サムライだけど淫魔なので無双します ~淫魔王の血を引く少年は、剣と淫力で美少女達を屈服させる~

夕凪カサネ

第14話 竜人の少女ニーザ

守備隊の追っ手から何とか逃れたスリードだったが、知らず知らずのうちに、混沌の精霊の力を使い過ぎてしまっていたようだ。

一度、膝から崩れ落ち、前のめりに倒れてしまった。

「も、もう、歩けない……」

何とか起き上がったものの、あっちの木へフラフラ、こっちの木へフラフラ、と歩いていき、ついには耐え切れず、眠るように倒れ伏した。

(このまま寝たら、すぐに追っ手に見付かっちゃう……捕まったら……)

捕まったら、もう二度と師匠を追うことは出来なくなる。それだけは避けたかったが、もはや体が言うことを聞かなくなっていた。

(師匠……僕は、師匠と、もう一度……)

スリードの意識は、闇の彼方へと消えていった。


※ ※ ※


「……」

ガタガタと地面が揺れている。

「……ん」

スリードは眼を覚まし、体を起こした。誰がかけたのか、体に毛布が被せてある。

「ここは……?」

一目で、馬車の中だと判った。外は暗い。もうすでに夜になっている。しかも、砂漠を走っている。いつの間に、こんな所まで来ていたのか……。

内部に座席は無く、客乗せ用の馬車ではなく、荷物運搬用の馬車だと思われる。ここは幌を被せた荷台の中だ。

そして、スリード以外にも、四人同乗している。

「えっ、嘘――」

驚いた。オリガを始めとする自警団の三人娘と、お騒がせ女シーフのアルマも、一緒に乗っているからだ。

「僕のことを、追ってきたの?」

スリードは、淫魔王の末裔だということだ。記憶が無いから本当かどうかはわからないが、少なくとも他のみんなはそういうことで認識している。手配書には賞金も書かれていた。オリガ達は、そんな自分のことを捕らえて、どこかへ護送している最中なのかもしれない。

スリードの問いに対して、オリガが答えた。

「まあ、追ってきたと言えば、追ってきたことになるわね。でも、あなたに危害を加えるつもりはないわ」
「?」
「私達は、私達なりの都合があって、あなたと行動を共にする、と決めたの。ま、言っても理解出来ないでしょうけど……こう見えても、それなりにプライドがあるからね。このまま奴らに負けたまま、泣き寝入りだけはご免だわ」
「いや、いやいやいや」

オリガ達は、リベンジを果たそうというのか。それは無茶にもほどがある。自警団団長のオリガや、剣士であるソフィアはまだしも、もう一人のイリーナはいかにも非戦闘員だ。今なんて、これまでは無かった眼鏡をかけて、本を読んでいる。眼鏡のことをスリードが尋ねると、巡邏中等の戦闘の可能性がある時はかけていないが、普段は眼鏡をかけることが多い、とのことだった。

「だいたい、君は何でついてきてるの⁉ 特にあいつらと因縁も何もないでしょ!」

馬車の後方に顔を向け、流れゆく景色を眺めていたアルマは、スリードのほうを向くと、ニッと笑って、指でコインのマークを作った。

「これのため」
「お、お金?」
「そ。あなたが賞金首だって知っちゃったからね。しかも一生遊んで暮らせるだけの大金がかかってる。これを逃すチャンスは無いよ」
「じゃあ、なんで、僕が眠っている間に、捕まえなかったの?」
「後でわかると思うけど、状況が、そうさせてくれなくて。それに、こんなところで捕まえても守備隊とかに手柄を横取りされて終わりだよ。だったら、あなたの旅に着いていって、誰かに負けてリタイアしたところですかさず身柄を確保するほうが、よほど効率いいと思わない?」

何だか頭が痛い。この脳天気な人達は、事態の深刻さを理解しているのだろうか?

「アルマちゃん。悪いけど、私達がそれはさせないわ」
「出来るかな。だって、その場合、スリードが倒されるほどの相手だよ? オリガ達だと太刀打ち出来ないでしょ」
「もしかして、私達が敵と戦っている間に、スリード君をさらっていくつもりなの?」
「当たり」
「前々からセコいセコいとは思っていたけど、ここまで来ると立派なもんね」

オリガは皮肉混じりに言った。

「あのね、みんな好き勝手に言ってるけどね、状況はかなり危ないんだよ」

もしも本当にスリードが淫魔王マディアスの血を継いだ存在なのだとしたら、自ずと、アズラックで会敵した少女達、そして彼女らを束ねているというトリックスターの目的も想像がつく。

敵は、スリードを狙っている。その理由は推測でしかないが、淫魔王復活計画と関係があるのは間違いなさそうだ。

オリガは肩をすくめた。

「言われなくてもわかってるわよ。でもね、実はもう一つ事情があるわけ。それは私達も、アルマちゃんも、同じ理由」
「どういうこと?」
「先に私達があなたを発見して、とりあえずどこか安全なところに運ぼうとしたんだけど、周囲をアズラックの守備隊に囲まれちゃって。どうしよう、と困っていたら、この馬車が現れて、助けてくれたわけ」
「これは知り合いの馬車とか?」
「ううん。初めて会う人」
「その人は、今どこに?」

荷台にはいない。

「幌の上よ」

ジャミが上を指した。

「ありがとう」

スリードは頭を下げ、荷台の後部へと寄った。

ふと、横から視線を感じ、スリードはそちらのほうを向いた。

「……」

アルマがこちらを見つめている。

(えっ――?)

それは、さっきまでの印象とはまるで正反対の、憂いと切なさを帯びた眼だった。眉を哀しく垂らし、アルマは目と目が合っても、反らそうとしない。

スリードはなぜか胸が締め付けられるような感覚をおぼえた。

(何で、こんな目を……)

アルマの視線を振り払うように、スリードは顔を背け、幌を支えている柱に手をかけ、上へと登った。

月が静かに砂漠を見守る中、馬車は進んでいる。

幌の上には、一人の女の子が仰向けに寝ている。

透き通るほどに白い肌。クリーム色の服を着ている。胸部は革の鎧で覆い、腹部は肌を露出しており、腰から下は、前後に布を垂らしているだけで、太ももが半分以上剥き出しになっている。片膝を立てて寝ているから、余計に露わになった太ももが強調され、肌の白さもあり、幻想的な美しさと艶めかしさがあった。

(エルフ?)

耳の形が人間と違う。ただ、エルフの耳でもない。形はエルフのそれと似ているが、爬虫類系の、硬質な感じに尖った耳だ。

「あの……」

声をかけると、女の子は体を起こした。スリードに背を向ける形になったので、あぐらをかいたまま、クルリと一回転し、後ろを振り向く。

(わ、可愛い子)

蝋のように白い肌と、穏やかなエメラルド色の瞳。この子は、下にいる女性達とはまた違って、幼さを感じさせる、天真爛漫さに溢れた可愛さがある。黄色いボブカットヘアが、馬車の揺れに合わせてサラサラと揺れた。

「やっほ」

少女は手を上げて挨拶してきた。

「お兄さん、何でこんな馬車に乗せられているのか、わからないでしょ?」
「どういう状況だったのかは聞いたけど、君が何者かは、全然知らない」
「じゃあ、教えてあげる」

ニッと笑い、少女は説明を始めた。

「ボクはニーザ。さっきから、お兄さん、って言ってるのは、名前知らないからじゃないよ。だから、お兄さんの自己紹介は要らないからね。スリードさんでしょ?」
「うん」
「でね、ボクはヴェストリア帝国と砂漠の間にある、ダマヴァント山脈の、ナジュラ族なわけ」
「ナジュラ族って、あの竜人の⁉」
「そっ」

ナジュラ族は、ダマヴァント山脈に住んでいる先住民である。ドラゴンと人間の混血種であり、古くから「竜人」と呼ばれて、近隣の村々から尊崇されてきた。

だが、何百年も昔、山脈より西の草原地帯を開発した人間達が、ヴェストリアという帝国を建国した。帝国は周辺諸国に対して苛烈な侵略を進め、当然、ナジュラ族もまたその侵攻の対象とされた。

以来、現在に至るまで、ヴェストリア帝国とナジュラ族は常に小競り合いを続けている。それゆえに、ナジュラ族は、今ではヴェストリア人からは「蛮族」と呼ばれて蔑まれている。

「で、その竜人が、何で僕を助けたわけ?」
「ふふ、聞いたらビックリしちゃうよ」
「ビックリするの?」
「うん。だって、占いで決まった通りにアズラックに行ったら、お兄さんがいたんだもん」
「う、占い!?」
「そう! 今、ナジュラ族は滅亡の危機に瀕しているから、どこかに誰か助けてくれる人はいないか、村のオババ様が占ってくれたの。そうしたら『東にあるアズラックという町に行け』『そこにある手配書の男を探せ』『特に森の中を探せ』『その男こそが救世主じゃ!』って言うの。で、実際に行ってみたら、全部オババ様の言う通りになったわけ」
「いや、待って、頭が追いつかない」
「こうして、栄えあるナジュラの救世主に、お兄さんが選ばれましたー!!」
「だから待ってって!」

スリードは何だか頭痛をおぼえて、頭を押さえた。

「あのさ、一つ言っていい? そこで僕の人権は無視されるわけ? 誰も助けるなんて言ってないのに。ナジュラの救世主? いきなりそんなこと言われても、荷が重すぎるよ」
「えっ、じゃあ、お兄さんどうするの? あんな手配書も出回ってて、どんどんお兄さんの名前は有名になってきてるよ。ボク達の村に来たほうが安全だよ」
「知らなかったんだよ。あんな手配書があるなんて。知っていたらアズラックの守備隊になんて入らなかったさ」
「へえ、そうなんだ。お兄さんがアズラックにやって来た頃は、まだ手配書が無かったわけ?」
「町の色んなところを歩いたけど、見かけた記憶は無い。もしもあんなものが貼られていたら、すぐに気が付くよ」
「だとしたら、最近、手配書が回り始めたのかな?」
「さあ……何が何だか、さっぱりだよ」

スリードは頭を抱える。正直、14歳より以前、貴族の奴隷となる前の記憶が無いから、自分のことに関して、何が本当で、何が嘘なのか、判別することすら出来ない。

おまけに、唯一頼りとしていた師匠の蒼麟が、なぜか自分から離れていってしまった。こうなると、どこに寄る辺を求めればいいのか、わからない。このニーザという少女を信じて、ナジュラ族の村へ行っていいのかも判断しかねる。

そうやって悩み苦しんでいるスリードを、ニーザはちょっと心配そうに見つめていたが、やがてその両目がキュピーンと光った。

「ボク、名案思いついちゃった」
「どんな案?」
「やっぱりお兄さんはボク達の村へ来るべきだよ」
「君らが信用できる人達か、わからない」
「いいよ、別に信用してくれなくても。ただ、ボク達のところへ来るメリットは、ちゃんとあるよ」
「どういうこと?」
「今、ボク達ナジュラ族は、ヴェストリア帝国と戦争状態になってるの」
「帝国と⁉ それって、かなりまずいでしょ!」
「うん。だから滅亡の危機なわけ。地の利で何とかなってるけど、兵士の数とか、火力とか、あっちのほうが圧倒的に上だから。でもまあ、それは置いといて、大事なのは、ボク達の村が対ヴェストリアの最前線、ってところ」
「つまり?」
「手配書の発行元は、ヴェストリアになってるよね」

ニーザは懐から手配書を出してきて、スリードに渡した。

確かに、手配書の発行元も、賞金の提供元も、ヴェストリア帝国として記載されている。

「アウスティアって王国が滅びた原因を、ヴェストリア帝国が調査して、それでその王国の第一王子だったとかいう僕に行き着いたらしいんだけど……本当なのかどうか。何かの罠かもしれない」
「だーかーらー、お兄さんってば。本当か嘘かは関係ないって。その手配書を出してるのがヴェストリア帝国なのは確かでしょ」
「うん」
「だったら『やめろ!』って怒りに行けばいいじゃん」
「どこに?」
「ヴェストリアに」
「直接⁉」
「そ、直接」

そこでニーザは満面に笑みを浮かべた。

「ついでにボク達の村への侵略もやめさせてくれたら、一石二鳥でしょ♪」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品