

今日のゲームも楽しかった。仮想空間内でなら階級も関係なく繋がれるのだ。



ゲームを終えて、勉強もしたら後は寝て明日に備えるだけだ。

しかし、最近は変な夢を見るから気になって眠れない。

小さい頃、両親と過ごした夢だろうか。なぜ引き離されてこんな所で過ごしているのか。おぼろ気で何も思い出せない。

「・・・学校、行かなきゃ。」

今日は少し寝すぎたようだ。急いで朝ご飯を作って食べて、マスク装着も忘れずに家を出る。

「行ってきます。」

一人暮らしだが、これと帰った時の「だだいま」は言わずにはいられなかった。習慣になっている。

いつものように学校に行き、そして帰宅する。

しかし帰宅の時、彼の運命が動きはじめる。

シオンは帰りにお菓子でも買おう、コンビニに向かった。

今日は何故か甘い物が食べたい気分だった。

たまにはちょっと遠出も悪くない。

彼はコンビニに向かって行ったその時だった。

急に街中にサイレンが鳴りはじめた。

居住区に緊急事態があった時に鳴るものだ。

最近は多くなっている。


『居住区周辺に不法感染者が集まっています。治安警察が鎮圧に向かいますので住民の皆さんは速やかに家にいてください。ステイホームをお願いします。』

居住区に避難命令が出た。

シオンも急いで戻ろうとすると、もの凄い数の車両らしきものが近づいて来る。

それは治安警察が使う無人制御型の車両型戦闘ポッドだ。

ものすごい速度で走って来る戦闘ポッドを避けようとシオンはすぐにその場を離れようとする。

しかし、通り過ぎた風圧でシオンは吹っ飛ばされてその場で転んでしまった。

「うっ、乱暴な運転だな・・・。」

怪我は擦りむいたぐらいだが着けていたマスクが取れてしまった。

だが、そのマスクが取れただけが命取りだった。

戦闘ポッドがシオンに反応して接近してきたのだ。

「え、ウソでしょ・・・?」

シオンは慌てて逃げようとしたが、もう遅かった。

戦闘ポッドはシオンに銃口を向けた。

僕、このまま死ぬのかな・・・?

シオンは恐怖で身体が動かなくなった。




「まさか、もう治安警察が来るとは・・・!」

白い仮面を被った男(?)はタクティカルゴーレム(TG)1体を乗せた輸送トレーラーの窓から呟いた。

治安警察の戦闘ポッドの群れが次々とやって来る。

「白騎士、どうするんですか?このまま直進しますか?」

トレーラーを運転している女性が指示を待っている。

「・・・いや、一旦戻りましょう。いくら指揮はあの人に任せてるとはいえ、数が多すぎる。」

「いいんですか?あの機体を持って帰るのは・・・!」

「今は緊急事態です、戦力は多い方がいい。」

「わかりました。」

女性運転士が進路を変えようとすると、1人の少年が戦闘ポッドに追われているようだった。

「あれは、民間人!?」

白騎士と呼ばれた人物はすぐにトレーラーから降りる。

「白騎士!?まさか?」

「あの人を助けます、その場で待機を!」

「了解です、無茶だけはしないように!」

白騎士は少年に接近しようとしている戦闘ポッドに向かって走りだした。




戦闘ポッドに機関砲を向けられて、シオンは初めて死を覚悟した。

このまま生きてても、希望も何もない。

第3市民になった時点で、人間らしい権利は失われ、大学進学もできず、職業も制限され将来を考える事も出来ない。

上級国民からは危険なウイルス感染者として見られ、差別される。

もう、このまま死んじゃってもいいか。

人生を諦めかけたその時だった。

戦闘ポッドに弾丸が2発撃ち込まれ、爆発した。

シオンが後ろを振り向くと、大型の拳銃を構えた白い騎士のようなヘルメットを被って顔の見えない男(?)が立っていた。

「君、大丈夫?立てる?」

「う、うん・・・。」

「マスクを着けなさい、早く!」

「わ、わかった。」

シオンが落ちたマスクを拾おうとすると、もう1台の戦闘ポッドがまた接近して来る。

白騎士(?)は弾丸を装填し、大型拳銃を構える。

接近した戦闘ポッドに再び弾丸を2発撃ち込み、破壊した。

シオンが再びマスクを付けると、戦闘ポッドは二人を狙わなくなった。

「あのマシンはノーマスクの人を攻撃目標にしている。今のうちに付いて来て。」

「・・・うん。」

シオンは白騎士に言われるままに付いて行くと、そこには大型のトレーラーが停まっていた。

後部には人型兵器、タクティカルゴーレムが載っている。見た事のない機体だ。地球議会軍や治安警察が使っているものではない。

「早く乗って、この場を離れるから。」

「・・・わかった。」

TGに見とれてる場合じゃない。二人はトレーラーに乗り込み、この場を離れた。




何とかこの場は逃れたシオンだった。だが、これからどうするんだろう?白仮面はどこに向かうんだろう?

白騎士は後部座席に座っているシオンに振り向く。

「もうマスクは外しても大丈夫、ここなら狙われる心配はない。」

「うん。」

ようやくマスクから解放された。

そういえば白騎士にお礼を言っていない。誰なのかわからないけど。

「・・・ありがとう、助かった。」

もう死んでもいいと思ってたのに、今は助かってほっとしている。

「当たり前の事をしただけだから気にしないで。今は無理だけど戦闘が終わったら家まで送ってあげるから今はここに避難してて。」

「わかった。」

戦闘って、白騎士は治安警察を相手に戦っているのか。

いや、治安警察だけじゃない、地球議会政府や人類を支配している高性能人工知能「ジェネシス」に逆らうなんてできるのだろうか?

普通に考えたら無理に決まっている。

「私はこれから[白雷]で出る。あなたはあの人の指示に従って避難してて。」

白騎士は席を立とうとすると、女性運転士が止める。

「いけません!今度こそあなたの身に何かあったら組織が崩壊してしまいます・・・!」

「確かにそうだけど、今回は敵の数が多すぎる・・・。」

この白騎士が組織のリーダーなのか。

確かにリーダーがうかつに前に出るべきではない。

白騎士はこの人工知能に支配され、腐ったこの世界を変えるつもりなのか?

僕に出来る事なんてあるだろうか。

出来る事といえばロボットの操縦・・・。

そうか、ゲームでも出来るならTGの操縦も出来るかもしれない。

ついにシオンが声を上げる。

「・・・僕がやる。」

「え?」

「僕があれを動かすって、言っている・・・!」

白騎士も女性運転士も手を上げたシオンを見る。

「無理だ!あれは誰でも乗りこなせるような機体じゃない・・・!」

「出来るかもしれない。僕は[ゴーレムバーサス]でもプラチナランクだから。」

あのゲームはコックピットや操縦方法もリアルに再現されている。やる価値はあるかもしれない。


「・・・わかった、君にまかせる。付いてきて!」

白騎士はシオンを機体の前に連れて行く。

[白雷]と呼ばれる機体の前に立つと、白仮面はコックピットハッチを開く。

「これに乗って。戦闘は味方機がすでに交戦しているから無理せず援護射撃するだけでいいから。」

「わかった・・・。」

シオンはコックピットに乗り込む。思った通りだ、仮想空間で見たのとほぼ同じ作りだ。

「君の名前は?」

「・・・シオン、シオン・アカツキ。」

「シオン、無理せず絶対に生きて帰って来て。私達の指示には従う事。わかった?」

「うん、約束する。」

シオンはコックピットのハッチを閉め、システムを起動させる。

レーダーを見ると、味方の3機が戦闘ポッドの大群と戦闘状態になっていた。

白騎士からすぐに味方機と合流するようにと指示を受ける。

「それじゃ行くよ・・・!」

シオンが駆る[白雷]はブースターを噴かせ、全速力で戦場に向かった。



第2話へ続く。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品