１１１４話　ビーチバレーボール対決

「ふふふー。チャンスボールだよー、エレナちゃん」

　ルリイが絶妙なトスをエレナに送る。
　その動きに合わせ、ルリイの豊満な胸が揺れている。
　素晴らしい光景だ。

「ふんっ！　いくわよ！　【フレイム・バズーカ】！！」

「なんの！　【キャット・レシーブ】にゃ！！」

　エレナから放たれた必殺の一撃を、サーニャが受け止める。
　まるで炎をまとったようにも見えるビーチボールが弾かれ――ニムへと飛んだ。

「はいっ！」

　ニムはそれを的確にトスする。
　彼女の身体能力は高い。
　ボールさばきにも安定感がある。

「いっくよ～！　【サンダー・シュート】！！」

　モニカが空中でバク転しながら強烈なスパイクを足で打ち込んだ。
　それは稲妻のように一瞬で敵陣に迫っていく。

「は、速いっす！？　くっ……！　【ロック・ブロッー……――ぐあああぁっ！！」

　テナが対応しようとするが、間に合わなかった。
　モニカの放ったアタックは、テナのブロックを突き破り、コートの隅に突き刺さる。

「くっ……！　また失点……！！」

「ふふーん、ですにゃ！　Ｃランク冒険者とか言っても、大したことないですにゃ！！　これでこっちがリードですにゃー！！」

　エレナが悔しそうにする一方で、サーニャちゃんは楽しそうな笑みを浮かべる。
　試合は白熱していた。
　意外にも、サーニャちゃんチームが優勢だ。

「うぅ……。まさか、Ｃランクパーティの私たちが劣勢なんて……。信じられないわ……」

　エレナたちはＣランクパーティである。
　それぞれが魔法使いなので、身体能力に大きく秀でているわけではない。
　だが、それでも一般人に比べると遥かに高い能力を持っているはずだ。
　魔力で体を強化できるわけだしな。

　彼女たちが劣勢な理由。
　それは、彼女たちが弱いのではなく、相手チームが予想以上に強かったからだ。

「にゃにゃっ！　【キャット・ドライブ】にゃ！！」

　今度はサーニャちゃんが華麗に跳躍し、素晴らしいスパイクを打ち込む。
　エレナたちの陣地のど真ん中を狙ったものだ。
　それは見事に入り、得点となる。

「ど、どうしてただの町娘みたいな子が、あんなに動きが素早いのよ……！？」

「しかも、パワーもあるよねー。わたしたちが反応できない速度で動くんだもんー」

「魔法は使えないみたいっすけど……。身体能力だけで十分すぎるほど強いっす！」

　エレナ、ルリイ、テナが順に言う。
　俺も意外だった。
　サーニャちゃんがこれほど動けるとは……。

　彼女は猫獣人だ。
　一般的に言って、獣人は純粋な人族よりも身体能力は優れている場合が多いと言われている。
　その例に漏れず、サーニャちゃんは運動神経抜群なのだろう。

「でも、いつまでも調子に乗らないことね！　はあああぁっ！　【アグニッシュ・サーブ】！！」

「にゃっ！？　しまったにゃ！！」

　炎神が宿ったようなエレナの強烈なサーブを、サーニャちゃんが弾いてしまう。
　まぁ、さすがの彼女でもミスをしてしまうことはあるよな。
　ボールは遠くに飛んでいき、そのまま砂浜に落ち――

「まだだよ！」

　――ることは、なかった。
　いつの間にかボールの近くに移動していたモニカが、それを拾ったのだ。

「ナイスです！　――とりゃあっ！！」

　大きく上がったボールを、ニムがジャンプしてスパイクする。
　その威力はなかなかに凄まじいものだった。
　見事、敵の陣内に決まる。

「くっ……！　どうしてこの２人もこんなに動けるのよ！？　Ｄランクのタケシに釣り合わないでしょ！？」

　エレナが動揺している。
　モニカとニムの身体能力はかなりのものだ。
　まぁ、あれでも相当に力を抑えているはずだが……。

「て、点差が離れていっちゃうよー」

「このままじゃマズイっす！　Ｃランク冒険者として、負けられないっす！」

　ルリイとテナが焦りだす。
　彼女たちは、エレナほど好戦的ではなかったはずだ。
　しかし、さすがに『町娘３人チーム』に負けることは想定していなかったのだろう。

「よしっ！　こうなったら、最後の手段を使うしかないわね！　みんな、いいかしら？」

「もちろんー！　こうなった以上、手加減なんてしていられないよねー」

「オレっちも賛成っす！　起死回生の作戦っす！　汚名挽回、名誉返上してやるっすよ！！」

　エレナ、ルリイ、テナが何かを相談し合っている。
　どうやら、奥の手を用意していたらしい。

（汚名を挽回し、名誉を返上したらマズイだろ……）

　正しくは、汚名返上、名誉挽回だ。
　俺はそんなことを思うが、口には出さない。
　このまま美少女たちの水着によりビーチバレーボール大会を観戦させてもらうことにしよう。