【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1162話 きれいなリオン

 俺は特大の聖魔法をぶっ放した。
 リオンを侵していた闇の瘴気も、これですっかりなくなっただろう。
 彼は今、上空からフワフワと降りてきたところだ。
 落下の衝撃でケガをしないようにと、俺が重力魔法を発動していたのである。

「ん……? あれ? 私は今まで何をしていたのだ……?」

 リオンがきょろきょろと周囲を見渡す。
 彼は首を傾げたが、すぐにハッとした表情を浮かべる。
 そして、俺に跪くような体勢になった。

「タカシ=ハイブリッジ様、私はその御力に感服いたしました。これまでの非礼をお許しください」

「ん? まぁ非礼というか……『ダダダ団』首領のお前には多少の苦労をさせられたな。龍神ベテルギウスもかなり強かった。おまけに、脱獄までしやがって……」

「はい……。全て私の落ち度です。闇の瘴気の影響で、研究欲を制御できなかったのです。申し訳ありませんでした」

 リオンが言う。
 研究欲か。
 確かに、リオンの行動原理はそこだよな。
 一般人を脅してゲラゲラ笑うこと自体を楽しんでいるというよりは、研究を最優先にした結果として一般人がいくら苦しもうと知ったことかと行動しているという印象だ。

「ずいぶんと殊勝な態度じゃないか。それに……闇の瘴気という存在を知っているような口ぶりだな」

「もちろんでございます。闇の瘴気に侵された者は、欲望や悪意を増幅させられ、理性的な判断ができなくなります」

「それを知っていながら、自分の瘴気を治療せず放置したのか?」

「その通りですが、正確ではありません。瘴気に侵された当人は自分の異常性を認識しづらくなる上、聖魔法などによる浄化を忌避するようになるものです。結果的に、欲望や悪意に従って好き放題に生きたり、他者から強制的に排除される例が多いようです」

「ふむ……」

 ずいぶんとリオンに都合の良い言い訳だ。
 ……と言いたいところだが、彼の言っていることは事実なんだよな。
 何を隠そう、俺自身も闇の瘴気に侵されたことがあったのだから。
 ブギー盗掘団や『白銀の剣士』ソフィアの件だ。
 あのときの俺は爵位を得るチャンスを前に武功を焦り、少しばかり暴走してしまった。

「事情は分かったよ。しかし、罪は罪だ。極刑はないにしても、この場で無罪放免とするわけにはいかない」

「おっしゃる通りでございます。私は一度、オルフェスに戻って然るべき罰を甘んじて受ける所存です」

「そうだな。それがいいだろう」

 俺は頷く。
 すると、リオンがさらに深く頭を下げた。

「場合によっては、私にハイブリッジ男爵領で働く許可を頂けないでしょうか?」

「え? いや、なんでそうなるんだ?」

 俺はリオンの申し出に戸惑う。
 すると、彼は真剣な表情で語り始めた。

「私はかつて、かの有名な『蒼穹の水晶』を手に入れようと考えたことがあります」

「『蒼穹の水晶』か……。それは現ハイブリッジ男爵領の西部――リンドウ付近の鉱山で稀に見かけられる水晶のことだよな?」

「その通りです。しかし、ブギー盗掘団との交渉が決裂し、私は東部のオルフェスに拠点を移したのです。こちらはこちらで魔導具や地脈が優れており、私は研究に勤しむことができましたが……」

 リオンが遠い目をして語る。
 なるほどな。
 人というのは、意外なところで繋がっているものだ。

「残念だったな。『蒼穹の水晶』はもう使用済みだ。俺のパーティメンバーの武器に埋め込んでいる」

 具体的に言えば、リーゼロッテが持っている『蒼杖ラファエル』だ。
 水魔法の出力や制御力を大幅に向上させる効果を持っている。

「それは構いません。同等の鉱石が手に入った際、私にほんの一部でも提供していただきたいだけです。研究が大いに捗りそうです」

「ふむ……」

「何より、私はハイブリッジ様の度量や才覚に感服しているのです! 私との交渉を蹴ったあのブギー盗掘団は、今やあなたの忠実な配下なのでしょう?」

「まぁそうだな。彼らは鉱山で元気に働いてくれているよ」

 リオンの行動原理は研究欲だが、ブギー頭領の行動原理は未知の光景をこの目で見たい、というものだ。
 方向性は違うものの、どこか似た空気を感じなくもない。

「私は研究がしたいのです! 自らの手で新しい世界を創り上げたいのです!! ハイブリッジ様、どうか私めをあなたの配下にしてください!!」

 リオンが跪きながら懇願する。
 俺としては、彼の言葉に嘘があるようには思えない。

「分かった。なら、ハイブリッジ男爵としてオルフェスの上層部に手紙でも渡しておくさ。『元首領のリオンはこちらで預かりたい』ってな」

「あ、ありがとうございますっ!!」

 リオンが感極まった表情を見せる。
 とりあえず、彼のことはこれで解決だろう。
 俺がそんなことを思ったとき――

「え……? 嘘……タケシ……?」

 呆然としたような声が聞こえてきた。
 その声のする方向を見てみると、そこには『三日月の舞』のリーダーであるエレナが立っていたのであった。

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