サムライだけど淫魔なので無双します ~淫魔王の血を引く少年は、剣と淫力で美少女達を屈服させる~

夕凪カサネ

第2話 自警団の三人娘

あの子、可愛い子だったな、とスリードはアルマのことを回想していた。

動くたびに頭の後ろのツインテールがポンポン跳びはね、一動作一動作が可愛らしい女の子だった。

「あなた、旅の人?」

不意にセリナに話しかけられ、スリードはカウンターの方を振り返った。気が付けば、アルマの去った方向を、ずっと向いていた。その様子を見て、セリナは微笑した。

「ふふ、アルマちゃんがそんなに気に入った?」
「可愛らしい子でしたね」
「とってもいい子よ。でも、油断していると、色々とられちゃうかも。なにせ、あの子はシーフだから」
「あはは、それじゃあ気をつけないとですね」

と、勢いよく、酒場の扉が開かれた。

スリードが後ろを向くと、三人の女性がお喋りをしながら入ってきて、丸テーブルの席に座るところだった。

色気のある大人びた女性と、紫髪の剣士風の女性、賢そうな顔をした茶髪の女性。

三人の女性達は、他愛もないことを話している。よく聞くと、「さっき通りで見た女の子は抱きたいくらい可愛かった」だの、「この間三人でやったプレイは気持ちよかった」だの、真っ昼間からエロ話に花を咲かせている。

(関わらない方が良さそうだな)

どうやらあの三人は、同性の方に興味があるらしい。男性の自分はターゲット外かもしれないが、女性的な外見をしていることから、狙われる可能性はある。用心するに越したことはない。

(それにしても)

スリードは店内を見回した。

(遅いな)

人と会うために、スリードはこの店に来ている。

彼はアズラックの守備隊に属する、傭兵の一人である。アズラックでは、東西南北で守備隊が四つに分かれており、スリードはその中でも東を担当している。

スリードは、ある人を探してこの町にやってきた。

だから、守備隊に入りたくて入ったわけではないが、アズラックに着いて早々、人助けのために大立ち回りをしてしまい、それがきっかけでスカウトされてしまったのだ。

まだ十日しか所属していないため、周りはまだスリードを新入り扱いしている。ただ、居心地は悪くなかった。それに、滞在費の問題もあったので、給料を日払いでもらえるのはありがたい。

こうして、しばらくアズラックで仕事をしながら、情報収集をしていた彼だが、昨日、東の国からやって来た男に、気になる情報を聞かされた。

『もうすぐ、このアズラックに、私の国から派遣された忍者部隊がやって来るらしい。明日にでも到着するだろう』

その忍者部隊の任務は、

『どうやら、はぐれサムライの蒼麟を抹殺するそうだ』

とのことであった。

蒼麟はスリードにサムライの技を教えた師匠だ。

そして、いままさにスリードが行方を追っている人でもある。

蒼麟は、ある日突然いなくなってしまった。理由も何も告げず、本当に急に姿を消したのだ。ショックを受けたスリードは、しばらくの間途方に暮れていたが、やがてその後を追うことを決意した。

で、紆余曲折の末、ここアズラックでようやく蒼麟の影を捉えることが出来たのである。

師匠がここアズラックにいる――その情報の真偽を確かめるため、スリードは情報屋に当たった。情報屋の男は、「今日一日あれば、明日の朝一番には、情報を渡してやる」と言った。

そうして、情報屋が指定してきた情報の受け渡し場所が、この酒場だったわけだ。

「ねえ、一人?」

不意に、丸テーブルで飲んでいた銀髪の女が、声をかけてきた。三人組の中でも、特に色っぽい女だ。

(女王様系……?)

腰には鞭を巻き、太ももを露出させた黒いレオタードの上に、レザージャケットを着ている。艶めかしい瞳に見つめられ、スリードは思わず目をそらした。

「一人で飲んでもつまらないでしょう?一緒に飲まない?」

嫌です、とは言えなかった。かなり強引に腕を引っ張られ、スリードは丸テーブルの方へと連れていかれた。

「はい、連れてきたわよ」
「オリガ様、ありがとうございます」

紫色の長髪をした女が、深々と頭を下げる。体にフィットした薄紫のボディースーツに、肩鎧。鎧の下から覗いている上腕部は、ボディースーツの上からでも、筋肉質であることが判る。

オリガと呼ばれた、妖艶な女とは対照的に、シャープで意志の強さを感じさせる女性だ。明らかに、生粋の戦士である。

「こいつがね、君に興味あるんだって」

残る一人、茶髪の女の子の言葉に合わせて、戦士風の女はうなずいた。

「この大陸には珍しい、サムライだからね。是非とも話がしたいわ」
「はあ」

オリガが、スリードの肩を叩いた。

「席に座って。お酒は駄目なの?」
「飲めないわけじゃないけど」
「あら、じゃあ、一杯ぐらい付き合ってちょうだい」

オリガはワインをグラスに注いで、スリードの目の前に置いた。

「さて、と」

スリードが席に座ると同時に、紫髪の女戦士が、自己紹介を始めた。

「私はソフィア。元々は盗賊稼業をやっていたんだけれど、今では自警活動をしているの。あなたは、東の守備隊の傭兵、スリードでしょう?」
「あっ、知っているんだ」
「有名だから。サムライが東の守備隊にいる、って。そうそう、こっちが私の主人のオリガ様で、こっちは私と同じオリガ様の部下、イリーナ」
「よろしく」

茶髪の女の子は、軽く挨拶をした。どこか、知的な雰囲気がある。

「名前を聞いて思い出しました。僕もあなた達の噂を聞いたことがありますよ」
「あら、嬉しいわ」

オリガが手を叩いた。

「まあ、当然の話だけど」

ソフィアがそう言ったのも無理はない。

彼女達は町の自警団を率いている。守備隊とはまた違った形で、町を守っているのだが、なかなかの成果を上げていると聞いている。上下関係等からどうしても行動に自由がきかない守備隊よりも、自由自在に動き回れる彼女達の方が、スピーディに問題解決をしやすい。そのため、アズラックの町では、守備隊以上に人気を誇る三人娘だと聞いている。

スリードは伝聞だけで、本人達を見るのはこれが初めてであった。

(話で聞くよりも、随分と美人だなぁ)

それに、三人とも、抜群のプロポーションをしている。オリガはレオタード、ソフィアは体のラインがそのまま出るボディスーツ、イリーナは胸の谷間が露わになっているシャツと、性的魅力に溢れた格好をしている。典型的な、この大陸の女戦士のスタイルである。

「ところで、あなたはサムライ? ミナライ?」

さすがに女戦士のソフィアはよく知っている。

「僕は、ミナライだよ」
「でも素人じゃないわね」
「わかるの?」
「こうして話していても、八方への気配りを怠っていない。もうサムライになってもおかしくない気構えよ」

スリードは感心した。ちょっと会話しただけで、相手の力量を見抜く。このソフィアという女性は、相当の腕前であろう。

「驚いた。確かに僕は、もう少しでミナライの免許皆伝――サムライの資格がもらえるところだったんだ」
「やっぱり。でも、どうしてサムライにならなかったの?」
「それは……」

スリードは、師匠が失踪したこと、その行方を追って、アズラックに十日前にやって来たこと、今は情報屋を待っていること、などを話した。ただし、師匠が祖国から狙われていることに関しては伏せておいた。

「なるほど、大変だったんだね」

ソフィアが同情するようにうなずいた。

「実は、あなたに聞きたいことがあるの」
「聞きたいこと?」
「あなたのことについて興味があるのは、別に嘘じゃないんだけど……あなたをこのテーブルに呼んだのは、もっと別の理由」
「その理由って?」
「実はね、このアズラックに、サムライがいる……そんな噂が流れているの」

スリードはうなずいた。

「それで?」
「この大陸に、サムライってどれだけいると思う?」
「さあ……ただ、東の国々は基本的に、許可なく国外へ行くことを禁じているから……この大陸にいるのは、僕の師匠のように、国を脱出してきた犯罪者のような人がほとんどだと思うよ」
「じゃあ、数は少ない、と」
「うん」
「何でこんな話をしているのか、って言うと」

ソフィアはテーブルの上に、上半身を乗り出した。

「最近、淫魔王を復活させようとした祭壇跡に、サムライが姿を現す――という噂があるの」
「淫魔王復活の祭壇……」

先のテロ事件の際、邪教徒達が淫魔王を復活させようとして建造した、巨大な水上祭壇。しかしあれはもう――。

「あれはもう、守備隊の攻撃を受けて、水没したんじゃないの?」
「もちろん。だから、そのサムライは、水辺に現れるの。出現場所が、祭壇に最も近かった岸だから、みんなが不安に思っているわ。淫魔王を復活させようとしている連中が他にもいるんじゃないか、って」
「うん」
「で、このアズラックにいると噂されるサムライ、そいつと、湖に現れるサムライが同一人物かどうか、あなたの話を聞いて判断したかったわけ」
「どうだろう。ただ、多分そのサムライは――同じ人だと思う」

神殿跡に出没するサムライは、間違いなく、アズラックに潜んでいる噂のサムライと、同一人物だ。この大陸にほとんど存在しない以上、アズラックに二人も三人もいるのはありえない話だ。

ただ、スリードはそう簡単に認めたくなかった。噂に上っているサムライが、全て師匠のことであるなら……もしそうなら、どうして師匠は邪教徒の祭壇跡に現れるのか。何か師匠が良からぬ企みをしているなど、考えたくもなかった。

(嫌な予感がする……)

ふと、情報屋の安否が気になった。

「もしかしたら……あなたの師が、噂のサムライなのかも。そうそうサムライなんて、数は多くいないんだろうし……あっ、と。失礼。あまり気持ちのいい話じゃないわね。不穏な話なわけだし」
「いや、いいよ」

スリードは手を振りながら、内心、落ち着けずにいた。

師匠の行方を追ってこのアズラックに来たら、何やら様子がキナ臭くなってきている。何かが起ころうとしているのを、スリードは肌で感じる。その中心に、自分の師匠がいるのかもしれない。だとすると、迂闊にも、自分はその渦中に飛び込んでしまったのではないか。

ふと、自分は師匠のことを、何一つ解っていない――とスリードは気が付いた。師匠のことについては、東の国から逃げてきたこと以外、何一つ聞いていない。だから、師匠が何を考えていたのか、何を考えているのか、今の自分に解るはずがない。

そう感じた瞬間、スリードの不安は増幅した。師匠が自分を全く必要とせず、むしろ邪魔者として感じていたのなら……。闇雲に、かつての住処だったあのオアシスを飛び出してきたが、もしも師匠が邪魔と感じるのであれば、彼女は躊躇いもせずに自分を……。

「……」

情報屋は、まだ来ていない。

もうすぐ昼になろうとしているのに、姿を現さない。

「変だな……」

スリードが呟き、店の外を見ようと立ち上がった瞬間、

「きゃあ!!」

「あ、あれは!?」

女主人が悲鳴を上げ、オリガが気色だって立ち上がる。

店の扉が叩きつけられるように閉まり、鐘の音が激しく鳴り響く。その後、血まみれの男がふらつきながら店の中へと進み、膝から崩れて倒れ伏した。

「そ、そんな!?」

見覚えがある。情報屋だ。急いで駆け寄って抱き起こし、傷の具合を調べた。全身に引っ掻き傷があり、息も絶え絶えになっている。腹部に致命傷があり、臓物がはみ出ていた。

「どうして――どうしてこんな目に!?」

スリードの瞳が、混乱であちこちへと焦点がぶれる。師匠にやられたにしても、逆に今日到着する予定の忍者部隊に襲われたとしても、この傷はありえない。まるで野獣に襲われたかのような傷だ。

「う、ぐえぇ」

言葉にならない。情報屋は、死へと一歩一歩進みつつある。

「ば、化け物……化け物……」

情報屋は、それだけ言い残して、息絶えた。

「化け物……」

スリードは、その言葉を反芻した。どうも師匠は無関係らしい。

一体、何が起こったのかと思って、男の体をさらに調べた。三本連なった切り傷が、体のあちこちにある。一瞬にして、亜人種による仕業だと判断した。この大陸には、ウェアウルフ等の獣人が存在している。獣人に襲われた場合、この男のような死に様になる。

だとすると、この男は、別の事件に巻き込まれた、と考える方が正しいようだ。師匠の仕業ではない。

そこへ、スリードが属している東の守備隊、その分隊長が店の中に飛び込んできた。

「スリード! アズラックの全守備隊に、召集命令がかかった。獣人が町の中で暴れているらしい。すぐに来てくれ!!」
「この人は……」
「ああ、情報屋か。可哀相に、騒動に巻き込まれたようだ」
「なるほど。で、何で獣人は暴れているの?」
「食堂で飯を食べていたら、どこかの馬鹿が差別的発言をしたらしい。それでブチ切れている。情報屋は、隣のテーブルで聞き込みをしていたようだ」
「最悪。巻き込まれか」

直接狙われて命を落としたわけではないようだが、それにしても運がなさ過ぎる。

とりあえず、スリードはセリナに対し、死体の処理を手近の守備隊に頼むよう、指示を出した。

急いで現場へ向かおうと、店のドアに手をかけた瞬間、

「おっ、何だこれは」

酒場のボディーガードだろうか。だらしなく赤色の髪をロングにした濃い顔立ちの戦士が、情報屋の死体を脇にどけようと体を持ち上げた時、そのベルトに一枚の紙切れが挟まっているのを発見した。

スリードも気になり、戦士と一緒になって、紙切れを読んでみる。

「蒼麟 仲間あり 淫魔王?」

淫魔王――そのメモを読んで、スリードはハッとなった。水辺に現れるというサムライの噂。そして、かつてこの地を揺るがせた淫魔王復活計画

しかも、このメモの内容が確かなら、師匠には仲間がいることになる。

「師匠――」

やはり、師匠は何かをしようとしている。そのため、自分を捨てて、このアズラックに来たのだ。

「スリード、何やってるんだ!早くしろ!!」

分隊長に怒鳴られて、スリードは腰の刀に手をかけた。

(そうだ、僕は守備隊だ。今は自分の役目を全うしなければ!!)

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