【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1253話 余計な手は出さないでください

 俺とメルティーネは、人魚族の治療施設を訪れている。
 そこで働く女性たちに紹介してもらった。
 だが、彼女たちの表情には戸惑いの色が浮かんでいた。

「『ナイトメア・ナイト』……。ジャイアントクラーケンと戦ったという、あの……?」

「ああ。微力ながら戦わせてもらった。結果的には、勇敢なる人魚族戦士と共闘したと言ってもいいだろうな」

 俺はそう説明する。
 実際には、8割方のダメージを俺が与え、人魚族戦士たちは最後のひと押しをしただけだが……。
 彼女たちの警戒心を少しでも和らげるためには、これぐらいの説明にしておいた方がいいだろう。
 そして、『勇敢なる』という単語を用いて戦士たちをヨイショしておくのも忘れない。
 これが一番いいはずだ。

「そ、そうでしたか……」

 人魚族の女性たちは顔を見合わせる。
 俺の完璧な説明、そしてメルティーネ姫の存在のおかげで警戒心が少しばかり薄れたか……?

「失礼いたしました、ナイトメア・ナイト様」

 一人の女性が前に出て、俺に向かって頭を下げる。
 彼女は見た感じ、職員のリーダー格のようだ。
 口調や所作は丁寧だが……。
 その目は笑っていない。
 警戒、侮蔑、疑念……。
 そういった負の感情が読み取れた。

(まぁ、いきなり現れた危険な人族の男だからな。こういう反応も仕方ないか)

 メルティーネの紹介ということもあり、追い返されないだけマシだろう。
 俺は納得しつつ、彼女に告げる。

「では、何か手伝わせてくれないか?」

「しかし、失礼ですが……。ナイトメア・ナイト様は人族です。この場でできることは限られるのではないでしょうか」

「ふむ……。確かに、人魚族ほどテキパキと動けるわけではないな」

 俺はうなずく。
 メルティーネの加護により、俺は水中でも呼吸ができる。
 そのため忘れそうになるが、ここは海底だ。
 特殊な発光岩か魔法でもあるのか、深海でも視界は良好だが……。
 水中での細かな動きにおいて、俺は人魚族に敵わないだろう。

「だが、任せてくれ。俺は治療魔法を使えるんだ。魔力量も多くてな」

「そうなのですか? 確かにジャイアントクラーケンと戦えるほどの攻撃魔法を扱えるのであれば、膨大な魔力をお持ちなのでしょうが……。治療魔法まで扱えると?」

 女性職員が訝しむ。
 別に、変なことは言っていないはずだが……。
 それだけ、人族という種族への不信感があるということか。

「細かい話はあとにしよう。負傷者を見せてくれ」

「……では、まずこちらに」

 人魚族の女性は、俺とメルティーネを負傷者の元へと案内した。
 そこはケガ人の寝かされた空間であり、10名ほどの人魚族戦士たちが横たわっていた。

「ふむ……。それぞれ、手や足に傷を負っているな」

「はい。ナイトメア様は、こちらの軽傷者を中心に治療していただけますか?」

「もちろんだ。だが、重傷者の方は……」

「私が責任を持って治療しますのでご安心を」

 俺の疑問に、人魚族の女性は自信ありげな表情で答える。
 彼女は奥の負傷者たちの方を見る。
 そこには何人かの人魚族が付き添っていた。

「この場にいるのは、全員が尊敬に値する戦士です。人魚族の仇敵である、ジャイアントクラーケンの討伐に尽力してくださった戦士です」

「それは知っているが……」

「その中でも重傷者は、特に勇敢な戦士たちです。文字通り命がけで戦ってくれました」

「ああ。その通りなのだろう。……それで、何が言いたいんだ?」

 俺は疑問に思う。
 彼女の発言の意図が見えない。
 警戒、侮蔑、疑念などの感情も読み取れるが……。

「ナイトメア様の治療魔法が失敗すれば、重傷者の容態が急変する可能性があります。余計な手は出さないでください。メルティーネ姫様の面子のためにも、そこはしっかりとご理解いただきたいです」

「なるほど……。了解した」

 俺は素直にうなずく。
 それはそうか……。
 この場にいる戦士は里の英雄だ。
 その中でも重傷者には、称えられるべき貢献をした者も多いだろう。
 その戦士たちを治療している状況で、失敗が起こることは許されないというわけだ。

「もちろん、軽傷者の方々も偉大な戦士たちです。治療魔法に失敗していい……などと言っているわけではありません。しっかりとお願いしますよ。下手な治療魔法をかけるぐらいなら、帰っていただいても結構ですので」

 女性はそう釘を刺す。
 そして、彼女は重傷者の方へと行ってしまった。

「ナイ様……」

 メルティーネが小さくつぶやく。
 俺は安心させるように笑いかける。

「大丈夫だ、メルティーネ。こういうのは小さなことからコツコツと頑張るものさ。まずは、軽傷者をバッチリ治療していくぞ」

「……お願いしますの」

 そうして、俺たちは軽傷者の元へと向かうのだった。

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