【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1256話 軽傷者の治療

「おお……! すごいな、これは……!」

「みるみる傷が治っていく……」

「これほど治療魔法、見たことも聞いたこともないぞ……」

 人魚族の戦士たちが感嘆の声を上げる。
 俺が治療魔法を行使することで、彼らの負っていた傷が見る見るうちに塞がっていった。

「どうだ? 俺の治療魔法は役に立てたか?」

 俺は人魚族の戦士たちに尋ねる。
 彼らの表情を見れば、効果があったかどうかは一目瞭然だった。

「あ、ああ……。ありがとうな……」

「軽傷とはいえ、全治にはもう少し時間がかかる予定だった。おかげで、復帰を早められる」

「……この恩は忘れないぞ」

 人魚族の戦士たちはそう言って頭を下げた。
 よし、これで重傷者の治療にも応じてもらえるだろう。
 いや……その前に、左手や両足の『魔封じの枷』を外してもらう必要があるか。

「まぁ、恩に感じることはないさ。人魚族と人族はともにこの世界で暮らす仲間なんだ。困ったときはお互いさまだからな」

 俺はそう応じる。
 これで軽傷者の治療は問題なくなった。
 今しがた治療した戦士たちの忠義度も20を超えているし、治療岩の訪問は大成功と言っていいだろう。

「では、今日のところは『海神の大洞窟』に帰るか」

「はいですの。軽傷者の治療実績を元に、国王や元老院を再説得しておきますの。左手だけでも『魔封じの枷』を外す許可が下りれば、ナイ様の治療魔法をもっと活用できると思いますの」

 メルティーネは嬉しそうに言った。
 俺がその気になれば無理やり『魔封じの枷』や『闘気封印の縄』を突破することも可能だが、そんなことはしない。
 今回の行動目的は、俺が人魚族から信頼を得ること。
 小さなことから実績を積み重ね、拘束を少しずつ解いてもらい、活動の幅を広げていく。
 それが、ミッション『10人以上の人魚族に加護(微)を付与せよ』を達成する道のりだ。

「ここの責任者に一言挨拶してから帰ろう。ええっと……さっきの女性職員は……」

 俺は先ほどの女性職員を探す。
 彼女はすぐに見つかった。
 重傷者エリアで働いている。

「メルティーネは帰り支度をしておいてくれ。俺が1人で挨拶してくるから」

「お一人で大丈夫ですの?」

「大丈夫さ、問題ない。それに、こういうのは人族の俺ができるだけ1人でやった方が、活動の意義が高まると思う」

「なるほど……。そういうことなら、お任せしますの」

 メルティーネの一時的に別れ、俺は女性職員の方に近づいていく。
 すると、彼女も俺の存在に気付いたらしい。
 彼女がこちらに視線を向け、口を開く。

「おやおや……。ひょっとして、もうお帰りですか?」

「ああ。今日のところは切り上げさせてもらう」

「そうですか。やはり、人族に期待しなくて正解でしたね。これほど早々に治療を諦めるとは……」

 女性職員がため息をつく。
 俺に対する心象は最悪かもしれない。
 メルティーネ姫の紹介だから丁寧に接してくれているだけで、人族に対する偏見や嫌悪感は強いように思う。

「それは誤解だ。別に、治療を諦めたわけではない」

「ふん……。では、どうしてすぐに切り上げるのですか? 人族の治療魔法で、いったい何が救えると?」

「少なくとも、軽傷者全員の治療は果たしたぞ」

 俺はそう言う。
 だが、女性職員は鼻で笑った。

「あなたに軽傷者の治療を任せてから、まだ1時間も経っていませんよ。全員の治療など、できるはずがないでしょう」

「だが、事実として俺はもう治療を終えた」

「そんな嘘で油断させて……。何か企んでいるのではないですか?」

「そんなことするわけがないだろう」

 俺は反論する。
 しかし、女性職員は聞く耳を持たない。

「ふん……。こんな嘘をつくなんて、これだから人族は信用できません。ジャイアントクラーケンの件も、何かの間違いだったのでしょう」

「いや、俺は本当に……。そうだ、実際に治療を受けた戦士たちから話を聞いてみればいい」

「時間の無駄ですね。少なくとも、今は無理です。私はこれでも忙しいのですから……」

 そう言って、彼女は冷たい視線を向ける。
 やれやれ……。
 完全に嫌われてしまったな……。
 いや、俺が人族という事実だけで最初から嫌われていたというべきか……。
 まぁ、軽傷者の治療だけでもこなしたんだし、今はこれでよしとするか。

「とにかく、時間のあるときにでも元軽傷者の様子も見ておいてくれ」

「はいはい……分かりましたよ。後で見に行きますから」

 女性職員が面倒くさそうに言う。
 あまり期待できそうにないな。
 まぁ、軽傷者の経過観察も彼女の仕事のはずなので、放置したりはしないはずだが……。

「じゃあ、今日のところは帰るよ」

 俺はその場から立ち去る。
 そして出口あたりでメルティーネと合流し、『海神の大洞窟』に戻ったのだった。

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