【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1251話 治療岩(治療院)

「なぁ、メルティーネ」

「なんですの? ナイ様」

「本当にいいのか? 俺の右手をフリーのままにしても」

「もちろんですの。手枷をはめたままでは、できる仕事が著しく制限されてしまいますから……」

 俺たちは『海神の大洞窟』を出て、海中を移動していた。
 メルティーネはこれから俺を里の中へ案内するつもりらしい。
 そこはもちろん、海中だ。
 そして人魚族が普段生活している場所でもある。

「悪いな、運んでもらって」

「気にしないでくださいですの。人族のナイ様にとって、ただでさえここは移動が難しい場所。まして、枷をはめさせてしまっていますし、なおのことですの」

「助かるよ……」

 俺はメルティーネに運ばれていた。
 いや、正確に言えば彼女の部下数人が引く荷馬車のような乗り物に乗せられていた。

(拘束状況は……)

 俺は左手や両足にはめられた拘束具を確認する。
 拘束具自体が単純に重く、それだけで動きが阻害される。
 地上での感覚で言えば、左手と両足に小さめの鉄球が鎖付きではめられているようなものか。

 そしてそれ以上に拘束効果の大きなものがある。
 魔道具『魔封じの枷』と『闘気封印の縄』だ。
 これらはその名の通り、装着者の魔力や闘気を封じる効果を持つ。
 一般的に言って、かなり強力な拘束具だと言っていいだろう。
 ただし、装着者の実力次第では完全に封殺できないこともある。

(俺なら、この状態でも十分に動けるが……。無用な騒ぎを招くかもしれないし、黙っておくか)

 俺はメルティーネの加護により、水中でも呼吸が可能だ。
 チートで得た高い身体能力により、水中でもそこそこ動ける。
 さらには、つい先日に取得したばかりの『水泳術』『潜水術』『水中機動術』というスキルもあった。

 左手と両足が多少拘束されていても、俺ならば不便なく水中の移動が可能である。
 しかし一方で、メルティーネの考えが間違っているわけでもない。
 彼女の言う通り、そこらの人族が海中をまともに移動することは難しいことは事実だ。
 単に、俺の『ステータス操作』などのチートスキルが規格外なだけである。

「さぁ、ここですの」

 メルティーネは海中にある巨大な岩陰で止まった。
 かなり大きな岩であり、人魚族数十人は岩陰に入れることができるほどの大きさだった。

「ここは?」

「治療岩と呼ばれる場所ですの。人族の文化でいうところの治療院のようなものですの」

「なるほど。傷病者を治療する施設か……」

 俺は周囲を見回す。
 このあたりは確かに、人魚の里のようだ。
 海底に岩がいくつも見えている。
 それらは一見すると普通の岩だが、よく見ると少しばかり加工されているようだ。
 そして、それらの岩の密集度は高い。
 おそらくだが、人魚族がわざわざ運んできた岩も含まれているように思う。

(へぇ……)

 俺は内心で感心する。
 海底にある無数の岩が人魚族たちの住処だと思えば、なかなか面白い。
 岩を上手く加工して住居としているわけだ。

(まぁ、木材建築ほどの自由度はなさそうだが……)

 それでも、人魚族の技術力の高さは十分にうかがい知ることができる。
 彼女たちの歴史の中で、海底での生活に最適化された建築が自然と生まれたのだろう。

「この治療岩の中には、負傷者がいますの。普段はそれほど多くの負傷者が出るわけではないですの。でも、最近は満床となっていまして……」

「何か問題が発生しているということか?」

「はいですの。厳密に言えば、『発生している』ではなくて『発生していた』と表現した方が正確ですの。ナイ様もご存知のはずですの」

「ふむ……?」

 俺は首を傾げる。
 大量の負傷者が出るほどの大事件。
 それも、俺が知っているはずだと言う。

 そんなことが起きていただろうか?
 俺は完璧な頭脳を駆使して記憶を探っていく。
 そして、思い当たった。

「もしかして、子どもたちが『イタズラうんち大作戦』を勝手に決行していたのか!? くそっ! 俺はあれほど、『イタズラはバレないように準備万全にしてから決行するべき』と教えたのに!!」

「ええっ!? あの件はナイ様が糸を引いていましたの!?」

 俺は憤る。
 一方、メルティーネは困惑しているようだ。
 あれ?
 この様子では、俺の推測は外れていたのか?

「こほん……。その件は、後で子どもたちを問い詰めておきますの。それより、今は負傷者のことを優先しますの……」

「あ、ああ……。そうだな。それで、負傷者がたくさんいる理由はいったい何なんだ?」

 俺は気を取り直して、メルティーネにそう尋ねるのだった。

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