【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1144話 今のはお前を試したのだ…

 俺はラスボスのトリスータと戦いを繰り広げる。
 そして、激しい戦闘の末に倒した。
 これで世界滅亡の危機も去った。
 後は、ミティやアイリスたちと幸せな生活を送るだけである。
 ――そう安堵したのも束の間だった。

「え? 本の世界を再現する魔道具だって?」

「そうだよ? ……え、まさか、ハイブリッジ男爵は……そうとは知らずに参加したの?」

「あ、ああ……。知らなかったし、気づかなかった……」

 トリスタが驚き、俺はうなだれる。
 少しおかしいとは思ったんだよな。
 この建物は仮設の事務所に過ぎない。
 にもかかわらず、さっきまでこの部屋はかなり広大に見えていたからな。

 ひと悶着を終えた今は、なぜか普通の仮設事務所のような光景になっている。
 謎の人骨とかも、よく見ればただの作り物だ。

「ハイブリッジ男爵が許可してくれた魔道具や備品だよ? ええっと……ほら、これ」

「どれどれ……。あー……、確かに俺のハンコが押してあるな」

 トリスタが机から取り出した書類には、俺の印が押されていた。
 それは間違いなく、俺が許可したものに押される印鑑だ。
 誰かが勝手に押したわけではない。
 そう言われてみれば、俺が自分で押したような記憶がある。

 備品はともかく、魔道具は高価なものが多い。
 もっとも、厳密に言えば『本の世界を再現する魔道具』があるわけではない。
 視覚系、空調系、空間系など、多種多様な魔道具を組み合わせて本の世界を再現しているようだ。

「しかし、蓮華もこういうのが好きだったんだな」

「然り。本来なら、実際の悪を叩き切っていきたいところでござるが……。おるふぇすへの潜入は、妖精族の拙者には不向き故。とりすた殿の魔道具調整に付き合っていたのでござるよ」

 蓮華がそう説明する。
 トリスタは無類の本好きだ。
 しかし、蓮華はあくまでも代替手段として捉えている感じか。
 ミリオンズの本好きと言えばサリエだが、彼女は治療院の方で忙しいしな。

「魔道具の件は分かった。しかし、建造中の巨大図書館の建物はいったい何だ? 俺は許可した覚えがないぞ」

 これは大問題である。
 トリスタが本好きなのは知っていた。
 彼の知識や能力を見込み、文官としてかなりの権限を与えている。
 当初は文官見習いで、その後は平の文官で、今は文官のトップだ。

 トリスタがその気になれば、かなり好き勝手に口出しできるだろう。
 だからと言って、自分が好きな本絡みの件に多額の予算をつぎ込むのは、許容できない。
 ここはしっかりと、問いただしておかなければならないだろう。

「何を言っているのさ。前に、ハイブリッジ男爵に相談したじゃないか」

「そんなことがあったっけ?」

「うん。わりと最近だよ? ほら、ハイブリッジ男爵がリンドウの開発に力を入れている頃で……。今から1か月ぐらい前かな?」

「1か月ほど前……」

 俺は考える。
 キサラやトパーズをリンドウに連れて行ったり、俺とフレンダが仲良くなった頃より後かな?
 そして、聖女リッカが襲撃してきた頃より前か。
 そういえば、そんなこともあったかな?

「ほら、覚えているでしょ?」

「うーん……。あんまり覚えてはいないなぁ」

「…………はぁ。ハイブリッジ男爵の記憶力は残念すぎるよ」

 トリスタがため息を吐く。
 俺の記憶力がアレなことは否定しがたい。
 俺も、大切なことはメモをするなどの工夫をしている。
 自分の記憶力ってのは、あまり信用できないものだからな。
 しかしそれはそれとして……。

(トリスタのため息は何か腹立つな……)

 俺はハイブリッジ男爵領の頂点に立つ存在だぞ?
 ここは1つ、ビシッとした対応をしてやろう。

「ふん。言った言わないの水掛け論は、時間の無駄だ。証拠はあるのか、証拠は! 俺が許可したという確かな証拠が!!」

「……はぁ。仕方がないなぁ。じゃあ、これを見てよ」

 俺が追求すると、トリスタがまた別の書類を取り出す。
 それはリンドウ図書館の建設に関する資料だった。
 予算、設計、建築工数などのデータが載っている。
 そして――

「俺のサインがバッチリ入っているな」

「でしょ?」

「ふむ。そういえば、そんなこともあったような……」

 おぼろげながら、記憶が戻ってくる。
 確かに、トリスタが建設に関する相談に来た気がする。
 口頭での相談よりも後のことだ。
 そこで俺は、確かに許可を出してその場でサインした……ような気がする。

「ふっ……」

「ハイブリッジ男爵?」

「今のはお前を試したのだ……。貴族の俺に、見事な対応だったぞ。褒めてつかわす」

「え? ……ああ、うん。ありがとう?」

 トリスタが不思議そうな顔をしている。
 そんな彼に俺は、鷹揚にうなずく。
 どうにか誤魔化せたか?

 残念な記憶力を元に、部下に謎の追及をしてしまったが……。
 これで誤魔化せただろう。
 ……たぶん。

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